第38話 春休み前に


話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

宜しくお願いします。


―――――


 次の日、午前中は学校に行った。朝は、特に何事も無く過ごした。真理愛が来ていない事をクラスの子達が勝手に憶測していたが、気にする必要もないので消化授業になっている時間を適当に過ごし、放課後を迎えた。



「悠、一緒に帰らない」

「ああ、いいぞ」

 絵里の誘いにそのまま席を立って下駄箱に行き履き替えると絵里と一緒に校門に向った。


「悠、ニュース見た?」

「見ていないが」

「工藤さんのお兄さんとその友達、暴行強姦罪、今は別の言い方見たいだけど、余罪だけで十数件あるらしいよ。テレビで報道していた。当分刑務所からは出れないって。それにそれを工藤のお父さんと木崎とか言う法務大臣と遠藤っていう総務大臣が揉み消していたんだって。三人も共犯になるらしいよ」


「そうか、それ相応の罪を問われるだろうな」

「でも、工藤さんには関係無いんでしょう」

「理屈ではそうだが、日本という国はそうは見てくれない。犯罪者の父、犯罪者の兄という事実は彼女に一生付きまとう」

「どうするの悠は」

「どうするって?」

「工藤さん、悠の彼女でしょ」

 

 真理愛には悪いが、元々今回の事を明るみにする為に関係を持った女性。本当はこれで断ち切りたい思いもある。

 だけど、それでは俺は彼女を利用した酷い男だ。


「理恵、お前俺を信用してくれるよな」

「言っている意味分からないけど、信用するに決まっているでしょ」

 ここで工藤さんを見捨てる様な男なら、もう口も聞きたくない。


「そうか、良かった。俺は真理愛を守る。だが、彼女に俺の様な男は相応しくない。誰か良い人が見つかるまでだ」

「何それ。でも良かった。ここで悠が工藤さんを知らないなんて言ったら、あなたの股間に蹴り入れて一生口聞かないつもりだったけど、流石悠ね」

「まあな、ところで絵里、いい男見つかったか?」

「悠、股間に蹴り入れようか」

「はっ、どういう意味だ?」

「こういう意味よ」

 悠の前に立って股間に向って蹴り入れたが、簡単に足を押さえられた。


「絵里、可愛い水玉のパンツを見せるのは俺だけにしろ」


 自分で顔が赤くなるのが分かった。

「ばか!」


 絵里が耳まで赤くして、もう目の前にある改札まで掛けて行った。こっちを振り向くと思い切り左目の下瞼を人差し指でひっぱって、世に言うあっかんべーをした。

 なんなんだ、あいつ?




 良く分からないが、マンションの前まで帰ると住吉さんが車で待っていた。

「着替えて来ます。待っていて下さい」

「…………」


 俺は部屋に戻って急いで普段着に着替えるとマンションの入口まで行った。彼は何も言わずに車を出した。

「どこ行くんですか?」

「ついて来ればいい」




 連れて来られたのは、国家公安委員会委員長室。


「公安委員長連れて来ました」


 ドアを開けるとでかい机に座って外の方を向いている髪の毛が長く白いスーツを着ている女性がこちらを向いた。結構なスタイルだ。背丈もある。顔はちょっと化粧がきついけど。


「君が坂口悠君?世界でも比類のない頭脳を持っているというじゃない。それに中々かっこいいわ。私に君の血筋が欲しいな。今日の夜時間有る?」

「委員長!」


「あらごめんなさい。つい本音が出てしまったわ。私は国家公安委員長谷美香子(たにみかこ)よ。宜しくね。早速だけど、警察庁のサイバー局にいるあほ達が役に立たないの。

 君が設計したというサイバーセキュリティシステムのプロトタイプの完成版を公安調査庁に欲しいのよ。日本の為に一肌脱いでくれない?」

 この人ばかか。


「もちろんただとは言わないわ。君の役職は国家公安委員会特別サイバー監察官、一年の契約。待遇は警視正相当。お給料は好きなだけ上げるわ。悪くない条件でしょう」


「興味ありません」

「えっ?私耳が遠くなったのかしら。まだアラフォー何だけど。もう一度言ってくれない」

「興味ありません」


「住吉、どういう事?」

「坂口君、君にとって美味しい話だと思うが。報酬なんて興味無いだろうが、警視正待遇というのは、魅力的じゃないかね。君の家族や君、それに工藤真理愛の為にも」

 そこまで調べているとはな。


「坂口君、公安を舐めては駄目よ。君の行動は二十四時間手に取る様に分かるわ」

「そういう事ですか。引き受けるに当たって条件が有ります」

「なんでも言って」


「第一に高校生としての俺の行動に制限を掛けない事。第二に俺の家族の安全を保障する事。そして第三に現在参加している日本学術会議小委員会の参加を妨げない事。これが守られるなら協力します」


