第48話 真理愛の退院


話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

宜しくお願いします。


―――――


 私、工藤真理愛。悠のマンションからの帰り彼と二人で歩いていた時、後ろから来た男に左肩を撃たれ、その後気絶して気付いたら病院にいた。


 目を開けるとお母さんが私の傍でジッと私の顔を見ていた。


「お母さん、私」

「目が覚めたのね真理愛。良かった。本当に良かった。直ぐに先生を呼ぶから」

 お母さんはベッド上に有るナースコールボタンを押すと直ぐに看護師が来てその後、担当医が来た。


「目が覚めましたか、工藤さん」

「先生、私何日寝ていたんですか?」

「二日間です。左肩は銃弾で粉々になってしまいましたけど、人口骨で補強します。後一回の手術が必要です。神経系も繋げれる所は全て繋ぎました」

「先生、左腕は治るんでしょうか?」

「腕は動く様になります。指も生活に不充しない程度には動かせますが、運動や重い物を持ったり、細かい作業は出来ないです。ですがリハビリを頑張ればだいぶ良くなるでしょう」

「そうですか。何日位で退院出来ますか?」

「リハビリを入れると三から四週間という所です。若いので直りは早いと思いますよ」

「そうですか。ありがとございます」


 担当医と看護師が出て行くと私はお母さんに訪ねた。


「悠は?」

「悠?ああ、坂口悠の事ね。追い出したわ。貴方をこんな目に合わせた張本人よ。もうあんな男に関わっては駄目よ」

「何を言っているのお母さん。あの人は私の大切な人よ。直ぐに呼んで」

「駄目よ。あの男があなたの傍に居たから、こんな目に遇ったのよ。いなければこんな事にはならなかった。だからもうあの人とは別れなさい」

「嫌だ。悠は私の大切な人よ」

「…………」


 動けない私は何もする事が出来なかった。スマホも何処にあるのか分からない。それからもう一回の手術を受けた。


 もう三週間近く入院している。先生はリハビリをして、ある程度自分の意思で動かせる様になったら退院できると言っていた。

 今はちょうど夏休み。良かった。もし他の季節なら出席日数不足で留年するところだった。

 お母さんは、私のスマホを返してくれない。私が悠に連絡するのを邪魔しているんだと思う。

 

 何人かのクラスメイトがお見舞いに来てくれた。でも誰に聞いても悠の事は言葉にしてくれなかった。お母さんからの指示なのか、話したくないのか分からないけど。


 夏休みの宿題も持って来てくれたので、自由研究以外は、全て入院中に終わらすことが出来た。


 それから、私を撃ったのはお父さんだという事を知った。本当の目的は悠を殺す事だったいう事も。

 物凄いショックでそれだけで三日間位食事もまともに取れず、担当医から治らないぞと言われ仕方なく口にする様になった。




 明日退院する。左腕や手は動かす事は出来るけど力を入れたり指先の細かい作業はまだ出来なかった。通院しながらのリハビリになるらしい。


 お母さんに私のスマホを返す様にお願いしたけど、彼の連絡先を全て消去してから渡すと言われた。仕方ないけど学校に行けば会える。その時まで我慢だ。




 家に戻るとお父さんもお兄さんもいない日々が待っていた。周りの人の目は更に酷くなっていた。

 お母さんは、この家を売ってどこか静かな所で暮らしたいと言っていたけど、高校を卒業するまでは絶対に嫌だと言って反対した。もし引越すなら一人暮らしすると。悠の所に行ってもいいと思った。彼なら私を受け入れてくれるはず。





 俺、坂口悠。夏休みになり公安調査庁サイバー特別調査室には二度ほど進捗会議の為出席したが、かなりの件数で海外からのハッキングを防いでいる事を聞いた。偶にはこちらからハッカーのサーバに逆ハッキングして情報を盗む事もしている様だ。


 警視庁サイバーセキュリティ対策室にも二回ほど進捗会議に出席した。こちらも国内のハッカーに対する検挙率が高くなったと言って喜んでいた。


 真理愛が撃たれるなんて事件が無ければ消し去るシステムだったけど消せなくなって仕舞った。アメリカからでも遠隔でゼロサプレスすればいいか。バックアップ場所も知っているし。



 絵里とは、週に二回くらいのペースで会った。絵里は真理愛程では無かったが、やはりあれが好きなようだ。俺としてもその位ならと思って付き合っている。

 

