第19話 ウィズレイン



 ***


 一体、もといた司祭はどこに消えてしまったのか。

 正直なところ、エルナ達は最悪の事態も想像はしていたのだが、意外なことにも呆気なく捕らわれていた司祭の場所は判明した。


 一番の功労者はカカミ――エルナに祭りの日に傘を差し出した少女だ。

 教会に住んでいた彼女は、ある日司祭の入れ替わりに気づいた。もとは土塊とはいえ姿かたちが同じ存在だ。確信も、確たる証拠もない状態だったのだが彼女は夜半に教会を抜け出す司祭を尾行し、隠れ家を知ったのだ。


 偽の司祭は姿を似せることはできるが、本人の口調や知識を模倣できるわけではない。だからこそ、本物の司祭を生かし、少しずつ彼の記憶を引き出しつつも人々に違和感のない姿を演じるように努めていた。しかし人を監禁し生かすことは手間も時間もかかる作業で、その状態も長く続けるつもりはなかったのだろう。


 カカミが早期に入れ替わりに気づいたこと、また司祭が入れ替わったのはエルナの義姉ローラが自身の前世を偽証し、その噂が市井に広まった後であったため、長く時間が経っていないことも幸いした。


 エルナが教会を訪ねたそのとき、カカミは偽司祭の監視をかいくぐり本物の司祭を助け、二人揃って逃亡した直後であったのだ。

 だからこそ、司祭はエルナに消えたカカミの行き先を尋ねたのだろう。


 ――私もね、頑張らなきゃいけないことがあるの。応援してくれる?


 エルナに何かを伝えようとしていたカカミの姿と、その小さな肩を思い出す。

 雨が少ないウィズレイン王国では、降ったとしてもわずかなもので不便を感じつつも傘を使うという概念はない。傘はあくまでも太陽の下で使うものと考えられている。

 けれどもカカミは既存の常識に囚われることなく、雨の日に、傘を使った。誰にも気づかれなかった司祭の入れ替わりにも気づく彼女の柔軟な発想は、これから先、多くの者を救うに違いないだろう、とエルナは考えてしまう。



 ***



「ハルバーン公爵は名を使われていただけだ。関わりがないようで、何よりだった」と神妙に頷くクロスの顔を見ると、なんだかエルナは笑ってしまいそうになる。

 公爵が関与していた疑いについては、やはりエルナルフィア教と懇意にしていたため止まってしまった白羽の矢であることは明白ではあったが、ハルバーン公爵は自身の疑いを晴らすべく、粛々と椅子に座り込み真摯な瞳で聴取に協力したという。


 出てくるものは潔白の証明ばかりだったが、聞き取りを行うクロス、また役人達からすれば、声をひそめているはずなのに見事な複式で響き渡る公爵の声と、大きな身体に耐えきれず崩れ落ちた椅子を前にして、そんな場合ではないと唇を噛みしめることに必死であったそうだ。

 椅子が壊れた後も公爵はちょこんと座りつつ、話を続けようとしたものだから、慌てて中断し公爵専用の巨大な椅子が運び込まれた、というのはもはや後々まで語り継がれる伝説となりそうだ。


「水の中で見た記憶の中に、公爵の姿はなかったから大丈夫だと思ってたけどね」


 と、エルナは微笑みつつも柔らかな草を、そっと踏みしめさくりと歩く。

 一面に広がる緑の葉はさらに青々と色を変え、遠い景色の向こう側にはキアローレの大樹がそっとそびえている。ウィズレイン王国の冬の訪れは早く、そして短い。白い空はいつの間にか目が冴えるほどに青く、少し前に吐き出していた白い息が懐かしく感じるほどだ。


 冬の短さは、火竜であるエルナルフィアを祀るからこそと言い伝えられてはいるそうだが、エルナルフィアは、本当は冬は嫌いではなかった。もちろん、雨だって。変化するこの国のすべてが愛しく、そして変わらない自身が憎らしく、辛くもあった。


