26:カロライナデスタバスコドッキリ飴はセンチネルにとって、ある意味生物兵器の範疇に入っているよね?

 残念ながらこの質問については、蘇小雅は明確な答えをもらえなかった。

 何思は自分の相棒の脆弱で敏感なセンチネルの腸胃に配慮するためではなく、彼の心の中に親密さの尺度を持っていた。蘇小雅は家族で馮艾保は親友だ。必要があれば、少しは友人を犠牲にして家庭の安寧を保てもいい、もっとも馮艾保は気にしない。

 しかし彼は長く考えたが、自分は馮艾保が一体何が嫌いなのかわからないことに気づいた。彼らは十年も一緒に仕事をして、彼のエンパスempathは何度も馮艾保の精神と情緒に触れたのに、蘇小雅が尋ねる前まで、彼はこの問題に意識してなかった……彼は馮艾保が好きなものなら大体わかるが、あいつが嫌いなものを完全に知らないし、何の手掛かりから推測することもできなかった。

「多分……辛い物かな?」考えた末、何思はそうとしか答えられなかった。

「辛い物を食べさせてもいいの?」蘇小雅は目を見開いた。

「できればしないほうがいい、センチネルの腸胃は敏感で脆弱だ。彼は体力の全盛期に入り、身体機能も多くのセンチネルよりも強いとはいえ、二三年前にある女の子が助けたお礼に、彼に一袋の飴を上げたことがあるが、彼は一つしか食べていないのに、口の中に傷口が出て二週間ほど続いていた。彼の反応能力が早いおかげで飲み込めなかったが、でないと彼は病院で何日か観察しないといけなかった」

「それは何の飴?」蘇小雅は口を塞いでおり、何思は彼が同情しているのか、それとも幸災楽禍というのか判断できなかった。

「カロライナデスタバスコドッキリ飴」何思は敬畏に近しい口調で答えた。

 例え馮艾保を目障りに思った蘇小雅でも軽く息を呑んだ。名高いカロライナデス唐辛子は、彼のような特別に唐辛子を好んでいない人でもその名を知っていた。今になってカロライナデス唐辛子は既に全世界で一番辛い唐辛子の一つじゃなくなったが、時間に影響させずに最も価値のある唐辛子だ!

「彼はその女の子に何をした?」

「それは……少し気まずかったな……」何思は鼻を触って、当事者の事情をあまり晒さない状況で語った。「その時は性的暴行犯がネットを通じて罠を仕掛け、未成年の少女をたぶらかしていたという通報を受けた。彼の顔はよくて喋るのが上手で、容易く女の子たちの機嫌を取って彼を信頼し、二人の間に愛があると信じさせた。彼は相手を誘い出して性的暴行を行い、その中の二人は彼と会った後に失踪した」

 暫くの後、失踪した少女の一人は下水道の排水溝付近で遺体を発見された。

 被害者の遺体は少し直視し難く、全身が裸の上に多くの打撲傷と骨折があり、顔は殆ど打ち砕けられ、歯は全部折られた。指の指紋は全て焼き払われ、二つのタトゥーと一つのアザが皮膚を剥がれて除去した。彼らは見た瞬間に死者の身元を確認できず、各署の行方不明になった少女の情報をチェックし、事件の届出人を尋ねてDNAを提供してもらい、照らし合わせた末に死者の身元を確認できた。幸か不幸か、死者の両親は早くから娘が失踪して通報したが、最後は遺体しか見つけられなかった。

 既に一人の死者が出てしまえば、もう一人の女の子の生死は、彼らがすぐに確認すべき問題になった。

「その事件は俺らに回した。とにかくその後は、行方不明になった少女はある廃棄の倉庫の中にいるという手掛かりを見つけた。俺らは当然ながら人を助けに行ったが、そしたら……うん……彼女は失踪したのではなく、その性的暴行犯にも会っていなくて、彼女はただ家出をしてエロチャンネルの配信者になったと気づいた。俺らが入り込んだ時、だって……何と言えばいいだろう、馮艾保はセンチネルだろう!彼はいつも最前線にいて、入る前から彼の表情がおかしいと思ったが、深く考えていなかったし、みんなも緊張していた。彼は何故か急にグズグズし始めて、時に銃に問題が現れたり、時に別の問題があって、俺が怒りそうになった時、彼は急に部屋のドアを蹴っ飛ばして入り込み、ちょうどあの女の子が下着を脱ぐ瞬間だった……」その事件を思い出すと、何思は思わずこめかみを揉んで、微かに胃が痛んだ。

「彼は……わざと?なんで?」蘇小雅は馮艾保のレベルはどれくらいのものなのかわからないが、S級のガイドと十年の間に相棒で居続けられるのは、必ず体質が特別に強いセンチネルのはず。更にこの前にレンが作った狭間ギミックの歯車の音が聞こえたと言うことは、彼の五感は普通のセンチネルよりも敏感であることを証明していた。