 勿論一緒にプールにも遊園地にも、それに絵里の家族と海水浴にも行ったが、もう俺のトラウマは大分消えていた。


 そしてお父さんに話をして実家に行った。近づく毎に少し気持ち悪さが戻って来たけど玄関を上がってからはお姉ちゃんやお母さんに抱き着かれて泣かれてしまった。


 もう実家に戻る事は出来る様だけど、俺はあのマンションにいる事にした。片付けなければいけない事が多い。

 だけど一週間に一度帰ってきて欲しいと三人から懇願され土曜の夜だけ帰る事にした。



 学術会議小委員会の方は月に一回の割合で出席している。別の学術会議のメンバーからスタンフォード大の教授に推薦状を書いて貰える事も決まった。俺の研究論文と一緒に送る事になっている。



 今日から二学期が始まる。いつも様に朝のジョギングを終えた。例のコンビニにはもう寄っていない。


 朝食はインスタントご飯とスープになってしまった。加奈ちゃんには悪いがもう会う訳には行かない。


 シャワーを浴びて朝食を摂った後、夏服に着替えて学校に向かった。学校の有る駅に着いて改札を出ると


 えっ?!真理愛がいた。絵里も一緒だ。どう言って良いか分からず真理愛をジッと見ると

「悠、おはよう。今日から復帰だよ」

「…そうか。おめでとう。良かったな」

「うん」


「悠おはよう」

「おはよう絵里」


 どう考えればいいか分からなかった。彼女の母親からはもう真理愛には近づくなと言われている。


 でも真理愛の方から近付いて来てそれを拒絶する訳にはいかない。一緒に歩いていると


「悠、お母さんが病院で酷い事言ったみたいでごめんなさい。私は悠と別れるつもりなんて絶対ないから。後、スマホの悠のアドレスお母さんに消されちゃったの。後でもう一度教えて」

「分かった」


 私、友坂絵里。学校のある駅について改札を出ると工藤さんが居た。最初驚いたけど、普通に朝の挨拶をして来たので、こちらも挨拶を返したけど、その後は何も話せなかった。何を話せばいいのか分からなかった。


 今、彼女は悠と別れる気は無いとはっきりと言った。母親には反対されているようだけど。

 不味いな。彼女には悪いけど、彼女が撃たれたおかげで、私と悠の距離がぐっと縮まったのに。


 俺達は学校に着いて、上履きに履き替え教室に入ると皆が一斉に驚いた顔をしている。そして数人の男女が真理愛に寄って来た。


「工藤さん、もう学校に来れるんだ。良かったね?」

「うん、ありがとう」

「工藤さん、俺達はあなたの味方だから。守るから」

「何から私を守るんですか?」

「決まっているだろう。坂口の野郎からだよ。あいつのお陰で君は酷い目に遇ったじゃないか。俺達であいつを君に近付かない様にしてやるよ」


「何を勘違いしているか分かりませんけど、今私が悠と一緒に登校して来たの見なかったのですか?」

「あれは、坂口が君を無理矢理一緒に連れて来たんじゃないのか?」

「冗談はやめて下さい。悠は私を守ってくれたのです。ずっと今まで私を守ってくれていたんです。

 今度の事もそうです。そして彼は私の大切な人そして彼氏です。これは今までもこれからも変りません」

「そ、そんな」

「分かれば、退いてくれますか。自分の席に行きたいので」


 騒いでいる内に予鈴が鳴った。



 午前中の授業が終わり昼休みになると

「悠、私、左手の調子がまだ良くなくて、お弁当作れないの。一緒に学食に行って?」

「ああ、構わない。絵里も良いだろう?」

「私は構わないけど」


 学食に行くまでの間でも真理愛は注目の的だった。あちこちから小声が聞こえる。



 学食の自動食券売り場に行くと

「悠、私カレーで良い。食券買って。これお財布」

「ああ、いいぞ」


 

 悠がカウンタから先に工藤さんのカレーを持って来た。そしてもう一度カウンタに並んで今度は自分の定食を持って来た。


 食べ始めると工藤さんはあまり左手を使わずに右手だけで器用にカレーを食べている。


「真理愛、左腕は動かせないのか?」

「ううん、担当医はリハビリをしっかりやれば、指も上手く動く様になると言っていたけど、まだ中々動かせない」

「そうか、なるだけ俺が手伝ってやるよ」

「ありがとう、悠」

 これって相当に不味いんじゃない。工藤さん、傷を理由に今まで以上にくっ付こうとしている。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

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