 エルナが歩くと、その後ろをクロスが追いかける。けれども足の長さからか、エルナが小走りに歩いてもクロスはゆっくりと、一歩の距離ですぐに追いついてしまう。


「……夏には、カルツィード男爵、またこの非道を知りながらも利権を得ていた者達にそれ相応の報いを受けることになるだろう」


 つまり、その中にはエルナの義理の姉や、その母も含まれることとなる。ふと、エルナは足をとめた。ぴたりとクロスと並びながら瞳を閉じ、息を吐き出す。クロスがエルナに伝えようとする意味は、理解していた。だからこそ、答えることができたのは、「そう」と一言きりだ。


「お前が人の命を奪いたくはないと願うことを理解はしている。全員の命を奪うことはないが、免れぬ者も中にはいる。そして、こればかりは譲ることができない。すまない」

「……人として生きるのなら、守らなければいけない法というものは存在することはわかっているよ」


 なんせ、あなたは王なのだから、と続けた言葉に、クロスはぴくりと眉を動かした。

 ざあざあと風が二人の間を通り抜け、エルナの赤とも、茶ともいえぬ髪とスカートをふくらませる。


「……ねぇ、クロス」


 その表情を見ると、どうやって伝えればいいのだろうと腹の内で回していた感情が、エルナの中で膨れ上がった。心臓がそっと音を立てて自身の指先にまで緊張が伝わる。どうした、とクロスは暗い顔をぱっと吹き飛ばし、エルナに笑いかける、が。


「あなた、本当はずっとこの国の王をしたいんでしょう」


 エルナの言葉に、ぱきりと表情を失った。


「……どういう意味だ?」

「あなたの弟に、王位を譲りたいと言っていた話。あれは、嘘なんでしょう」


 互いに正面を向き合い、眉をひそめるクロスを見つめ合いながら、慎重に言葉を選んだ。「ううん、行動は嘘じゃない。そうじゃなくて」 けれど、そのつもりだったのにばらばらと口から漏れ出ていく。


「フェリオル様を次の王にと決めている。けれどクロス、あなたは本当は、自分が最後までこの国とともにいたいに思っているに決まっている。だって大切なんだもの。ウィズレインと名前をつけた自分の子のような国が、愛しくないわけがない。大切に、大切に守りたいんでしょう、自分の命が尽きる、そのときまで!」


 エルナが叫ぶ度に、クロスは苦しげに顔を歪めていく。当たり前だ、この国が愛しくないわけがない。前世も、今も、そんなものは関係ない。混じり合う人格の中で苦しみながら、愛しいからこそ手放そうとする彼の苦しみや葛藤など、今はただの少女となってしまったエルナがわかるはずがない。けれど、愛しいと思う、その気持ちなら。


「手放すことをやめなさい!」


 わかるに、決まっている。

 何よりも愛しい者のために、エルナは竜の鱗を握りしめ、この国に、生まれ変わったのだから。

 かしゃん。しゃらり、しゃらり!


 空の上からガラスがこすれるような音が響いたのは、きっとエルナの気のせいだ。今はもうないはずの首から提げ続けていた鱗を握りしめるそぶりをした。そして、彼女の鱗はクロスの首元から垂れ下がっている。空の光を吸い込んで、きらり、きらりと瞬きクロスの胸元で鈍く揺れた。


 彼は、決して自身の動揺を悟らせる男ではない。なのにこのときばかりは口元をひきつかせ、「馬鹿な」と吐き捨てる。そうした自身に気づき、大きく息を吸い込み、常の顔をしてゆっくりと返答する。


「俺は、この国を心の底では自分のものだと思っている。そんな愚かな王が民を導けるはずがないだろう。あの貴族と同じだ。俺が、いや、ヴァイドが打倒したこの地を治めていた悪しき男とな! 俺は、たしかに英雄としての記憶を持ち合わせてはいる。しかし所詮は他人だ……あれほどの傑物ではない」


