第37話 短い平和


話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

宜しくお願いします。


―――――


 俺は、翌朝六時早々に真理愛を駅まで送って行った。だけど

「お願い、今日だけは家の傍、いえ近くまででいい。送って」

「分かった」


 俺達が駅からゆっくりと歩いて工藤家に行くとまだメディアの人達はいるが、昨日ニュースで見たほどではない。


「悠、ありがとう。裏口から入れば分からないから」

「そうか、気を付けてな。学校はどうする」

「落ち着くまで休む」

「それがいい。でも学期末試験は受けろよ。進級出来ないからな。俺が守ってやる」

「ありがとう悠」


 それから俺はマンションの駅まで帰るとゆっくりと周りを見ながら歩いた。付けている人はいない。マンションの周りをゆっくりと見て回ったが、それらしき人もいない。大丈夫そうだ。


 俺は、少しハラハラしながらマンション入り口のドアを開ける前に後ろを見た。誰もいない。

 その後、部屋の前に来た時もう一度後ろを見た。誰もいない。ドアを開けて直ぐに閉めた。玄関のカメラでマンション入り口、エレベータホール、廊下、駐車場を見たけど誰も居なかった。少し気の使い過ぎか。


 用心してカーテンは開けなかった。少し疲れた。シャワーだけ浴びるとベッドの上で一度寝た。


 午後三時位か、スマホが震えている。画面を見ると絵里だ。仕方なく出ると

「悠、今まで連絡も出来なくて、どこ行っていたの?」

 いきなり凄い声がスマホのスピーカから聞こえて来た。


「大きな声を出さなくても聞こえるよ。学術会議のテーマの研究で少し休んだだけだ。担任には言ってある。明日から学校に行くよ」

「そ、そうかあ。安心した。だって担任いきなり悠が一週間休む。個人的な理由だしか言わなかったから心配してしまって」

「あははっ、大袈裟だなあ。絵里なら想像ついただろう」

「まあ、そうなんだけどさ。ところでニュース見た?」


「何のニュースだ?」

「工藤さんのお父さんとお兄さんのニュース。とんでもない事になっている」

「そうなのか。ニュースも全然見る暇なかったから。世事に疎くなっていた」

 まあ、この位にしておくか。


「悠らしいわね。でも安心した。じゃあ明日学校でね」

「ああ、明日な」


 冷蔵庫の中には何もない。スーパーに行くか。あのコンビニへは行けなくなったな。明日からの朝ご飯どうするかな。

 玄関のカメラで、廊下、エレベータ、マンション入口それに駐車場まで見ても誰もいない。

 俺は直ぐに外に出た。駅前のスーパーまで行っても付けられている気配はない。取敢えず、カップ麺と冷凍のチャーハンやスパゲティ、鳥唐揚げそれにジュースと水を買い込むと急いでマンションの部屋に戻った。

 もう一度玄関のカメラを除いたが誰もいない。大丈夫そうか。だが、当分は気を付けるか。



 久々に風呂を洗い、湯を張って風呂に入った。やはり落着く。出てから、冷凍チャーハンを三分の二解凍して食べると、寝室で眠った。夜は何もない事を祈ろう。




 朝、午前六時。いつもの様にジョギング姿でマンションを出た。大分暖かくなっている。特に付いてくる人はいない。

 いつものコンビニの前を通ったが、流石に橋本さんと顔を合わせる気にもならず、通り過ごそうと思った時、入口が開いた。レジには知らない子が立っていた。


 あの子もあんな事が有った後だ。バイトも出来ないんだろう。俺はいつもの様にサンドイッチ二種類と五百CC牛乳を買うとそのままマンションに戻った。付けている人はいない。大丈夫そうだな。