 つまり、馮艾保は絶対に部屋の中で何をしていたのかを聞いて、わざと時間を引き延ばして、そのタイミングを狙って部屋に駆け込んだ。

「上着を脱ぐことは半裸になること、直接的な性行為の前触れだ。女の子は未成年、だからここまで進行すれば、配信を見ている全員は未成年を猥褻した現行犯になった」詳細な法令には当然ながら、議論や弁護できる部分があるが、この法令に基づいて人を逮捕していた。

 未成年のセックスビデオを所持するだけでも重大な犯罪行為、現行犯として逮捕されるなど言うまでもない。

「つまり、君たちは女の子を見つけて、彼女を安全に家まで送り届けたが、その同時に彼女の『職業生涯』を壊したから、彼女はドッキリ飴を送った?」

「大体はそういうこと」何思はうなずいた。

「わからない」蘇小雅は眉をひそめた。

「どこがわからない?法令なのか?それとも……」

「いや、なんで馮艾保が食べたのかわからない」蘇小雅は腕を組んで、眉をひそめ、八十歳の老いた教授のような厳しい顔をしていた。「まず、一応飴のパッケージは変えられ、見た途端に唐辛子飴であることがわからないと推測しよう。だから一つの飴を取り出して食べることは可能だ。これは理解できる。次に、開けた時は匂いを嗅いだはずだろう?馮艾保はストロファンチンが揮発した匂いでさえ嗅げたのに、唐辛子の匂いが付いている飴がわからないのか?その日は風邪をひいて鼻を詰まったのか?」

 何思は啞然として頭を振り、蘇小雅はそれを見て頷き、指で三を作った。

「最後だけど、最も重要なポイントだ。プレゼントをあげる時は差出人もしくはその女の子が送ったという情報があるはず、せめて警察署ではこの荷物は問題がないと確認した後で、馮艾保と何思兄さんの手に渡るはずだろう?誰が送ったのか知ったら、馮艾保はそれが単純なお礼の品とは思わないだろう?」

「えっと……それは……」

「以上から、なんで馮艾保がその飴を食べたのかわからない。彼は自虐傾向があるのか?それとも単純に刺激が好き?もしくは僕は彼を高く評価しすぎた?」

 四つの質問が一歩ずつ近づき、そして何思は打ち負けた。

 もし向き合っているのが事件なら、何思は鋭くて頼りになれる。しかし、馮艾保を相手にすれば、彼は少し疎かになっており、その中の非合理的な部分を一度も意識しなかった。

「俺はそれを考えたことがなかった……」何思は呟き、最後にため息をついた。「そう言われると、俺がやめた後にあいつはどうすればいいのか、少し心配になってきた」

 蘇小雅は肩をすくめて、馮艾保は自分とマッチ度を測りに行きたいことを言わなかった。

「彼は大人なんだから、自分の行為に責任を取れる」蘇小雅は何思を慰めて言った。

 とにかく、何思が仕事を辞めた後に馮艾保は不注意で自分を傷ついて入院するか、もしくはこれから先に何思の仕事を引き継いだガイドがこいつに弄ばれるのかはともかくとして、今一番重要なのは土曜日の会食だ。

 時間は早く過ぎ、蘇小雅が結案レポートを出した日は丁度に彼らが会食を約束した日だった。

 朝から、蘇經綸は車を運転して蘇小雅を中央警察署まで連れてレポートを出しに行った。元々そんなに急ぐ必要がないが、蘇小雅は出来上がったものが家に残すのを嫌っており、一刻も早くこれを出せば、自分も安心できる。

 蘇經綸は自分の弟の性格をよくわかっており、彼も丁度に市場で買い物をするつもりだから、ついでに蘇小雅を送った。荷物運びにも手伝ってもらえるから、喜んで彼を送った。

 何思は休日になるといつも起きるのが遅い。馮艾保と約束したのは晩ご飯なので、彼はいつものように目が覚めるまで寝ていた。それで蘇家の兄弟だけ出掛けて行った。

 レポートを出し終えて、蘇小雅は兄を待たせたくないので、急いで外に走った。しかし、彼が中央警察署のドアを踏み出した瞬間、そう遠くない駐車スペースの中、兄は車から離れて街道の横に立ち、背が非常に高い男と話していることに気づいた。

