22:どうやって人に対して殺意を持つことを証明できるだろうか?

 最後、アンドルー・サンガスは「俺の弁護士に会いたい」という一言を残した。その後、二度と口を開いくことなく、無駄話を話す気もなくなった。

 何思は彼にはどうしようもなく、ただ物を片付けて尋問室から監視室に戻った。ドアを閉じた途端、彼は抑え込んでいた怒りを爆発して、ドアの傍にある大きな木製の資料棚を何回か蹴り続け、両面ミラーの向こうにいるアンドルーがこっちの動きを聞くかどうかを構わずに、彼はその棚が落ちそうになるほどに蹴った。

 そして彼は手に持っている資料を強くテーブルに投げ捨て、腕を組んで沸騰した鍋のように息を荒らしながら、「もし俺が警察じゃなければ、もし俺が警察じゃなければ、俺は絶対にあいつをバカにするほど殴って、あいつの『硬くて太い、そして長い』ペンライトを折ってやる!」と歯を食いしばって言った。

「さあ、水を飲んで息を整えよう」

 馮艾保はとっくに飲み物を用意して、「極濃い!チョコレートクラウドコーヒー」という名前をして、非常に意味不明だった。さっき蘇小雅はそれを手に取って栄養表示を見たが、糖質量の高さのあまりについ首を引っ込めて震わせ、吐きそうな声を出した。

 何思は飲み物をチラッと見て、ふくれっ面で手に取って怒りを発散するように蓋を開けて、ごくごくと一気に半分くらいを飲んだ。

 これは600CCのボトル飲料、蓋を開ければすぐに安っぽいチョコレートの甘みがこの狭い空間に満ち、呼吸する度に砂糖を吸い込んでいるような錯覚を感じさせ、例えアリでもシュガーハイになる可能性があった。

 蘇小雅は自分がこんなに甘い飲み物を飲むことができないと自覚して、彼は匂いを嗅いだだけでぞっとして、腕に鳥肌が立った。しかし何思には効果的で、情緒と精神力が素早く安定して、八割の冷静さを取り戻していた。

 彼は息を長く吐いて蓋を閉じて、「ありがとう……」と言った。

「いいえ」馮艾保は瞬きをした。「彼の弁護士に知らせておいた」そう言いながら足を震わせて騒音を出しているアンドルーに向けて親指で指した。

「彼の弁護士は誰だ?」監視室の中には椅子がなく、そして何思はもうアンドルーを見たくないので、両面ミラーに背を向けてテーブルの上に座っていた。

「有名人、麒識チーシー法律事務所のスウスー、舒弁護士だ」馮艾保は舞台劇のような大袈裟な口調で弁護士の名前を出して、ようやく平静になった何思の表情はまた崩れた。

「舒璃似?なんで彼女が!」この弁護士は明らかに厄介者で、何思は驚きのあまりに語尾部分が割れてしまった。二口くらい息を整えた後、また飲み物を開けてごくごくと残りを飲み干した。

「この女性を知っている。彼女は刑事案件でかなり有名で、センチネルの客人しか受けず、勝率は86%に達していると覚えている」と蘇小雅は驚きながら言った。「しかしアンドルーはなぜ舒璃似と知り合っているのか?」

 何せ元々は司法府に行くつもりだったので、蘇小雅は当然ながら国内ではかなり権威的な法律事務所を研究したことがあり、その中で有名な弁護士についてもそれなりに知っていた。麒識法律事務所と言えば、国内最大な法律事務所であり、自然と一番有名で海外でさえも一定な人気があった。そして舒璃似は麒識の面目と言っても過言ではなかった。

 しかし殆ど例外のない方程式があり、それはいい弁護士であればあるほど値段が高いということだ。アンドルーは舒璃似を雇えるようには見えず、古着屋一年の収入だけでは舒璃似と何回かを話すことさえもできないだろう。

