第50話 エピローグ 時は流れて
話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。
宜しくお願いします。
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真理愛が、学校に戻って来てから、時間が過ぎた。土曜日の夜は実家に帰る事にしている。
真理愛には絵里と俺が肉体関係を持ってしまった事がばれた。女性というのはその辺が敏感らしい。
誤魔化しても毎日の登下校や昼食を一緒に食べている内に絵里の言葉の節々に俺との関係が分かる言葉が入っている事を気付いたようだ。絵里がわざとしているのかも知れないけど。
ところが真理愛は、怒る所か今の絵里との関係は続けて行きたいという。理由は自分の置かれている立場だ。確かにそれを考えれば絵里と仲たがいをして味方を減らすより良いと考えたらしい。
だからと言う訳では無いが、絵里とは火水の放課後、真理愛とは木金の放課後、それぞれ二人だけで会う事に勝手に決められた。
だが、学術会議や公安、警視庁との関係を考えれば土曜日と日曜日が開いているのは助かる。武道場に稽古にも行ける。
最近は、俺を尾行する人もいなくなった。公安からも通常の要人警護レベルに落とすと住吉さんから言われている。
そんな関係を続けていく内に三学期になってしまった。もう学校は自由登校だ。俺は学校には行かず、スタンフォード大に送る宇宙論と量子力学に関する論文を書いていた。
書き上げれば学術会議の知合いに向こうの教授に送って貰う手配になっている。幸い、この学校は国際バカロレア認定校でその事でも推薦入学を容易にしてくれている。
もう、学校に行かないせいか、絵里や真理愛とも会う時間が少なく…なっていなかった。
火水と木金の取決めは二人の間で未だ有効らしく、二人共、朝から俺のマンションに押しかけて来た。但し午後三時には帰るという約束をさせたけど。
今日は、水曜日。絵里が来ている。もう高校は卒業した。スタンフォード大からの入学許可も送られてきた。
「悠、いつあっちに行くの?」
「四月か五月だろうな」
「そうなんだ。ある様で無いね時間」
「そうだな」
「もう帰ってこないの?」
「多分そうなると思う」
「悠、私があなたに言った約束。こっちの大学で四年間過ごしたら、悠の所に行くから彼女作らないでねって言った事」
「ああ、覚えているよ。絵里もこっちで作るなよ。大学に行けば俺なんかよりいい男が一杯いるだろうからな」
出来ればそうなって欲しいのだが。
「ふふっ、作らないよ。悠も絶対に作っちゃ駄目だからね。向こうに行けばいい女が一杯いるだろうから」
「そうかもな。でもそんな事興味ないから」
多分、これが絵里との最後に会話になるだろうな。出来れば絵里には、俺なんかよりもっと彼女に相応しい男と知り合い結ばれて欲しい。
そして、真理愛と多分これが会う事が最後になる日。
「悠、あっちにはいつ頃行くの?」
「多分四月か五月だ」
「そうか、それまで会っていれると良いな」
「色々支度も有るからな。今までの様には行かない」
「そうだよね。ねえ悠。四年間こっちで過ごしたらそっちに行ってもいい?」
「それじゃあ、お母さんだけになってしまう」
「お母さんは、あの家を売って、遠くの静かな町に住みたいと言っている。私は一人暮らしになる。悠と会えなくて我慢出来るか心配だけど。絶対に我慢するから向こうに行かせて」
「そうだな。期待しているよ」
「うん、ねえ、もっとして」
「いいよ」
多分真理愛は新しい男を作るだろう。この子は見掛けとは違って、体が持たない筈。崩れる様な事にならなければ良いけど。
俺は、公安調査庁サイバー特別調査室には定期的に連絡を入れるという事を言ってある。もう警視正待遇も無くなっている。
警視庁サイバーセキュリティ対策室にも定期的に連絡を入れると言ってある。学術会議の方は、もう関係していない。
国家公安委員長執務室にて
「住吉、坂口君をトレースできる手配はしてあるわね」
「はい抜かり有りません」
「あの子は我が国の最高機密事項を構築した人間。この事は外国の諜報機関には絶対に漏らす事が出来ない事項よ。
もし、あの子が、何らかの事情で向こうの諜報機関と接するような事が有った時は、…その時は分かっているわね」
「はい、彼が行きそうな国の日本大使館特使には、その様に手配しています」
「後、友坂絵里と工藤真理愛の動向にも注意するように。あの二人は必ず坂口君と接触する。彼の弱点になって貰っては困る。もし彼女達が利用される様な時が有れば、それも分かっているわよね」
「はい委員長」
私、谷美香子。彼、坂口悠が、我が国のハッカー対策の第一人者であり、機密事項そのものが彼の頭の中にある。本当は行かせたくなかったけど、そこまで縛る事は出来ない。
彼は地球上でも重要な人間の一人。…出来れば私の可愛い夫にしたかったけどそれも出来ないか。