 エルナが、もう飛べなくなってしまったと嘆くように、クロスもまたただの男だ。記憶があるからこそ比べ、届かぬ手を見つめ張り裂けそうな感情を抑え込むしかない。


「……私も、国は王個人のものではないと思う。たしかに、間違っているかもしれない。けれど、そんなもの」


 エルナは必死で手を伸ばし、クロスの胸ぐらを両手でつかんだ。そして全力で引き寄せる。クロスの高い背が近づき、顔を見上げれば額と額が合わさるほどだ。


「思いたいなら、いくらでも思えばいい! いくら心の底で考えたところで、口に出さなければ誰にもわからない! あなたはただ、努力しろ! 愚王ではなく、賢王として、この、小さく、危うい国を守るように努力をし続けろ!」


 泣き出しそうだ。叫びながら、エルナはどんどんと瞳が滲んでいく。自分でも、なぜそうなのかわからない。過去を知り、苦しみ、それでも前に進もうとするこの男がエルナは好きだ。好きな男の名を知らなかったことが悔しくて、彼の長い名を心の内に刻みこんだ。彼は、ヴァイドだ。けれどもクロスでもある。老成した勇者でも英雄でもなく、まだ若く人生という旅路に苦しみ迷うばかりの青年だ。


「自分が、愛しているものを、手放すな……」


 クロスの服を掴む指先を震えて、涙で声がかすれていく。クロスはただ呆然としている様子だった。エルナは即座に鼻をすすり、すぐに溢れた涙を手の甲でぬぐった。そうして再度クロスをひっぱり、「だから」と、まで言って、ここまでの勢いの良さは唐突になりをひそめてしまった。クロスは訝しげにエルナを見つめ、エルナはぱくぱくと口を何度も動かす。


「だ、だだ、だか、だから!」

「お、おう」

「く、くろ、くろ、くろくろ」

「くろくろって何だ」

「クロスが!」

「俺だったか」

「クロスが、自分が、間違わないか、不安、ならっ!」


 覚悟を決めた。

 ごくん、と唾を呑み込んで。


「私が一緒にいる!」


 ……勢いづいて言ってしまった。

 未だにクロスはエルナの真意を捉えることができずに首元をひっぱられつつも不思議そうな顔をしている。

 クロスがエルナを止めてくれたように、今度はエルナが、といった意味の言い訳でも、なんでもできる。けれども本質はそうではない。ここでエルナはライオネル・ハルバーン公爵のことを思い出した。炎の魔術を使うものは、熱く、一途な者が多い。自分がそれに当てはまるかどうかはわからないが、とにかく今は身体が熱い。


「だ、だか、だから」

「ん……?」


 きょとんとしているクロスを見て、自分からさんざん言ってきたくせにと、とにかく悔しくなってしまうが、ここまできたらもうどうにでもなれ、とエルナは考えている。体中にぐるんぐるんと炎の魔力が巡っているような気分だ。というか、多分そうなっている。なんせ、指先から、耳の先まで、大変なことになっている。エルナの顔が、ずんずんと真っ赤に染まっていく。


「――あなたの嫁になるって言ってるのよ!」


 想像よりも大声になってしまった声が、原っぱの中をかけぬけて、わんわんと響く。こんなの空に飛んでいる鳥まで驚き落ちてしまいそうだ。叫んだ相手はというと、ただただぽかんとしていた。そんな顔を見て、こいつ、と思う。このやろう。ばか。おおばか。ばか!


