14:独身男性と独り者の男が同じ部屋にいると、腹が減ったのも当たり前のことだろう?

 馮艾保は家に入ると、蘇小雅を案内することもせず、すぐに口うるさく文句を言い続けた。「金炳輝の匂いが全身についている……臭い……」歩きながら裸まで服を脱ぎ、最後に浴室に入って、バタンと音を立ててドアを閉めた。

 蘇小雅は彼の後について、そのセンチネルの広い肩と狭いお尻を見せた筋肉が発達した体形を見ていた。明るい小麦色の肌は色が均一で、淡くなったり、濃くなったりするむらがなく、光を反射できるほどきれいで滑らかな肌だ。スムーズで明確なラインが引き締めた筋肉を構成しているが、筋肉が過度に発達したことになっていない。

 同じ男性の観点から見ても、ガイドの観点から見ても、蘇小雅は馮艾保の体が羨望させられるものだと認めざるを得ない。筋肉が大きすぎるところや痩せすぎるところがなく、均整のとれたスタイルで、彼のぽっちゃりしてモコモコしたスピリットアニマルとはまったく違うのだ。

 この言い方には事実と合っていないところもある……。蘇小雅は目をやや細めて、地面に投げられた小さな布片を見つめた。その材質はビスコースらしい。先ほどまで、肌のようにその男の豊満で、上向きで引き締まった大臀筋を包んだ様子は絶景だと言える。

 ゴールデンハムスターのお尻と同じ、丸くて愛らしくて、思わず手を伸ばして触れたくなる……。

 無表情であっても、外見が未熟に見えても、蘇小雅はやっぱり成年した男だ。自分の美意識にあった肉体を見ると、頭に浮き上がったものは管理はずれになって、自然にエロい方向に滑ってしまった。

 しかし、目の保養とその人とセックスすることは別のことだ。今の時点で、蘇小雅は暫く目を楽しませれば満足だと考えている。その程度以上の欲望はまだない。

 今回馮艾保の入浴は非常に長い時間がかかった。その故、浴室内の人がまだ意識があるか、ドアを壊して救出する必要があるか、または電話で救急車を呼んで助けを求める必要はあるかを、蘇小雅は何度も精神力を用いてひっそり確認をせざるを得なかった。

 しかし、長い間待つことは本当に退屈だった。蘇小雅は再びバックパックの中の証拠物に注意を向けた。

 本来、規定によれば、証拠物の汚損や不正な改ざんを防ぐため、証拠物は今のように持ち歩いたり持ち帰ったりすべきではなく、真っ先に警察署に送り、ファイリングをしておかなければならない。

 しかし、さっき馮艾保と何思がまだホワイトタワーにいたとき、彼らはどう見てもあと一息で死にかけているような様子だった。この証拠物を入れた袋について、正しい取り扱い方を考える余裕はなかった。鑑識課のスタッフに渡して、送ってもらえることも思いつかなかった。

 でも、もう思いついた以上、今からそれを是正しても遅くない!誰かに電話して引き取ってもらうことをしてもいいだろう?蘇小雅はそれについて考え、電話を手に取り、特捜班に電話をかけた。当番のガイドが電話に出て応答してくれた。

 二人は少し会話をした。今夜何が起こったかを知った後、先方は馮艾保の家に来て証拠物を署に持ち帰って、代わりに入庫してファイリングできると答えた。

 中央警察局からは車で片道約十分かかる。蘇小雅は最終的な確認で急いで証拠物の数を数え、そして気になる証拠物のいくつかをもう一度観察した。また、ちょっと思考をした後、自分の携帯を出して、それらの証拠物の写真を撮った。後ほど家に帰ったら、もう一度チェックして、何か手がかりが見つかるかもしれないと考えたから。

 特捜班の同僚は間もなく到着したが、その時、家の持ち主である馮艾保はまだ浴室で鼻歌を歌いながら入浴していた!

「彼は大丈夫ですか?死者が亡くなる前にマインドスコープMind-scopeが崩壊したと聞きました。」やって来たガイドは三十代で小柄の女性で、アンジェリンという。彼女の優しいエンパスempathが蘇小雅のそばを通して部屋に伸び、馮艾保の身体状況を遠くから感じ取った。

「大丈夫みたいです」と蘇小雅は肩をすくめ、自分の知っている状況を素直に報告した。「汪監察医からもらった錠剤を飲んだ後、ずいぶん元気が回復したようだった。家に戻っても金教官が臭いと文句を言う余裕があって、借りた服を散らかって、浴室に入ってからずっと中にいます」

 毛穴の隅々まで洗うつもりかどうかわからないが、入浴するのをなかなか気が済まないようだった。

 これを聞いたアンジェリンは笑った。「彼はかなり元気のようですね。大きなダメージを負っていませんし、他のセンチネルのフェロモンを撃退するエネルギーもまだ残っています」

「上級センチネルはみんなこんな感じですか?」これは蘇小雅が何思に尋ねるのが恥ずかしい疑問だ。こんな時、暫く一緒に仕事することになる頼もしいガイドに出会って、その人に自分の疑問について説明してもらうのは一番いいことだ。