 学生服に着替えて電車に乗って登校した。何食わぬ顔で教室に入ると、一斉に俺の方を見た。少し驚いた顔をしている。席に着くと隣に座る絵里が

「悠おはよう」

「おはよう絵里、どうかしたのか?」

「何が?」

「いや、何でもない」

 周りの人が最初驚いた顔をしていたけど段々元に戻って行った。


「ああ、個人都合で一週間も休んだからでしょ。今日から学期末試験よ。ギリで間に合ったわね。もっともあんたは受ける必要も無いか」

「そんなことはない」

「そんな事も思ってもいないくせに」


 絵里と話している内に予鈴が鳴って担任が入って来た。

「工藤さんは、別室で学年末試験を受けるので、試験期間中教室には来ません」


 みんながざわついている。

「絵里、一限目終わったらちょっと話が有る」

「分かった」


 一限目の暇な国語の試験が終わると

「絵里」

「うん」


 俺は絵里を廊下に連れだすと

「頼みがある」

「何?」

「今日から試験終わるまで、いや春休みに入るまで学校から駅まで工藤さんと一緒に下校して欲しいんだが」

「何で私がそんな事しなければいけないのよ」

「絵里、俺も一緒に下校する」


「ふーん。そうなの。大切な彼女の為に私を利用する訳ね。いいわよ。その代わり」

「その代わり?」

「私の言う事を一つ何でも聞く事」

「何でも?」

「そうなんでも」

「…分かった」


「後、彼女を駅まで送ったら、私と一緒に昼食を摂る事」

「どこで?」

「ファミレスか喫茶店で良いわ。それとも私の家に来る?悠のマンションでもいいわ」

 それは不味いな。そんな事すれば絵里が俺の彼女と間違われる。そうすれば絵里をトラブルに巻き込む恐れが出て来る。


「絵里、申し訳ないがそれは出来ない。学校終わったらすぐに小委員会の方へ行かないといけないんだ」

 この理由なら大丈夫だろう。


「分かったわ。じゃあ春休みになったらずっと私と付き合ってよ」

「ああ、いいぞ」

 その頃には落ち着いているだろう。システムの方ももう用無しだしな。



 予鈴が鳴って俺達は直ぐに教室に戻った。



 試験が終わると職員室の横に有る生徒指導室に行った。多分ここだろう。少し待っていると真理愛が出て来た。

「えっ、悠、それに友坂さんも」

「工藤さん、帰りましょうか。駅までだけどね」

「真理愛、帰るか」

「あ、ありがとう」


 真理愛は俺を見ると下瞼に少しだけ涙を溜めたが、それを手で吹き払うと廊下を歩きだした。

 まだ生徒は残っていたが、俺と絵里との間に真理愛を挟んで歩いている姿に文句を言う奴はいなかった。陰口は聞こえたけど。



 試験週間も今日で終わった。後一週間で終業式だ。駅まで着くと

「友坂さん、ありがとう」

「どういたしまして」

「悠、今日の夜連絡して良い?」

「ああ、いいぞ」

「じゃあ、ふたりともさよなら」



 絵里と二人で改札に入る真理愛の後姿を見ていると

「なんか、工藤さん元気なかったね」

「まあ、メディアで騒がれ過ぎたからな」

「あれをSNSへアップした人誰なのかな。あれだけ世界中を騒がして。現政権にとっては凄い痛手よね。警察庁長官の更迭、法務大臣、総務大臣の辞任なんて笑えないでしょうね」

「そうだな」

「やったの悠でしょ?」

「はははっ、俺がそんな事出来ると思っているのか?」

「悠だから思っているのよ。じゃあ、また明日ね」

「ああ」

 


 俺は家に帰ってから武道場にも行き始めた。稽古に集中していると嫌な事を忘れる事が出来る。



 夜になり、駅前のスーパーで買い物をした。もうあまり気を付けなくてもいい様だ。今あいつらの親に権力はない。



 マンションに戻り、入口のドアを開こうとした時、後ろから声を掛けられた。全く気配を感じなかった。振り向くと


「坂口悠君だね。私は国家公安委員会の住吉正俊(すみよしまさとし)だ。少し話が出来ないかな?」

「公安がなんで俺なんかと話が有るんだ?」

「君が警視庁のサイバーセキュリティ対策本部に提供した例のシステムの提供を我々にもして欲しくてね」

「そういう話ならお断りします。あれはもう作る気は無いですから。警視庁から貰えば良いんじゃないですか」

「そうは行かないんだ。実言うと君の書いた設計書がだね…。恥ずかしい話だが、警察庁のサイバー局の人間には誰も理解出来なくてな。こんな所で話すのは野暮だ。私の車で話さないかね」

 逃げる事は出来なそうだ。


「いいですよ。でもいきなり手錠とか言わないでしょうね」

「何を言っている。君は公安特別サイバー監察官に付いて貰いたいんだよ。勿論高校は続けて貰って構わない」

 話がおかしくなったな。


「条件は何ですか」

「君の身の安全の保障だ。神門組が君を探している」

「そういう事ですか。分かりました。もうここが分かった以上、逃げも隠れもしませんから、その話明日の午後からでは駄目ですか?」

「はははっ、そうだな。君は現役の高校生だからな。本分を邪魔してはいけない。明日、また此処に来る」


 俺を降ろすと住吉って人は車で去って行った。面倒臭くなりそうだな。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。


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