第47話 変ってしまった事



話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

宜しくお願いします。


―――――


 私、友坂絵里。今日は土曜だ。まだ午前七時過ぎだけど、悠に連絡して会おうと思っている。昨日は工藤さんと一緒に帰ったから今日は私と思ってテレビを見ながらご飯を食べていると


「えっ!」


 信じられないニュースがテレビで流されている。


 昨日の夕方午後六時過ぎに高校生位の男の子と女の子が一緒に歩いていた所を女の子が拳銃で左肩を撃たれた。撃ったのは工藤元警察庁長官という事だ。ここは悠のマンションの近く。

 女の子の名前も男の子名前も伏せられているけど間違いない、悠と工藤さんだ。なんて事が起こったの!


 私はご飯を食べるのを止めて直ぐに悠に連絡した。何回掛けても出ない。どうしたの悠?


 考えていても仕方ない。私は直ぐに外着に着替えると悠のマンションに向かった。


 私の家のある駅から悠のマンションの有る駅まで四つ。こんなに電車が遅く感じた事は無い。駅に着くと急いでマンションまで歩いた。

 途中お巡りさんが何人かいたけど、多分そこが事件現場なんだろうと予想はついた。悠のマンションから五十メートルも離れていない。



 入口に着くと悠の部屋の番号を押した。出ない。何回も何回も押した。やっとドアが開いた。




 昨日、真理愛が撃たれた。病院に行った後、彼女の母親から病室を追い出された。何も考える事が出来ないままベッドの上に座っていた。まだ部屋の中には真理愛の残り香がある。


 体が渇いている。自分の心の中の何かが消化しきれない。離れて分かる。真理愛の体を俺が欲している。目を瞑ると真理愛のあの時の姿、声が蘇る。堪らないく自分の欲求を吐き出しかった。


 うるさくさっきからマンションの入口の呼び出し音が鳴っている。警察と思って入口のカメラを覗いてみると絵里だった。

 直ぐに入り口のドアロックを解除して絵里をマンションに入れた。彼女がエレベータに乗って来るのが分かる。


 俺の部屋の前まで来て騒がれるのも面倒だ。仕方ないしに絵里が来るのを待った。

 



 私は急いで悠の部屋の前に行ってインタフォーンを押すと


 ガチャ。


「えっ?!」

 三年前の悠に戻っていた。目が鋭く、悲壮感が全身を覆っている。


「入れ」

 私は言われるままに入るといきなり抱き着かれた。


「悠」


 いきなりキスをされた。どうしたの?凄く熱烈なキスだ。こんなの始めて。段々力が抜けて来て悠の背中に手を回した。


「いいか?」

「えっ?」


 悠が私の顔をジッと見ている。もしかして。でも下着普段用なんだけど。でも悠が望むなら、

「ちょっと待って悠。どうしても今でないと駄目?」

「ああ、今だ」

「だって、工藤さんと昨日したんじゃないの?」

「真理愛とはもう会えない」

「どういう事?」

「そんな事どうでもいい。絵里が欲しい」

「分かった」



 

 それから私は、悠のされるままにした。大分痛かったけど、彼は優しくしてくれた。それが終わると


「絵里」

「なに」

「真理愛が撃たれたのは俺の所為だ。俺があんなことしなければ、彼女が撃たれる事は無かった」

「あんな事?」


 

 悠は、去年のクリスマス前からの事を全部私に話してくれた。最初は目を丸くして驚いていたけど彼が話し終わると彼の頬に私の頬を付けて

「大変だったのね悠。もうずっと私が傍にいるから」


 私は思い切り彼を抱きしめた。悠が涙を流している。そして私をまた抱きしめてくれた。




 結局、この日は一日中悠の部屋に居た。勿論初めてだったけど、何回かして貰った。二回目からは最初と違う感じだった。


 もう夕方。いきなり飛び出して来たのでお母さんに一度連絡を入れてから帰る事にした。

「悠、明日も来るね。朝から来るからご飯作ってあげる」

「うん」



 私は次の日も悠の部屋に朝早く来てずっと傍に居てあげた。大分心が落ち着いたようだ。先週までの様な笑顔は見れなくなって、前の様な目付きに戻ってしまったけど、私は構わない。中学からずっと悠を見て来たのだから。




 次の日、学校のある駅の改札に当たり前だけど工藤さんはいなかった。悠が改札から出て来たので

「おはよう悠」

「ああ」


 まだ心は戻ってない様だ。学校にそのまま二人で歩いて行き、一緒に教室に入った。ニュースの事はみんな知っている様で、私達の事をジッと見ている。いえ悠の事をジッと見ている。誰も何も言わない。



