第18話 濡れたシート

 人も街も寝静まった深夜、好きな歌を流しながら、特に当てもなく車を走らすのが好きだ。


 真夜中のひどい雨の中、多摩地域の新青梅街道をひとりきりで、いつものように車を走らせるていた。


 普段は行き交う車が多い都道であるが、時刻は1時59分、寂しいひとり旅である。


 暗闇を切り裂くヘッドライトが、道端で佇む人影を捉えた。こんな真夜中に若い女性が立っていた。傘もささずにずぶ濡れのままで・・・・・


 たぶん彼氏とドライブ中にケンカでもして、車から放り出されたのかもしれない、勝手にそんな風に考えてみた。


 珍しく親切心で車を停めて声をかけた。


 「大丈夫?良かったら送っていこうか?」


 「多摩湖・・・・・」


 消え入りそうな小さな声で答えた。

 真夜中の雨の中、いくら何でもこのまま放っておく訳にもいかず、後部シートに乗せた。


 新青梅街道の野口橋付近だから、多摩湖までは30分もかからない。どうせ当てもないドライブだったので、送っていくこととした。


 一言もしゃべらない無言の車のなか、ミラーで後部座席を覗くと、びっしょり濡れた長い黒髪が真っ白な顔のほとんどを隠している。


 見たところ、たぶん20歳位だろうか・・・・・


 「彼氏と喧嘩でもしたのかい?」


 何も答えず黙って小さく頷いた。たぶん想像通りだったのかもしれない。


 目的地である多摩湖付近にさしかかり、信号機の赤で車を停めた。


 信号の赤が、やたら長い。沈黙が車内の空気を削り取るようだ。あまりに重い沈黙に息苦しくなった。


 「もう多摩湖付近だけど、ここら辺なのかな?」


 「はい・・・・・」


 女性に話しかけるために後ろを振り向いた、しかし・・・・・乗っているはずの若い女性の姿が消えていた。


 ただびっしょりと濡れたシートが、女性の名残のみを残していた・・・・・


 そういえば新青梅街道の雨の夜に時々出ると言う噂を思い出した。貯水池までと言う若い女性を乗せて、付近にさしかかると消える、シートをびっしょりと濡らして。


 『ヤバイな、これのことかよ』


 慌てて前を向いて車を出そうとした。


 運転席側のフロントガラスに、張り付いた両手の間から、生きているとは思えない青白い女の顔が覗き込み、人間ではない声が囁いた。


 「一緒に おいでよ ・・・・・・」

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