私、友坂絵里、悠がスタンフォード大に行って二年。私は詳しい事を知らないけど、量子力学の究極の問いを解決したとか。
それで物理学の分野でノーベル賞を取ったとテレビで流されていた。流石ね。この前連絡した時はそんな事一言も言っていなかったのに。
更にそれから二年、彼はもう一度物理学の分野でノーベル賞を取ったとテレビで流れていた。
今度は多世界解釈でいくつもの宇宙の存在は分かっていたけど、それに同期性があるとかないとか、私の頭のレベルでは全く分からなかった。各国のというか全世界で彼の頭脳を褒め称えていた。
今でも悠とは定期的に連絡を取っている。本当は、悠の傍に行きたかったけど、今はチリやスイス、それにアメリカとの間を研究の関係で移動していて同じ場所には長く滞在できないから、自分の所に来られても日本にいるのと同じになる。だから日本にいるのが良いと言われた。
私は、大学でも多くの人に声を掛けられ告白も数えきれないほどされた。でも皆断った。私は悠しか考えていない。
もう私は二十三になる。いつまで待てばいいのかな。そうそう、工藤真理愛さんは、彼が渡米した後、何度か会ったけど、やっぱりと言うか、想像通りと言うか、新しい彼氏が出来たらしい。
でも素性を知られると直ぐに別れられてしまい、今の彼氏は大学に入ってから三人目だと言っていた。でも悠の所には行きたいとか。あの人寝ぼけているのかな?
それから更に三年がたった。今年で私は二十六才になった。悠にはいつ帰って来るのと聞いても決まっていないと言われている。でも私の事は好きだと言ってくれている。
両親もいつ帰って来るか分からない悠よりも私を大切にしてくれる人を選びなさいと言われている。でももし悠が帰って来て私の所に来たら。
私は一生後悔することになる。だからずっと待つことにした。アラフォーになったら考えようかな。でもその時は誰も相手してくれないかな?
それから更に二年が経った。もう完全にアラサーだ。今日も会社に行く為に準備をして家を出た時、一人の男が立っていた。
始めは誰だか分からなかった。きっちりとスーツを着込んで髪の毛もしっかりと揃えられている。足元には小さなスーツケース。その人が、
「やあ、絵里。迎えに来たよ」
私はその時、やっと相手が誰だか分かった。そして全力で彼の胸に飛び込んだ。思い切り彼の背中に手を回すと
「遅すぎるよ。待たせ過ぎだよ」
「でも絵里は待っていてくれた。信じていたよ。もし絵里が結婚していれば向こうからでも簡単に分かったから。でも婚姻届けも出してないし。今付き合っている人いなよね?」
「いるよ!」
「えっ?!」
「私の目の前にいて待たせるのが得意な人」
「そうか、悪かったな」
「うん」
それから私達は、その日の内に婚姻届けを出した。会社に行かずに家に入ってその事を両親に話したら目を丸くして驚いていたけどとても喜んでくれた。
それから、パスポートを取りに行って、数日かかるからデート出来るのかと思ったら、彼は公安と警視庁に行くからと言って一日つぶれてしまい。結局、何も出来ないまま渡米する事になった。
会社にも事情を言って、建前上は退職届を二週間前に受理している事にして貰った。夫になる人がノーベル賞を二回も取った坂口悠だと言ったら、人事の人がスマホが壊れるんじゃないかと思う位の声で驚いていた。
悠に渡米の準備を何もしていないと言ったら、全部向こうに用意してある。体一つで来ればいいと言ってくれた。
私の心の中は、少しの不安ととっても大きい期待。そして幸せに包まれていた。
完
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本作を最後まで読んで下さった読者の皆様、本当にありがとうございました。
如何でしたでしょうか。途中横道に走らず当初の設定通りに描けました。
そして三月十五日の初投稿から一日も欠かさず投稿が出来たのも皆様の応援のお陰だと思っています。
天才少年、坂口悠が家族を暴漢襲われた事をきっかけに復讐に立ち上がり、自分の持っている頭脳を使って、復讐を成し遂げる。
だけど、その後、三回も狙われ、三回目には工藤真理愛を傷つけてしまう。父と兄を犯罪者に持つ真理愛を守りながらその後の高校生活を送り、渡米してからは二度のノーベル賞に輝くというストーリーです。
最後には中学からの大切な友達、友坂絵里と結ばれるという落ちも付けました。いかがでしたでしょうか。
最後にお願いです。
面白かったと思う方、よう書いたと思う方、まあこんなものだろうと思う方、次回もなんか書けと思っている方、ぜひご★★★頂けると新作への意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
次回、皆様と作品の上でまた出会えることを願っています。
PS:この話で完結しますが。おまけにこの後閑話として真理愛その後を付けています。です。目を通して頂ければ幸いです。
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