 エルナの頭の中で貧弱なボキャブラリーでクロスを罵っていると、「い、いや、それは、その……」 なぜかクロスがたじろいでいた。エルナから顔をそむけて、口元を手の甲でぬぐっている。


「……結婚するかって今までさんざん言っていたじゃないの。まさか冗談だったの」

「そ、そんなわけはない。常に俺は本気だ。でも、なんだ、こう、いざ、そうなると、すまん。……待て、お前、いいのか? 婚姻だぞ? つまりこう、嫁になるんだぞ?」

「わかってるわよ。王族との結婚がどれだけ大変なのかってことくらい。そんなのエルナルフィアの名でも出して不満も不平もはねのけてやるわよ。私は使えるものは何でも使うわよ」

「いや違う。そうじゃなくてな? それもあるがな? あるだろう、他に色々と」

「色々?」


 まるで少し前に話したときと反対だ。結婚しよう、というクロスに、エルナはどうしたものかと困惑していた。だから、彼が言いたい気持ちはわかる。なのでさっくり伝えることにした。


「私はクロスのことが好きだもの。一緒になれたら嬉しいに決まってるじゃない」


 その瞬間、クロスは落ちた。エルナの手から逃れ、物理的にも落ちた。原っぱの中に尻から落ちてそのまま座り込み、まるで苦々しげな顔をしているように見えたがよくよく観察すると耳の端が真っ赤に染まっている。なので、エルナもよっこいしょと隣に座りながら、過去の英雄の記憶を持つ青年を見つめる。


 ちなみに、エルナの服のポケットにはあいかわらずのハムスター精霊が存在していたが、ちょこっとポケットから顔を出して状況を把握し、『今はだめなやつでごんすっ!』と勢いよくひっこんだ。しかしエルナ達の周囲でどうしたどうした、と言わんばかりにやってくる精霊達に、『しーっハムでごんす! しー、しー!』とちっちゃなピンクの指先を手のひらごとちょんちょんしてなんとか場を統一していた。エルナはそんな騒動は見ないふりをした。


「……こんなことを言うととても恥ずかしいんだが」


 いつの間にか座りながら立てた膝の中に顔を埋もれさせて、赤い耳だけ見せるクロスの隣で、どんな恥ずかしい話がくるんだろう、と身構えつつも「うん」とエルナは頷く。「……お前を最初に目にしたとき、エルナルフィアだと気づいたわけだが、同時にな? なんと愛らしく美しい娘だとも思ったわけだ」 そして想像よりも恥ずかしかった。気持ちをごまかすためか、エルナの口元がつん、ととがってしまう。


「いや、見かけの話などどうでもいい。愛しく思わない者に婚姻の話など持ちかけるわけがない」


 ……どうにも回りくどい返答である。「……俺も、お前が好きという意味だ」と思っていたら、真っ直ぐすぎる瞳を向けられ、エルナはわなないた。


 心臓がおかしいくらいに音を立てている。

 英雄とされる男は、火の竜の相棒であり、家族であった。そして言葉では表しきれないほどの信頼と愛情で結ばれ、その紐は今でも固く、緩むことはない。けれど――けれど。ここにいる者は、人と竜が入り混じった少女と、自身の道に悩む、ただの青年だ。


 お互い真っ赤な顔で見つめ合って、なぜかぎゅむっと二人で同時に目をつむって、いやいや違った、とそろり、そろりと瞳を開ける。窺うようにエルナはそっと青年を覗いた。クロスは笑っていた。


「……まるでりんごだな」


 そう言ってクロスはエルナの頬を撫でて、整いすぎるくらいに精緻な鼻梁をするりとエルナに近づける。気になって、ポケットの中からこっそりと顔を出していたハムスター精霊が、はわわと大きなお目々を見開き、慌てて丸まり顔を隠そうとした、そのときだ。


 雨が、降った。


「えっ、な、何……!?」

「これは……」


 ざあざあと溢れる音を聞いて、初めは雨だと思った。けれども違う。

 黄色い花の花弁が、どこからか溢れ出て、まるで大粒の雨のようにエルナ達の視界のすべてを埋め尽くした。ずんずん、ずんと地響きのような感覚に震えて地面に手をついた。もはや空から降っているのか、それとも地面から湧き上がってくるのかわからないほどで、「うわ、うわ、うわ!」と思わず両手を振ってしまう。「落ち着け」とクロスに手首を掴まれて驚いてくっついている間に、クロスのネックレスが浮き上がり、髪が舞ってしまうほどの風が吹き荒れ、思わず瞳をつむる。


