21:どうやって落ち着いてゴミを尋問するのか?

 同様の結論を出すかどうかはともかくとして、レンの手紙はおじさんに悩みを打ち明けているように見えたが、恐らく黎英英と簡正の死亡と関係していた。

 当然ながら、この過程のどこまでが偶然なのか、どこまでが意図的なのかは、アンドルー・サンガスを尋問し終えなければ判断できない。この人は彼の見た目通りに、脳細胞が全て戦闘本能に成長した人であってほしい。

「ちょっと待って、私にはまだ見せていない最新の情報がある」何思が尋問室に入ろうとしているのを見て、馮艾保は手を伸ばして相棒を止め、自分のパソコンで資料を投影した。

 これは軍部の資料、上には「極秘」という二つの赤い文字があり、映画の中でよく見かける機密ファイルの外観とほぼ同じだ。

「アンドルーが不名誉除隊処分を受けた原因?」何思は腕を組み、眉をひそめながら不愉快な口調で言った。「こんな時にラッセル中将に迷惑をかけるとは何事だ?」

「君が言うこんな時って、私の母が君を誘って、私と一緒に家に帰ってご飯を食べるという時?」馮艾保はそっと笑って尋ね、その口調には情緒纏綿とした味わいが含んでおり、非常に腹が立つ。

 「今はプライベートの話をする場合ではない。早くファイルを出して」何思は白目をむいて彼に答えた。

 馮艾保は悲しくて恨めしそうにため息をついて、『はぁ、誰かさんは甘い汁を吸った後、全然責任を取らない』『自分の魂を犠牲にしても君の優しい笑顔が見れない』のような無駄話を呟いた。蘇小雅は聞いていられなくて、エンパスempathでセンチネルの腹に向けて一発を殴り、その場で彼の言いかけた言葉を飲み込ませ、連続で何回か咳をした。

 訴えるように蘇小雅をチラッと見て、馮艾保はようやく口を閉じてファイルを開けた。

 何ページものファイルが広がり、何箇所は不透明な黒線を付けられて、一部の情報が隠された。幸い、全体的には読むことに妨げず、全員はすぐに資料を読み終えた。

 何思は鼻で冷たく笑って、顔にある嫌悪は完全に隠し切れなかった。

「彼はSGの崇拝者だけじゃなく、極端なセンチネル至上主義者、道理で不名誉除隊処分を受けたわけだ」

 簡単に言うと、アンドルーが軍隊にいた頃、例え彼の資質が最も優秀とは言えなかったが、かなり期待されていた。何せ彼のポテンシャルは非常に高い。軍隊に入ってたった一年半で、B級のセンチネルからB+級のピークセンチネルに成長し、さらにA級のセンチネルまで突破できる可能性があった。このような成長曲線は至って珍しく、軍部ではこのような人材を育てることを喜んでいた。

 その上、アンドルーの服従性での得点もかなり高い。どの長官の命令でも完璧に近い形に実行でき、まさにセンチネルの強みを最大限に発揮したと言えるだろう。五感は真に才能ある上級センチネルに及ばないが、体質と戦闘意識の面では、彼は少しでも劣らなかった。

 こんな人は、軍隊で素晴らしい未来を手にしているはずだ。

 しかし、彼は同室のガイドをレイプした。

 例え肝心な情報が伏せられ、軍部の報告も犯罪の過程を詳しく書かれていなくとも、冷たい傷害報告書だけでも、この事件はいかにも凶悪なのかを感じるには十分だった。

 被害を受けたガイドはアンドルー・サンガスの後輩、ブートキャンプから分配されたばかりで、蘇小雅より一つ年上の十九歳、B級のガイドだった。

 軍隊の寮は普通二人から四人で一部屋、アンドルーの部屋は四人部屋、他の二人のルームメイトは彼と同じ時期のセンチネルだ。彼らは平日から仲が良く、互いに前向きの評価を残していた。

 その日、二人のセンチネルのルームメイトはちょうど任務のために外出し、寮の中はアンドルーと新米ガイドしか残らなかった。誰もこんなことが起きるとは思っておらず、ガイドがようやく助けを求めることに成功した時、全ての暴行はすでに終わり、アンドルーは自分の寝室の中のシャワールームでシャワーを浴びていた。