「ほほほっ、もっと凄い事を要求してくると思ったのに。そんな事簡単な事だわ。住吉直ぐ手配を」

「はっ!」


「委員長、もっと凄い事とは、どういう意味でしょう?」

「例えば工藤大樹、木崎洋平、武藤武の三人を事故に見せかけて焼き殺すとか。悔しいんでしょ、あの三人が。簡単な事よ」

 これが公安か。甘く見ない方が良いみたいだな。


「分かりました。引き受けます」

「良い子ねえ、やっぱり君今日の夜空いていない?」

「委員長!」


「ほほほ、冗談よ。住吉、後は任せたわ。宜しくね坂口君」


 委員長が出て行くと

「坂口君、早速だが、具体的な手続きに入りたい」



 それから一時間半程色々手続きが有った。その時、いつの間に用意したか知らないが俺の写真入り国家公安委員会特別サイバー監察官の身分証明書、警視正の手帳とバッジが用意された。そしてもう一人、公安調査庁サイバー特別調査室の担当者が入って来て、今後の作業の手続きについて話した。



一通り終わると住吉さんが

「坂口君。君の国家公安委員会特別サイバー監察官と警視正待遇は、今の時点で有効になった。権限は大いに使って良いぞ。君の大切な人の為にな。後、必要はないと思うが公安警察が必要なら連絡をくれ。今後の連絡役は俺になる。連絡にはこれを使ってくれ」


 公安のマークが付いた携帯を渡された。


「君は知っていると思うが、それは大事に扱ってくれ。くれぐれも彼女のやり取りに使うなよ。全部記録されるからな。はははっ」

 体のいい、首輪じゃないか。



 その後、俺はマンションのある駅まで住吉さんの車で送られた。

「では、坂口君。予定通りで頼む」

「分かりました」

 春休み、絵里の約束を守るのは難しそうだな。




 俺は、もう一度駅の改札に入った。そして真理愛の家の最寄り駅で降りると彼女の家の側まで行った。パパラッチもどきが家の周りをうろついていた。


 俺は直ぐに警視正の権限を使わせて貰う事にした。所轄の警察署長を呼び出して、真理愛の家の前にいるパパラッチを追い払う事を命じた。


 最初、いきなり警察署長に電話して来た俺を疑ったが、回線コードが公安の物で有るということと、俺の名前と身分が既に警察庁のデータベースに入っている事を相手が確認すると十分もしない内に駆け付け、パパラッチどもを追い払った。

 連絡した相手がまさか高校生とは気付かずに連絡相手がいない事を署に電話していたが、無視をした。


 更に十分程すると警察官も居なくなった。俺は初めてだが、真理愛の家の傍に居る事を俺のスマホで連絡した。


 彼女は直ぐに出て来た。周りに誰もいない事に疑問を感じたようだが、俺の顔を見ると


「悠!」

 いきなり俺の胸に飛び込んで来た。そのまま抱き着いている。

「悠、悠、悠」


 何度も俺の名前を呼びながら抱き着いている。行き交う人が俺達の事をジッと見ていたので、流石に不味いと思い

「真理愛、落着こう」

「だってぇ、だって思い切り会いたかったんだもの。でも外にはメディアの人が一杯いて…。そう言えば今誰も居ないわね?」

「俺が追い払った」


「えっ?!ふふっ、でも悠なら何でもやれそう。ねえ家の中に入らない」

「いや止めておくよ」


 今の状態で真理愛のお母さんの顔を正面切っては見れない。それに家族というものを俺はまだ体が受け入れていない。


「そう、でももっと話したい」

「近くの喫茶店ではどうだ」

「あの事件が表ざたになって以来、この辺の人はみんな私とお母さんを冷たい目で見ている。お手伝いさんも止めてしまったの。だからお母さんが車で遠くのスーパーまで行って買い物してくる状態。出来ればもう引越ししたい」


 そこまで酷いとは。だがそれは真理愛と彼女の母が悪くなくても一生負わなければいけない性だ。



「真理愛、春休みどこかで会うか」

「うん、悠のマンションに行きたい」

「そうか。日にちを決めて会う事にしよう。だから今日はここまでだ」

「うん、我慢する。早く連絡して」

「そうするよ。俺が見ている間に家の中に入りなさい」

「うん」


 俺は、真理愛が家の中に入り、玄関のロックが閉まる音を聞いてから、駅に向かった。


 駅に行くまでの間、誰かが付いてくるような気がして、何度も振り返ったが分からない。気の所為か。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る