叔母への報告、店内の片付け

親方からコーヒーを頂き、気力充電。

街中の探索を再開する。


他にも老舗料亭の階段を駆け上がって女将さんの無事を確認したり、

商店街の店などに声掛けしたり。

多くの方々と再会し、無事を喜び合った。


湊ほどではないが、街中もなかなか惨憺たる光景だった。


石巻小学校前に流れ着いていたバス停表示板・・・渡波駅?

土台がコンクリなのに、ここまで流れ着いているとは。

津波の押し引きとはいえ、どれだけ凄かったのだろうか。

想像を遥かに超えた状況に、全身の毛穴が開く。



最初の移動時には気付かなかった部分が多すぎて、思考が整理できない。

街の機能は完全に停止している。

音という音が完全に消えている。

俺と同じように、移動している人が大勢いるというのに、だ。


地盤が他より低いからか、石巻駅前は依然として水没したまま。

駅前を通過し、警察署前を通って山の上へ。

叔母宅へ顔を出し、無事を報告しなければ。


「おばちゃーん!無事ー?」

無事辿り着き、大きな声で叔母を呼ぶ。


『ああ、アンタは無事だったんだね。お父さんたちは?』


「俺が行った時にはもう居なかった。ただ、布団が暖かかったから

 中学校に避難して、もしかしたらヘリで日赤に搬送だったのかも。

 ホラ、親父ガン3つと戦闘中だからさ」


そう、親父は震災前から食道・胃・肺と3つのガンを抱えて治療中だった。

『年齢的に、ガンの進行は遅い。痛みは耐えられるから大丈夫だ』

親父は普段からそう言っていた。

緩和治療を受けず、進行を抑制するだけの治療を貫いていた。


今更ながら、本当に凄い人だった・・・強いなぁ。


叔母の家を出て、警察署付近にあるバイクショップへ向かう。

従兄が営むバイクショップだ。

着いた時には、ちょうど仙台から駆け付けたもう一人の従兄と共に

店内の片付けをしているところだった。


俺もその作業に加わり、3人で黙々と店内を片付ける。

津波はここまで到達していなかったのが幸いし、片付けは重労働ではなかった。

車両も2~3台倒れた程度で、整備預かりの分は無傷。


・・・最も、散らばった工具やボルト類を拾い集めるのは地味にキツかったが。



作業を終え、店内で一服しながらしばし語らう。


『お前、これからどうすんだ?』

「叔母ちゃんに無事を報告したし、今日は大街道の自宅へ戻るつもりだよ。

 親父達は無事だと思うけど、自分の目で確認しないと・・・何ともね」


『なら、俺はこれから仙台に戻るから・・・後ろに乗ってくか?』

そう言って店の外にあるバイクを指さす。

泥だらけになった、モトクロス車両。


あー、成程。コレに乗って来たのか。道理で泥の中でも来られる訳だ。 



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