 鎖骨が骨折し、肋骨も三本を折れて、両腕は開放骨折、片方の足の足首と膝は粉砕骨折、すねは開放骨折、肛門の裂傷、直腸は十五センチを引きずられており、頭蓋骨と眼窩の裂傷、片方の眼球が破裂……八ページに渡る傷害報告書、文字を読むだけで、足裏から頭のてっぺんに冷たさが走った。蘇小雅は半分まで読んだら耐えられず、顔を背けた。

 被害を受けたガイドが死ななかったのは、自分の運の良さか体の素質がいいわけではなく、完全にアンドルーが意図的に彼を生かしたままにしておいた。だって人を傷ついたところで牢屋に入るだけ、人を殺したら後片付けが難しいからだ。それに、アンドルーにとってガイドはそれなりに貴重で、男女問わず価値があった。彼は被害を受けたガイドを自分の絆を深めるパートナーとして調教するつもりだった。

 当然ながら、彼の計画は成功しなかった。軍隊はどうしても彼の悪行を放っておくわけにはいかず、例え面子のために大がかりに彼を懲罰しなかったとしても、それでも八年も彼を監獄に入れた。つまり、表では彼は十年を服役したが、実際のところ、その中の八年は軍隊の中の重犯罪者監獄の中に服役していた。

 被害を受けたガイドに至っては、資料の中で彼に関する殆どの情報は黒線で塗られた。彼は軍隊の生涯を続けず、すぐに軍隊から退役してどこかへ行ってしまったことしかわからなかった。

 蘇小雅と何思は両面ミラーに向けて見て、向こうには人類の皮を着せている獣が険しい表情をしていた。例え手錠に掛けられていても、少しもしょげる表情がなかった。その狂騒状態は、まるでいつでも目の前に現れて、一口で嚙み殺すかのようだった。

「精神力を使って彼の脳をダメにしないように耐えろよ」馮艾保はそっとからかって、タイミング良く二人のガイドを恐怖と嫌悪というネガティブの感情から引っ張り出した。

「心配するな。彼より気持ち悪いゴミを見たことがないわけじゃない」何思は浅い笑みを出し、深呼吸をしてから息を吐いて、自分の顔を揉んで、溢れ出す感情を隠した。「どう?」

 馮艾保は彼に向けて親指を立てた。

 何思はフォルダを手に取り、中には印刷したてのアンドルーに関する情報とレンとの手紙のやり取り、強力なエンパスempathは簡単なストレッチを行った後、ドアを押し開けて監視室を離れた。

 尋問室のドアが押し開けられた時、元々貧乏ゆすりをして焦燥不安なセンチネルは、急に全ての動きを止めた。

 急に彼が膝をテーブルに打ち付けるカチカチ音がなくなり、蘇小雅は居心地が悪くて怯えている感じになった。

「どうしたのか?」馮艾保は椅子を引いて、何思が座っていた位置に座った。置き所のない長い足を組んで、何やら面白いことを思い出したように、鼻を鳴らして笑いを出した。

「なんだよ?」蘇小雅はもう一個の椅子を引いて座り、今にも糸が切れそうなほど、極限に緊迫した雰囲気を持つ尋問室を見つめていた。

 何思はアンドルーに構わず、自分勝手に椅子を引いて男の向こうに座った。そして前歯が折れて、囚われた獣のようなセンチネルは、顎を上げて空気の中の匂いを嗅いでいた。

 馮艾保もそのような動きをするが、もしアンドルーをハイエナに例えるのなら、馮艾保はだらけたチーター……もしくはふっくらとしたゴールデンハムスターとも言える。

「君が足を組む時は、おチンチンの位置調整にどれくらいの時間を費やすのかを考えていた」

 このくだらない問題は何だ?蘇小雅は彼を睨み、返事したくないが、考えは思わず彼に引っ張られた。そういえばいつもはあまり意識しなかったが、男の性器って外的な器官だから、時々股間にはかなり邪魔かもしれない……

