第18話 吸血鬼とは②

魔女が死んで吸血鬼に


悪魔に魂を売りわたしてしまった女性が、魔女になるとき、次のような約束が悪魔とかわされる。


①悪魔以外のどんな神も信じないこと。その証明として「神もなければ聖母もない…」と、神をのろう呪文を毎日三回となえ、悪魔をたたえる祈りをかならずおこなう。


②一ヶ月に一度の魔女集会に集まり、最低一年に一度はいけにえとして赤ん坊を悪魔にささげること。


③身も心も悪魔にささげ、悪魔や魔術師の命令にはぜったいにしたがい、けっして男性を愛さないこと。

 こうして魔女となった人は、悪魔からふしぎな魔法の力をあたえられるのだが、もし約束がやぶられたばあいには、どうなるだろうか。

 約束をやぶったとたん、その魔女は一瞬にしてぶきみなガイコツ姿となって死に、それから恐ろしい吸血鬼に変身するのだ。悪魔からの保護もうけず神からも見はなされた、あさましい吸血鬼にーーーーーー。


吸血鬼になりやすい人間


①重い罪をおかした犯罪者。

②親に見すてられた子供。

③魔術師や魔女になりそこねた人間。

④キリスト教信者で、ほかの宗教を信じるようになった人。

⑤罪をおかした牧師

⑥教会から破門された人間。

⑦自殺をした人間。

 ドイツの吸血鬼研究家D=シュトルムによれば、上の表のように弱点のある人々に多いとのべている。つまり、吸血鬼もまた悪魔と同じように、弱点をもった人間をねらったのだ。

 そして①から⑦までの人間は、すべてキリスト教の教会からはみだした人であり、十字架に守られない者だった。

 しかも、これらの人々は、死んでも天国へ行けないと信じられていた。


つまり、十字架が吸血鬼予防法のひとつであることから、いっぽうでは教会がますますさかえたのである。

 そして犯罪者はもちろん、親から見すてられた子供は、教会から洗礼をうけない子としてきらわれ、魔術者や魔女は教会に反する異端者であった。ましてや自分から生命をたつ自殺者は、人間の大きな敗北者として、教会がいちばん禁止していたことであった。

 だから自殺者の死体は、もっともきらわれる風習があり、正式の墓地には埋葬されず、こっそりとさびしい場所にすてられた。しかも、自殺者のでた家が焼かれたり、首つりをした人の木は切って焼かれたりしたのだ。

 しかし昔の人々は、このようなタブーと恐ろしい吸血鬼予防法をうまく利用して、人間そのものをもっとたいせつにすることを学んだのであろう。




早すぎた埋葬


人間の死についてのきびしい判定がくわしく決められたのは、つい最近のことである。日本でも有名な心臓萎縮の問題がおこって、人間の生死の判定があらためて厳重になされるようになった。

 ところが、二十世紀のはじめごろまでは、医者の数も少なかったが、聴診器や脈拍だけで人間の死を決めてしまうことがとても多かったようだ。

 たとえば一八〇〇年代のアメリカでは、一週間に一人の割合で、「早すぎた埋葬」の実例が記録されているし、十九世紀のハルトマン博士は、自分の住む地方だけでも、七百人もの人たちが生きながら墓場にうめられてしまったという記録書をかいている。

 またフランスのブルイエ博士は、人間の死についての研究論文で、驚くべき報告を行っている。

 たとえば百八十人の実例では、そのうち十三人が埋葬される前に生きかえり、七十二人が仮死の状態であったが、驚いたことに、生きながら医者に解剖されて殺された人が四人もあったという。

 だから、医学の進歩していない時代には、墓場に生きうめにされて棺おけの中から出てきた人々は、どんなに多かっただろうか。


ふしぎな死体と黒死病


中世のヨーロッパの人々は、人間が死ぬとかならず死体がくさって天国に行くものと信じていた。

 



 いまから4000年以上もの昔、この世に悪魔が生まれでたといわれているが、吸血鬼がはじめて生まれたのは3000年前ごろという。

 その第1は、中近東の悪魔アーリマンが生み出した吸血鬼バンピールで、第2はインドの恐ろしい鬼ヤシャが生みだした暗黒の女神カーリィ

である。

 第3には、中国の妖怪チイが生みだした吸血タンゴであり、第4には、古代ギリシア時代に悪魔サタンの血をひきついだ吸血ラミアがいた。


 吸血ドラゴン(スペイン)

昔からスペインにすみついている吸血ドラゴンは、「クエレブレ」ともよばれて、ひどく恐れられているという

 ふつうは、暗い森の中や洞くつにすみ、ものすごく深い地底の湖のところにすをつくっているが、はらがへると出てきて、人間や家畜をおそいはじめる。しかし、ぜったいに肉は食べず、生き血だけしか吸わないという。

 たいじしようとしても、うろこがかたくてピストルのたまもとおらないので、殺すこともできない。そして、えものがないと墓場の死体をあらして、死人の血だけを吸いとってあるくという。

 また、この吸血ドラゴンは年をとると、スペインから飛び去って北極の氷山に住み着き、世界中から財宝をたくさん集めて、いつまでも見張っているという。




参考文献

『吸血鬼大百科』

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