「はい」アンジェリンは頷いた。この時、二人はすでにリビングルームに移動しており、アンジェリンがチェックリストと照らし合わせて証拠物を確認しているところだった。彼女が注意を少し逸らして答えた。「特に馮艾保のような上級のうちのトップセンチネルはそうなんです。他のセンチネルのフェロモンを感じ取ると、本能的な反発が起こり、まるで自分の領域が侵害されたように感じがします」

 なるほど……それは犬がおしっこで自分の縄張りをマーキングするのと同じではないか?即座に、蘇小雅の頭の中にこの考えが浮かび上がった。顔は無表情のままだが、実は面白く思って、心の中でこっそりと笑い出していた。

「しかし、今は大きな問題がないようですが、それでもあなたに気を付けてもらう必要があるかもしれません。もし、馮艾保が突然昏睡状態に陥ったり、狂騒状態の症状が出たりする場合は、早期に病院に連絡する必要があります。あなたの経験が未だ浅いので、精神力を使って落ち着かせる試みをしないでほしいです」アンジェリンはてきぱきと証拠物を確認し、優しいけど、真剣に蘇小雅に注意を促した。

「わかっています」蘇小雅は頷いた。彼には特別な長所はないけど、自分の能力を過大評価することをせず、自尊心を守るためや自信すぎる関係で、助けを求めるタイミングを逃すことを決してないのだ。

 アンジェリンはエンパスempathが受けた感情の変化を感じ取り、目の前にいる若いガイドはごまかしていないことを確認してから、安堵して微笑んだ。「わかればいいです。これから私たちも暫く同僚関係となります。機会があれば、お互いを知るために、一緒に食事でもしましょう。」

「わかりました。ありがとうございます、お姉さん」 蘇小雅は甘い言葉を話す人間ではないが、社交的になるべき時は人との付き合い方も知っている。

 可愛い男の子に「お姉ちゃん」と呼ばれ、アンジェリンの顔は笑顔でいっぱいになった。

 アンジェリンは証拠物の提出と入庫、ファイリングを急いで進めるため、あまり滞在せず、すぐに立ち上がって別れを告げて去った。

 アンジェリンを送り出してから五分も経たないうちに、馮艾保はようやくのんびりして浴室から出てきた。バスローブを無造作に着て、ウエストバンドは緩んでいて結ばれていなかった。しっかりした厚い胸板、六つに割れた腹筋及び外腹斜筋のライン……。まあ、最小限度の下着は着ていた。ローウエストのビスコースのブリーフパンツは、重要な部分を適切に遮って、ボリュームある膨らみがかなり大きなカーブを描いた。

 この人はムダ毛を処理する習慣はあるだろう。その小さな生地を見ると、一本のムダ毛もはみ出していない。エロいだな。蘇小雅は心の中であれこれとくだらないことを思いめぐらしているが、顔の表情は穏やかで、少し真剣でも言えるほどだった。

 馮艾保がタオルで髪を拭いていると、細かい水滴が飛び散り、すぐに空気中には馮艾保のセンチネルフェロモンの香りで満たされた。

 蘇小雅は地面に散らかっている、金教官のフェロモンが依然として残っている衣服をちらっと見て、心の中で白目をむいた。

 また自分の縄張りをマーキングしているのか。

 話を戻すと、ゴールデンハムスターという動物の縄張り意識が強い。成年したゴールデンハムスターが二匹集まれば、その性別とは関係なく、セックスするか喧嘩するかになってしまう習性があるらしい。そして死ぬまで戦わないと気が済まないほどだ。

 馮艾保のますます強くなるフェロモンの匂いに耐えられなくなった蘇小雅は、シールドを強化して嗅覚を遮断せざる得なかった。そしてついでに、彼は立ち上がって、金教官の服をすべて片付け、折りたたんで自分のバックパックに詰め込み、ファスナーをしっかりと閉めた。

「坊やは気が利くね?」 馮艾保は完全に回復したようで、その二つの桃花眼を曲げてでたらめに言い始めた。「将来は間違いなく素晴らしいガイドになるだろう」

 ハハハ。

 蘇小雅は彼に白目を見せた。馮艾保が髪を八割乾かすまで拭き、バスローブのウエストバンドをしっかり結び、胸部の筋肉で形成された谷以外体をむき出す部分がないのを見て、蘇小雅は嗅覚のシールドを解除した。

 馮艾保の家のリビングルームはとても広く、三人掛け、二人掛け、一人掛けのソファがセットで揃っている。蘇小雅はとっくに一人掛けのソファを確保しておるので、馮艾保は二人掛けのソファに腰を下ろした。彼は持っているタオルを気の向くままにサイドテーブルに投げ、その長い足を気持ちよく組んで、顔に表情がない若いガイドを見つめた。