 違う!何でまた馮艾保に引っ張られていった!蘇小雅が反応してきたら苛立ちを覚えた。

「お前には関係ないだろう!」彼は呆れたように眉をひそめながら言い返した。自分のピンと張った気持ちは、馮艾保の意味不明な割り込みによって、その殆どが消え失せて、リラックスすることができた。

 馮艾保は肩をすくめて、両面ミラーに向けてどうぞというジェスチャーをした。彼は蘇小雅に、アンドルーに対する何思の尋問を傍観することに集中し、先ほどの彼の質問をなかったことにするように示した。

 アンドルーは鼻をすすって空気に向けて何回か嗅いで、最後は顔に生理的に受け入れられない笑顔を出して、前歯がなくとも歯並びがしっかりしているような感じをした口を開いた。「あなたには旧人類の匂いがする、かなり濃いだぜ。彼は昨日コンドームを付けずに、全部お前のお腹の中に出してしまったか?」

 旧人類という言い方はSG特有、主にセンチネルやガイドじゃないミュートのことを指している。周知の事実として、センチネルとガイドは遺伝子変異の範疇に入っていた。一般的な科学的見解は、進化の主な原動力は遺伝子の突然変異にあった。だからSGの崇拝者は、センチネルとガイドは人類が進化する前衛であり、この先人数は増え続け、そして変異できない人類は進化の奔流に飲み込まれ、センチネルとガイドの踏み台となり、だから彼らを旧人類と呼んでいた。

 そして科学者もそのように思っているかどうかは、SGは気にしなかった。

 何思は淡々と彼をチラッと見て、焦って怒ることも、恥ずかしくて怯むこともなく、まるでアンドルーの言葉は屁よりもひどい……少なくとも屁は臭い。

「あなたはアンドルー・サンガス?」何思はファイルフォルダーを開いて、十本の指を塔状にしてテーブルの上に置き、アンドルーの曇った凄まじい目と見つめ合っていた。

「何で旧人類を選んだ?大きさは十分なのか?硬さは十分なのか?楽しくなれるようにやれるのか?」アンドルーは完全に何思の質問を無視して、乾いた唇を舐めて、自分勝手に聞き返した。

「何で逮捕されたのか知っているのか?」と何思はまた尋ねた。

「さあ、俺様のフェロモンを嗅いでみて、どう?尻がムズムズして来た?さっき入って来た時に気づいたけど、お前は淫乱で、いい尻をして、ズボンもピチピチで、そのお腹の中に旧人類のザーメンがあって、ファックされたいだろう!」その言葉が口をついた途端、アンドルーの顔色は急に変化し、腰をかがめて激しく咳き込み、顔色は微かに赤くなった。

 何思は相変わらずに顔色も変えずに、ただ懐の中のハンカチを取り出し、ゆっくりと自分の口と鼻に覆った。「センチネルガイド管理条約の二三六条に従い、任意にフェロモンを撒き散らし、意図的に他人を操ったり、影響を与えったり、危害を加えたりした場合、暴行の現行犯として見なされる。俺の意味がわかったのか?」

 蘇小雅は驚きながら何思を見つめていた。兄のお陰で、彼と何思は長い知り合いだった。しかし、この前に何思は自分の刑事としての身分を隠し、自分は公務員だと言って、平日からは上級ガイドならではの冷たさと薄々な傲慢さがなく、むしろ非常に優しくて親しみやすい。

 何思が上級ガイドの態度を示したのを見たのは、これが初めてだった。

 アンドルーの眼差しには憎しみと恨みが含んでおり、彼の手は手錠によってテーブルの縁に掛けられ、お腹を覆うこともできなかった。額と鼻の先だけ冷や汗が染み出し、獰猛な表情に沿って流れ、かなり狼狽えているように見えた。

 どれくらい悔しくとも、目の前にいるガイドは明らかに上級ガイドであり、恐らくA++級以上、例え心の中に依然として何思を侮辱しているとしても、少なくとも冗談を続ける勇気がなくなった。自分は上級ガイドの前では好いとこ取りが出来ず、むしろ割に合わない可能性があるため、一層のこと黙って服従しないようにしていた。