「エルナ、見ろ。竜だ」


 けれど、竜が飛んでいるというクロスの言葉に瞬いて、顔を上げた。花弁が集まり空を飛びながら、遠い雲の向こうへ渡っていく。しゃんら、しゃんら、しゃんら……。不思議と、ガラスの音が鳴り響いているような気がした。


「……一体、なんだったの……?」

「キアローレの大樹の花弁だ。春になると一斉に吹き荒れるが、昔よりも、すごいことになっていると言っただろう?」

「言っ……てた、けど。けども!」


 あっさり流すレベルの話ではなかった。

 たしかに木は大きくなっているが、まさか原っぱすべてを覆い尽くすような大規模なものに変わっているなど、誰が考えるだろうか。


 思わず責めるような気持ちでエルナはクロスを睨め上げたが、大樹の花弁に仰天するあまりに、クロスの膝の間に入ってしまっていたことに気づき、瞬時に猫のように飛び出した。すっぽりあいて寂しくなった腕を見つめ、クロスは呆然と自身を見下ろしている。なんだかちょっと可哀想なような。


「…………」

「…………」


 互いに無言のまま、とても奇妙な間があいてしまった。よく見ると、すべての花弁が飛び去ったわけではなく、お互いとこどころ体中にくっついてしまっている。金の髪に色が埋もれて分かりづらいが、クロスの頭にもくっついていた。そろそろと、エルナはゆっくり手を伸ばしてそれをつまむと、勢いよく向こうの腕が伸びた。両腕を掴まれて、じっと眉を寄せながら見下される。もちろん、逃げようと思えばいくらでもできるわけだが。


 逃げられなかった、という言い訳は少しほしい。


 影と影の口元がわずかにくっついたときに、「あーっ!」とどちらともなく大声を上げて飛び跳ねて距離を置いた。エルナは原っぱの上で真っ赤な顔で転がりながら、両手で顔を覆っているので、クロスが果たしてどんな格好で、どんな顔をしているのかはよくわからない。


「これは、ちょっと性急すぎやしないか……?」


 けれども聞こえた情けない声を聞いて、なんとなく想像ができるような気もする。


「うん。私も、そう思う……」

「いいか。スローだ。俺たちはスローでいこう。少しずつだ」

「少しずつにしよう……そうしよう……名案だ、耐えきれない」

「俺は別の意味で耐えきれないかもしれん」

「何か違うような気もするけど意見が合って本当によかった」

「しかし最終的には嫁にする」

「よっ、よめっ」


 と、思わず反論しそうになって、ごくん、と唾を呑み込み、「……に、なる」「よし」と満足げな声を出すクロスの言葉を頭の中で何度も反芻した。

 ふと息を吐き出し、寝転がったままに空を見上げた。ゆっくりと雲は流れ、風が頬をくすぐる。


 そろそろいいかな、と思ったらしいハムスター精霊は、ちょこちょことポケットから出てきて、エルナの頭をくしゃくしゃにしながら遊んでいた。なんとなく安心して、同じく寝転がるクロスの指に手を伸ばす。すぐにぎゅっと手のひらを掴まれたから、ほとりと胸の中から落ちた水が、体中に染み入るようだ。


 竜であるときは、何でもできるものだと思っていた。けれど、エルナはただの人となり、少女となった。竜としての気持ちを引きずりながらも、人としての道を歩んでいく。その隣には、クロスがいてほしいとどうしても願ってしまう。


「そうだな、守らねばな」


 誰に対して、話しかけたわけではないのだろう。ぽつりと呟くクロスは、どこか覚悟を決めたように、金の瞳に、空の色を写し込んでいた。


「愛しているのだから、手放すわけにはいかんな……」


 何、とはっきりと告げたわけではないけれど。

「そうだね」とエルナは伝えた。


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