 悠が自分の席に着くと男子が一人彼の傍に寄って行った。

「おい、坂口。あのニュース、お前と工藤さんだろう?」

「…………」


 悠は男子の顔を無言のまま睨みつけると男子は一瞬怯えたようだけど

「なんで工藤さんが撃たれたんだよ。説明しろ坂口」

「お前には関係ない」

「なんだと」


 男子が悠の胸倉を掴もうとした腕を逆に取られて捻じられた。

「この前も言っただろう。右腕使えなくしてやろうか」

「ば、ばか止めろ」


 悠がその男子の腕を離すと悔しそうな顔をして席に戻った。


 予鈴が鳴り、担任の後藤先生が入って来た。そしていきなり


「工藤真理愛さんは、不慮の事故により当面、学校を休みます」


 皆がざわついている。


「静かに。もうすぐ夏休みですが、気を引き締めて過ごす様に。後、坂口君、放課後職員室に来るように」


 また、皆がざわついた。




 俺、坂口悠。例の事件はみんな知っている様だ。俺と絵里が教室に入ってから、前に俺に文句を言って来た男子がまた文句を言って来たが、追い返した。


 昼休みになっても最近近付いて来た女の子三人はもう俺の所には来なくなった。俺としては助かるが。

「悠、学食に行こう」

 絵里が誘って来た。


「ああ、行くか」

 真理愛がいない事で絵里と二人で食べる事になった。


 学食に行くと事件の事を知っている様な生徒から変な目で見られたが無視をした。いつものB定食をカウンタで受け取って、絵里が待っている窓際の席に行く。


「悠、当分私と一緒に食べよう」

「悪いな絵里」

「悪くないよ。工藤さんには悪いけど、私は悠の傍にずっと居れるから」

「絵里、その事だが…」

「待って悠。それ以上言わないで」

「…………」


「悠は、高校出たらアメリカに行くんでしょ。私もついて行きたいけど、悠ほど英語は話せない。だから日本の大学で勉強して、それから悠の所に行く。だから…それまで彼女作らないでね」


 俺は絵里の言葉に噴き出そうになった。

「絵里、勘違いするな。俺が言いたかったのは、もう俺の傍を離れるなって事だ」

「えっ?!」

 絵里が、耳元まで顔を真っ赤にしている。


「俺が先にアメリカに行っている間に彼氏作るんじゃないぞ」

「あははっ、なーんだ。同じ事考えていたのか。うん絶対に作らないし、作れないよ。私の心の中は悠だけだから」


 良かった。悠が別れ話持ち出すのかと思った。土曜日に私の初めてをあげたばかりなのに、ちょっと焦ったな。



 放課後になり、俺は職員室に行き、担任の後藤先生の所に行くと

「坂口君、校長先生の所に行きます。付いてきなさい」

「…………」

 校長が俺に何の用だ?



 校長室に行くと校長の他に教頭と学年担任がいた。

「坂口君、座り給え」

「…………」


「実は、工藤真理愛さんが拳銃で撃たれた時、傍に居たのは君だという噂が流れていてね。それは本当の事なのか知りたくて呼んだんだよ。あの時、工藤さんの傍に居たのは君なのかね?」

「答えられません。警察に聞けばいいじゃないですか」


「そうは行かないんだよ。父兄からも問い合わせが有ってね。拳銃に撃たれる様な生徒がいる学校に大事な子供を行かせるのは問題だという事を言われている」

「俺には関係のない事です」

「本当に君では無いのかね」


「先ほども言いました。答えられません。そもそも俺にそれを聞いてどうするんですか?」

「君が当事者でなければ問題ないが、当事者の場合、退学して貰う事になる」

「どういう理由ですか?」

「それは、この学校の信用を著しく貶めたという事が理由だよ。君は相当に頭が良いそうじゃないか。飛び級でもなんでもして大学に行ってはどうかね」


「国内の大学なんて興味はない。それにもしあそこにいたのが俺だとしてもそれが理由で退学するなら、教育委員会に訴えますけど」

「それは……」

「俺は、ここの卒業証書が欲しいだけです」

「分かった。少し考えさせてくれ」


「考える必要はありませんよ校長」

「何だね後藤先生?」

「坂口君はもう三年生の教科書は終わっていて、大学の基本科目の勉強も終わっている様です。この高校の卒業証書を渡してあげれば良いじゃないですか」

「馬鹿な事言うんじゃない後藤先生。そんな事すればそれこそ教育委員会からクレームがつくぞ。君は全て受けてくれるかね」


「それは…」

「後藤先生、君の出る幕ではない」

「すみません、校長」

「坂口君。ではこうしよう。今回は不問とするが、もし同じ事が起きればその時は即時退学処分とする。良いかね」

「分かりました」


 俺が校長室を出ると下条先生が待っていた。

「坂口、少し目立ち過ぎたな」

「…………」

「まあいい。例の試験結果も夏休み明けには出る。校長には俺からも言っておく。我が校の人気を支えている生徒を追い出すのはどうかってね」

「ありがとうございます。下条先生」


 そう言うと下条先生は校長室の中に入って行った。



 つまらない時間を過ごしてしまったな。教室に戻ると絵里が待っていた。

「絵里、帰らなかったのか?」

「だって悠は言ったじゃない。俺の傍にずっと居ろって。だから待っていた」

「そうか」

「帰ろうか」

「そうだな」


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

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