 蘇經綸は一般的な男性の中でも、かなり高い方ではあった。蘇小雅の十八年の人生の中で、蘇經綸と同い年で彼よりも高い人は見たことがない、せいぜい彼と同じくらいだった。

 しかし最近は、蘇經綸より高い人が彼の生活の中に現れた。

 元々無表情だった蘇小雅は眉をひそめて、目を細めてその男は自分が推測している人なのか、はっきりと見ようとしていながら、急ぎ足で近寄った。

「やあ、何日ぶりだね」懐かしい声よりも早く感知できたのは、馮艾保の

 精神力と情緒だった。

 センチネルの精神力はガイドほどに活発で強くない。せいぜい自分のために簡単な精神シールドを立てるくらいだった。馮艾保もそうだ、彼の精神力はツタのように薄く身を覆って、蘇小雅を見た後は少し動いて、楽しくて悪戯っぽい情緒を出した。

「小雅、レポートを出し終えた?」蘇經綸は振り返って弟を見て、顔の表情は楽しくてリラックスしており、どうやら馮艾保との初対面はうまくいっていた。

「うん」蘇小雅はうなずいた。

「さっきは馮警官が入っていくのを見て、彼を呼び留めようかなと戸惑って、突然すぎるじゃないかと思った。元々は夜になれば会えるから、今じゃなくてもいいと思ったが、ちょうど道を塞いでいる車が近づいて、俺に駐車スペースを譲れと言われた。あの人が何を考えているのかわからないな。何故警察署の向かいでこんなことをするのか?」蘇經綸は蘇小雅と違って、非常に話しやすい人だ。彼は穏やかでフレンドリー、かなり人付き合いが得意である。例え弟は単純に音節を返しただけで、彼は自分で話し始められる。

「そうです、頭が固い人もいます。彼の目には駐車スペースしか見えず、警察署の看板が見えません!」丁度いいことに、馮艾保も話そうと思えば、延々と話し続けられるようなやつ、蘇經綸にとっては同類に出会った!

 道理で二人は数分でもう何十年も知り合った友達のように話していた。

「おう」蘇小雅はまたうなずいた。彼は道を塞いだ車を見ていない、恐らく馮艾保に驚かされて離れた。「まだ用事があるだろう?僕と兄さんはまだ用事があるから、それ以上に時間を取らせないでおくよ……」

「聞いたけど、馮警官……おや!こう呼ぶとなんか距離があります、阿保アバオもしくは小馮シャオフォンと呼んでもいいですか?」蘇經綸は熱心に尋ねた。

「阿保でいいですよ」馮艾保はすぐに従った。彼の顔は攻撃的なカッコよさを持っていたが、こうして目を曲げて笑っていると、優しくて親切のように見えた。「蘇兄さんは用事があるのなら、私は先に失礼します。夜になれば、あなたの家でごちそうさせてもらいます!」

「別に用事ってほどじゃないよ、ただ食材を買うだけだ」蘇經綸は手を振って、急に目を輝かせた。「そうでした!家にいてもつまらないから、警察署に来て事務作業をすると言ったじゃないですか?一緒に買い物に行きませんか?俺もあなたが好きなものも嫌いなものもわからないから、丁度いいですよ!」

「兄さん!」蘇小雅は急いで声を出して止めようとしたが、スピードで言うのなら、センチネルはガイドに負けない。

「もちろん!蘇兄さんが口を開いて誘ってくれたから、私はそうさせてもらいますよ。ですが夜になったら、またご飯を作ってもらいますので、少し調子に乗り過ぎたと思われませんか?」

 この人が生まれた時、言語機能は一番先に発達したのだろう!蘇小雅は恨みに思いながら馮艾保を睨んだ。


「調子に乗るとかそんなことはない、今日は俺があなたを誘ったから、あなたを楽しませるのが当然です!さあさあ、道中で話しましょう。晩ご飯のメインディッシュはローストビーフを作るつもりだが、それは好きですか?」蘇經綸はビッビーと車のドアを開けて、蘇小雅が助手席に入ろうとしているのを見て、急いで彼を止めた。「小雅、後ろで阿保と話して、彼はお客さんだ」

「おう……」蘇小雅は嫌々ながらも、どうしようもなかった。彼は兄のローストビーフが食べたい!「兄さんが作ったローストビーフはめちゃくちゃ美味しい」彼は馮艾保を睨んで作り笑いをした。

「偶然ですね、私は牛肉が好きです」馮艾保は目の前の子供を過度にからかうことなく、彼の意向に従った。

 空気は読めているな。蘇小雅は僅かにうなずいて、車の後ろのドアを開けて入り込んだ。

「さあさあ、阿保も早く乗って、この時間に市場へ行けば、ちょうどバーゲンセールに間に合います!」

「今行きます」

 ポンポンポン!三つのドアが閉まる音が鳴った後、一台の銀色の自家用車が三人を乗せて楽しく──いいだろう、三人とも楽しいわけではないかもしれない。蘇小雅は半分嬉しそうにして、残り半分は馮艾保が何か目的があると思いながら──市場へ向けて出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る