湊アタックからの帰還

看護学校前にメディカルバッグの山を作った後、国道398号線を駅方面へ進む。

道路脇は流された家屋、壁を抜かれた家屋、車両、自転車、そして数多の御遺体。


周辺の方が御遺体の場所を周知するために、自主的に動いて下さったのだろうか、

御遺体の脇に赤いビニールテープが結ばれた棒が立てられていた。


何本も、そう、何本も。



湊地区の中通りは壊滅的で、国道では多くの避難者と行き交う。

そんな中、視界に見覚えのある姿が映り、足を止める。


中学・高校の同級生。

高校では陸上部のチームメイト、リレーメンバーとして同じ時間を過ごした仲間。


歩み寄りは次第に速度を速め、お互い何も言わず、泣きながらガッシリ抱き着く。

ああ・・・良かった。共に戦った仲間が生きていてくれた!


「お袋さんは無事か?」

「ああ、無事だ。お前の方は?」

「親父もお袋も無事だ。昨日、日赤にヘリ搬送された」

「・・・そうか、とりあえずってとこか」

「ああ、そんなところだ」


言葉少なに情報交換し、どちらともなく片手を上げる。


ハイタッチし、拳を合わせ、最後に拳を握ったまま手の甲を力強くぶつける。

高校時代、リレーの開始前に必ずやっていた「さぁ、いこうぜ」のサイン。


「・・・じゃぁ、また、な」

「おぅ、また・・・な」


必ず、必ず、生きてまた会おうな。



歩みは遅々として進まず、湊小学校前へようやく辿り着く。

歩道橋の上部まで津波の痕跡があり、欄干は酷く歪んでいた。

欄干につかまって助かった方はどれ位いたのだろうか。


小学校の校舎へ目を向けると、廊下を行き交う多くの姿が目に入った。

遠目に同級生や知人の姿を見かけ、安堵する。

そして道路沿いのプール内には車が浸かっていた。


行きたい気持ちをグッと堪える。ここは自分が立ち入ってはいけない場所だ。

湊小学校の校舎は周辺にお住いの方々にとって最後の砦なのだ。

見知った顔があるからと言って不用意に踏み込むべきではない。


怪我をしつつも何とか小学校へたどり着いた人も見受けられる。

子連れや高齢者に絞り、身に着けていたメディカルバッグを迷わず押し付ける。

「こいづ、使ってけろ!いいがらいいがら!」


他の大人達から物欲しそうな視線が刺さるが、無視する。


これは俺なりの「トリアージ」だ。

悪いが、動けるのならば自分で探してみてくれ。

落ち着いて、ちょっと考えればわかる筈だ。

看護学校前に、文字通り答えを山にして残して来たんだから。



そんな事を繰り返しながら進んでいると、道行く人から声を掛けられる。

「あの・・・自衛隊の方ですか?」


あ、申し訳無い。

こんな格好してますけど、残念ながら民間人です。

アドレナリンが出っ放しになって一人軍隊ワンマンアーミーやってる地域住民です。


迷彩服に巨大リュック、赤十字マーク大量だもんなぁ。

勘違いするのも仕方ない。


でもさ、非常時に機敏に動ける民間人おかしいやつが一人くらい居ても良いじゃないか。




依然として視界に映る光景は変わらないまま、八幡町歩道橋を左折し内海橋へ。


・・・そこでまた、立ち尽くす事になる。



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