「あなたが言ったように、この舒璃似は面倒な人た。それに彼女はSG組織の代表弁護士だから、俺はアンドルーがその関係を経由して舒璃似と知り合ったとにらんでいる」何思はこめかみを揉んで、彼自身も血色を失っていた。「彼女なら、例え今は警察を襲った現行犯としてアンドルーを拘束したとしても、彼女がこの場に来てしまえば、俺らが隙をついてホワイトタワーの案件を聞くことは不可能だ。彼女はその機会を与えくれない。時間になったらアンドルーを警察署に送り、彼が警察を襲った罪で起訴するしかなく、ホワイトタワーの案件なんて考えるな!」

 何思はそう言いながらまた怒りに襲われ、つい空になったボトルをマーホア状に捻った。

 確かに黎英英は古着屋に行って服を買った。しかし監視カメラの中では、彼女はすぐに服を持って行かず、さらに自分の服を残した。この決断をする前は、黎英英が先に口を開いてアンドルーと話し、何かを言った後で服を残すことに決めた。

 その後、礼服はホワイトタワーまで郵送されたが、発送地点は古着屋ではなくランドリーだった。そこから推測して、恐らく黎英英は古着の上に汚れが付いていることに気づき、アンドルーにランドリーに送って処理するようにお願いして、そしてアンドルーもそれに同意した。

 この取引の内容には何一つ不自然なところがなく、服もアンドルー自身が届けたわけではなく、ランドリーが引き受けに来た。その前にアンドルーはランドリーにたった一通の電話をかけて、通話時間も五分だけだ。

「もし服はランドリーに送って洗濯してもらったのなら、なんで防腐剤がまだ残っているのか?」蘇小雅は手を上げて質問をした。

「これは良い質問だ。調査した資料によると、このランドリーには少し問題があるそうで、ここ数年間、彼らの商売は悪くなっており、一度は重い借金を抱えて、危うくは家の賃貸でさえも支払うことができなかった。しかし三年前に彼らの経営状況は急に好転し、例え客人が特に増えていなくとも、続々と借金を返済できた。そして三年前、つまりアンドルーが古着屋を引き継いだ二年目に彼は急に長年協業してきたランドリーを変更して、このランドリーと……ゾウ夫人ランドリーと協業し始めた」何思は手元のパソコンをタップして、同僚が調査した情報に関するやり取りを調べた。

「このランドリーには何かがおかしい」蘇小雅は直ちにそう判断した。

「確かに、もう少し時間をかけて調査に入り込めば、面白いものを掘り出せるかもしれない。しかしそれでも、直接にアンドルーは犯罪意図を持っていると判断するのも非常に難しい」馮艾保は肩をすくめて、蘇小雅が気にしない様子を見せているのを垣間見て、彼が口を開く前に「あなたが当てられることは私にも当てられる。ゾウ夫人ランドリーは必ず葬儀場と何やら人に知られたくない取引があるはずだ。葬儀場のスタッフが横領して、死者の服を剥がしてランドリーに売って、最後に古着屋に流れ込んだのも、または逆に古着屋が自分の服を葬儀場に貸し出して死者に着させ、その後また回収しても、アンドルーが不法利得したことしか証明できず、彼が黎英英に殺意を持っていることは証明できなかった」と言った。

 歴史を振り返っても、この「明確な殺意」を証明するのが最も難しい。

 手元にある証拠は全て状況証拠だ。アンドルーはもしかしたらSG崇拝者で、もしかしたら黎英英と簡正の二人のセンチネルが交際していることを知ってる。もしかしたら店の古着が汚されて、彼も確かにセンチネル至上主義のクズかもしれない。しかし、彼には明確な殺意を持っていることが証明できないし、黎英英と簡正は殺されたことにも証明できなかった。今のところ、事故のように見えた。

 そういえば、元々彼らは殺人容疑でアンドルーを拘束したのではなく、主な原因としては警察を襲った現行犯という罪があったからこそ、彼らは合法的にアンドルーを拘束できた。でなければ、アンドルーが協力しない、質問に答えない、もしくはすべてを否定した場合、彼らが持っている証拠では彼を引き留めることができなかった。