「誰かが来たか?」

「アンジェリンお姉さんでした。証拠物の入庫とファイリングのため、持ち帰られました」仕事の話をするので、蘇小雅も礼儀正しく答えをした。

「あなたは本当に礼儀正しい子だね。」 馮艾保はあくびをしてくすっと笑った。

「証拠物の信頼性を確保したいだけです」蘇小雅は仏頂面して、真剣な態度で答えた。「証拠物をどうするつもりでしたか?」

「何もするつもりはない」馮艾保は楽しそうに若いガイドをからかうように、にやりと笑った。「精神状態がほぼ回復したので、この事件の詳細を整理しようか?」

 馮艾保の提案に対して、事件について多くの疑問を抱えている蘇小雅は断るわけにはいかない。

「何か聞きたいことあるか?」蘇小雅が話そうとしているのを見て、馮艾保は突然手を挙げて彼を止めた。「待って、飲み物とおやつを用意してくる。食べながら話をしよう。」

 え?蘇小雅は信じられない表情で馮艾保がいそいそして立ち上がって、キッチンに入るのを見た。冷蔵庫の開け閉めの音、キャビネットの開け閉めの音、包装の袋を開ける音、皿に食べ物を載せる音などが聞こえてきた。そして最後に馮艾保の声が聞こえた。「眉ちゃん、手伝って来てもらえない?私一人でこんなに多くのものを運べないよ!」

 違うだろう?こんな時は飲み物とおやつを用意することより、バスローブでウロウロするのをやめて、着替えるほうを優先にすべきではないだろうか。なんと言っても自分はお客さんで、カジュアル服に着替えて接待してくれる礼遇ぐらいをするのは当たり前のことだろう?

 心の中で罵っているけど、蘇小雅がおとなしく言われた通りに立ち上がり、キッチンに入った。そして、戸棚の中いっぱいに詰まられた食べ物を唖然として見つめた。

「腹減った」若いガイドが不思議に思う目つきを見て、馮艾保は肩をすくめて説明した。「自分のマインドスコープMind-scopeを修復するため、多くのエネルギーを使ったから。今はほぼ普段の様子に回復したが、消費したエネルギーを補わなければいけない。信じてくれないなら、私のお腹を触ってみてください。ペコペコで平らになっているよ」

 蘇小雅は彼を一瞥し、調理台の上にある、十分間もかからずどうやって準備ができた食べ物を見て、不思議な力に導かれたように馮艾保のお腹に手を伸ばした。

 バスローブは非常に快適な素材でできており、軽くてフワフワして、まるで雲のような感触をしているが、それほど厚くない。少し力を入れて押すと、馮艾保の腹部に触れる……。蘇小雅は、少し前に見た彼の六つに割れた腹筋を思い出した。引き締まっているが、大きく過ぎず、明るい小麦色の肌はシルクのような光沢を持っている。

 最初の触感は硬い。柔らかい生地の下に立っている壁のようだった。

 それからは言葉で非常に表現しにくい弾力を感じた。ベルベットに包まれた鉄板のような感じと言うべきか、鉄板の中にベルベットを芯にしているような感じと言うべきか分からないが、とにかく触り心地は非常に良かった。体温はわずかに高めではあるが、熱くはなく、手のひらがまるで吸い込まれたかのように、蘇小雅は自分をコントロールできず、連続して数回こすった。

「気に入ったか?」馮艾保は避けず、気前よく蘇小雅が満足するまで触らせた。

「まあまあかな……」尋ねられると、蘇小雅は顔を赤らめたが、彼は心の中で考えていることを決して顔に出さず、わずかな赤みも見えるほどではなかった。彼は何もないように手を引っ込めた。「比較するための基準がないので、お腹が平らかどうかは分かりません」

 話し終わると、馮艾保のお腹から「グー」と音が鳴った。

 二人はしばらく顔を見合わせたが、蘇小雅は思わず吹き出して笑った。

「食べてもいいか?」馮艾保はお腹をさすりながら哀れそうに尋ねた。

「食べましょう。僕も少しお腹が空いています」これは馮艾保のメンツを立てるための言い訳ではない。蘇小雅はまだ若いので、今がちょうど一番よく食べる時期にいる。そして、波乱万丈と言えるほどの一日を送ったばかりだ。

 始めに、彼のスピリットアニマルは昼間に中央警察局で馮艾保のスピリットアニマルと戦い、その後ホワイトタワーで一人の人間の死を目撃した。彼はその間、水を一口も飲んでなかった。

 今、突然気を緩めると、実際に自分が疲れていて、お腹が空いて、喉も渇いているのを感じた。

「何という偶然だろう。あなたの分まで用意したよ」馮艾保が電子レンジの中で回している食べ物と、その横で稼働している電気調理器を指差した。ちょうどその時、食べ物の香りも漂って広がってきた。

 理由はわからないが、蘇小雅の頭には「人のものを食べると、厳しく言えなくなり、人のものをもらうと、手を柔らかげにしなければならない」ということわざが浮かび上がった。

 そうしようか。後ほど紺を出して、馮艾保にナデナデをしてもらおうか?

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