第17話 雨の夜に

 秋の長雨なのだろう、雨が降るのは当たり前ではあるが、今夜の雨は雨量がすごく、まるで滝の中にいるようだ。


 雨は嫌いだ。気分が滅入るし、なんとなく不安な気持ちになる。それに雨が降るとやはり思い出す。もう何年も前のことだ。


 夜遅くに携帯が鳴った。もう時計は既に23時は過ぎていた。


 「相談したいことがあるんだ・・・・・」

 

 このところ何かと忙しくて、連絡も途絶えていた友人からの突然の電話。携帯から流れる沈んだ声に、遅い時間であったが会って話を聞くことにした。


 待ち合わせは、1時間後の24時に私の自宅があるマンションの玄関前で、という約束をした。


 友人が住むマンションも車で30分位の距離にある。雨が激しいので私のマンション前に車で乗り付けるつもりだったのだろう。


 約束の5分前に部屋を出て10階の廊下から下を見下ろした。私のマンションは国道の横を走る側道沿いにあるため、マンションの玄関前に友人の車が既に到着しているか上から確認したが、まだのようだった。


 エレベーターで1階に降りる。マンションのエントランスを通り抜ける時に、ポケットの中の携帯が突然鳴った。


 友人と同居する母親の取り乱した声が、耳に飛び込んできた。友人が2時間ほど前に、亡くなったとの連絡であった。自宅のマンションの屋上から、空に向かって飛んだと・・・・・


 エントランスからは、玄関の外の様子がドアのガラス越しに見える。烟るような激しい雨の中、玄関の前の側道に立つ人影が映っていた。


 傘もささずにずぶ濡れになって立っている背中が、友人に似ている気がした。ほんの1、2分前には、玄関の前には駐車車両はなかったはずなのに・・・・・


 それに友人は、2時間前に亡くなったと母親から電話を受けたばかりだ。じゃあ先程受けた友人の電話は・・・・・


 ほんの数m先の玄関の前に、誰かを待つように、ずぶ濡れで立っている見覚えのある背中。


 心臓が激しく鼓動する。周りの空気が急にぐんと冷え込む。エントランスの照明が点滅を始めた。


 全身の鳥肌がぞわりと立つ。行くなと本能が体を縛る、凍りついたまま立ち尽くした・・・・・

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