「今のところ、アンドルー自身が罪を犯した事実を認めなければ、私たちにはどうしようもなかった」そう言って馮艾保は手を広げて、万策尽きたような無力さを感じた。

「後で弁護士が来たら、アンドルー・サンガスの尋問は僕に任せてもいいか?」蘇小雅は悩んでいるような二人の刑事を見て、手を上げて勝ち取るように言った。

「おう?何かいい方法があるのか?」馮艾保は面白がるように好い子のような小さなガイドを見た。

「小雅、あなたはまだインターン生で経験がない、無茶をするな」何思は考えもせずに思いとどませるように言った。彼はアンドルーと交流を交わしたばかりで、この男はどれだけ気持ちが悪いのか承知の上だ。

「試しにやらせてみて、大丈夫、自分のことはちゃんと守れるから」蘇小雅は動じず、手も下げることなく、授業の時に自分の成績のために議論する好い学生のようだった。

「小雅、これは……」何思は当然ながら嫌がっていたが、彼が口を開いた途端、馮艾保は彼の言葉を遮った。

「いいよ、良いじゃないか?」センチネルは唇を尖らせて微笑み、「私はあなたがどうするつもりなのか気になっていた。言っとくけど、エンパスempathで相手の記憶を読み取ることや意図的に精神力を使ってセンチネルの認知能力を変えることは全て違法行為だ!」と言った。

「そんなこと言われなくともわかる!」蘇小雅は馮艾保に向けて白目をむいて、何思はまだ不賛成の顔をしているのを見て、彼はアンドルーの資料を指した。「さっきから考えているが、なんでアンドルーはあの時に彼の後輩を強姦したのか?殆どの資料は伏せられていたが、側面から推測できる。この被害者は誇りをもっており、その上に少し無邪気な人だ。なんでアンドルーはここ数年間に、他のガイドを見つけずに絆を深めなかったのかわからないが、僕は彼が好きなタイプを演じることはできるかもしれない」

「あなたは演じる必要がなく、あなたがそのタイプの人間だ」馮艾保は笑い出して、何度もうなずいた。「これは突破口だ。何をするつもりなのかわからないが、面白そうな気がした。試してみてもいい、子供は大きくなるものだ」

 最後の言葉は何思に向けて言った。

 何思はそのことに同意しないように馮艾保を睨み、結局は拒絶な言葉を口にすることができず、ただ振り返って自分がこの場に居ないふりをしていた。

 この時、監視室のドアはノックされ、一人の特捜班のセンチネルがドアを開けて頭を突き出して、「舒璃似が来た、少し会う?」

「わかった」馮艾保は立ち上がって手足を動かし、蘇小雅に向けて指をかがめて彼を呼び寄せた。「行こう、眉ちゃん。社会的地位が全国トップ3の弁護士さんを紹介してあげる」

 蘇小雅は慌てて立ち上がり、何思が俯いて自分を見てくれないのを見て、彼は彼に寄り添ってエンパスempathで何思に触れて、自分の申し訳なさと堅持を伝えた。

 何思は息を吐いて、同じようにエンパスempathで彼に触れた。

 蘇小雅は笑って、彼は何思に自分を応援してほしくて、「安全には気を付ける」と言った。

 この言葉を残し、彼は馮艾保の後について監視室を離れた。外はもう真っ暗で、警視庁の中の光は白くて、光線に照らされたこの空間は冷たくて厳しい距離感を感じさせた。

 外には高くて美しい女性が立っていた。彼女は深い色の正装を身に着け、殆ど血色がないほどに白い端正な顔立ちに幅の広い眼鏡をかけており、深い色の髪は後頭部でお団子にしていた。

「私は舒璃似、私の当事者はどこに居ますか?」冷たい口調は上に立つ者の圧迫感と傲慢さを伝えていた。全員は同じ平面に立っているのに、上から見つめられたような感覚を覚えた。

「ようこそ舒弁護士、お久しぶりです」馮艾保は全く抑えられたような素振りがなく、いつもと変わらない気軽さで舒璃似に向けて手を振った。「あなたが来たのなら、ちょうどうちの坊やもアンドルー・サンガスに質問があるから、彼があなたを案内しましょう」そう言って、蘇小雅を押し出した。

 レンズの後ろにある舒璃似の瞳は蘇小雅をチラッと見て、冷たく鼻で笑った。

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