「あなたはサンガス古着屋のオーナーだよね?」と何思は尋ねた。

 アンドルーは混濁で気持ち悪い、爬虫類のような薄暗くて冷たい視線で何思を見ていたが、口を割ろうとしなかった。

「あなたの甥っ子レン・チェスタは今年にホワイトタワーから卒業するセンチネルの一人であることを知っている。ここはあなたたちの通信記録だ」何思は二人の通信記録を広げて、その生徒会の写真を指で指した。「この女子学生は、あなたの店で買い物をしたことがあるのか?」

 アンドルーは依然として返事をせず、わざと何思に向けて唇を舐めて、下半身も上に押し上げた。

「この二つの服はあなたの店から売り出されたのか?」何思は見ていないふりをして、そして黎英英と簡正が死んだ時に着ている礼服の写真を差し出した。「あなたの店の監視カメラを調べたところ、ホワイトタワーの卒業舞踏会の三日前に、黎英英はあなたの店に現れ、そして一式のタキシードを手に取って会計をした、違うか?」

 また一枚の写真で画質は少しぼやけていたが、はっきりと死者の黎英英が見えた。彼女は背が高くて健康美な女性、生徒会の写真では既に清楚な顔に見えるが、彼女が古着屋にいるの時は機嫌が特に良いらしく、目の中の輝きは低画質でも隠すことが出来ず、鮮明で鮮やかだった。

 アンドルーは相変わらずに見るつもりがなく、真っ直ぐに何思を見つめ、粘った眼差しは彼の顔から細長い首にかけて、また続けて視線を下に落とした。彼がこの前に何回も話した何思の性生活に関することを思い出し、最後に視線はどこに落とすかは言えずともわかる。

 蘇小雅は気持ち悪そうに眉をひそめて、思わず馮艾保に「いつもこのような容疑者に会うのか?何とかならないのか?」と尋ねた。

「私たちは多くの奇妙な容疑者に会ってきたが、アンドルー・サンガスは一番気持ち悪い人ではなかった。それと、彼の言論と視線をコントロールできない、エンパスempathで彼を殴りたくともだめだ。でも私たちは彼を『ガイディングする』ことができ、もしくは彼が意図的にスピリットアニマルを使って攻撃してきた時、私たちも反撃できる」馮艾保の口には常に何かを含んでおり、監視室の中は煙草を吸うことができないため、だから彼はロリポップを口にくわえながら、蘇小雅に向けて大袈裟に手を広げた。「法治社会へようこそ」

「他に言いたいことはないか?」何思はまた何件かの証拠を見せたが、彼がどれくらい質問しても、アンドルーは頑なに口を開けずに、テーブルの隔てりを無視して、その気持ち悪い視線で何思のお腹をじっと見て、時々鼻をすすって匂いを嗅いだ。

「もし俺様のちんこを含んでくれたら、その安っぽい口にはどれくらいの価値があるのか教えてやる」アンドルーはそう言いながら下半身を激しく揺らした。椅子はカチ音を出して揺らぎ、テーブルも一緒に二回ほど震わせ、「淫らな男」

 蘇小雅は頭がブンとなったように感じ、中にいる何思はあまり反応がなかった。監視室の中にいるロシアンブルー紺はもう飛び出し、そのまま両面ミラーに飛び付いた。幸いなことに、両面ミラーにぶつかる前に馮艾保に捕まれ、腕の中に十数回も撫でられた。

「落ち着いて、眉ちゃん。余計なお世話をするな」

 一瞬の不注意で、蘇小雅はスピリットアニマルの間のシールドを立てるのを間に合わず、背筋は100%に馮艾保の手のひらの温度が感じられ、顔はさっと赤くて熱くなり、あと少しで紺と一緒に呻き声を出した。

「馮艾保!その手をやめろ!」成人したばかりの小さなガイドは我慢できずに、触れられたせいで力をなくした手で紺を奪い返し、目の中から涙が滲み出た。「待ってろ!次に君のネズミを捕まえたら、マウスとして使ってやるから!」

「いつでも歓迎するよ~」やんちゃの面で言うと、馮艾保は誰にも負けない自信がある。

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