第36話 先制攻撃こそ最大の防御


話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

この話はほとんど坂口悠視点です。

宜しくお願いします。


―――――


 仙田温泉から戻った俺は、早速、仙田温泉雪山ビレッジの件をビデオと音声で編集し、アップできるようにした。あと工藤警察庁長官と神門組の正月の挨拶の音声もだ。


 出来れば一回でも良いから何処のメディアからテレビ放映される事を祈ったが、何もあの事に関わるニュースは流れなかった。

 やはりあの三人は完全に丸め込まれたか。仕方ない。



 俺は、SNSの色々なプロバイダーに対して一斉に俺が手に入れた情報を流した。勿論日本版SNSだけでない。海外のSNSに対しても英語で全て流した。

 後は、急いで警視庁サイバーセキュリティ対策室に行ってあのシステムのパラメタを全開するだけだ。


 警視庁に着くまでは、まだメディアの反応はなかった。本部長の許可を得てサイバーセキュリティシステムのパラメタを全てオンにすると…


 一斉に、日本のセキュリティに引っ掛かる犯罪が表示され始めた。自分でも驚いた。病院に侵入しようとしているハッカーや、高エネルギー研究所に侵入しているハッカー、各企業に侵入しようとしているハッカーの居場所が一斉に表示され始めた。おれおれ詐欺や振り込め詐欺の情報等も有る。


「坂口君、君は何をしたのかね」

「いえ、最近僕の耳にこのシステムの信頼性に疑いを掛けたり、陰で僕を誹謗する人達がいるので、このシステムの機能をマックスまで上げました」

「しかし、これはまだプロトだろう」

「プロトでもこの位の事は出来ます」



 サイバーセキュリティ対策本部を出た俺は、そのままマンションの部屋には戻る事はせず、一応マンションを遠目から見える所で見ていたが、マンションの傍に来たのは、まさかの真理愛だった。どういう事だ?


 仕方なしに、スマホで連絡をすると

「悠、今どこにいるの?お父さんとお兄さんが大変な事になっている」

「どうしたんだ?」

「警視庁と地検特捜部の人達が来て、お父さんを連れて行った。家の中も色々調べられている。お兄さんも警察にいる」

 家宅捜索か。動きが速いな。


「真理愛、今、学術会議から戻って、駅に着いた所なんだ。駅前の喫茶店に来るか?」

「うん」


 真理愛の後ろには誰も付いて来ていない。付けられてはなさそうだ。



 駅前の喫茶店で真理愛と会った。真理愛は開口一番

「悠どうしたの。三月に入ってから全然学校に来ないじゃない」

「うん、学術会議の人達と研究テーマについて連日検討していて、学校に行く暇なかったんだ」

「そ、そうなの?確かに悠は学校の勉強なんて聞く必要ないものね」

「ところで真理愛。いったい何が有ったんだ。さっき凄い事言っていたけど」

「うん。今日の朝、起きてすぐに、いきなり警視庁の人と東京地検特捜部の人達が来て、出勤前のお父さんとお兄ちゃんが連れて行かれた。

 その後家の中を色々調べられた。私は家にいる様に言われたけど、全部終わったら、もう自由にしていいと言われて、どうしていいか分からず、悠のマンションに行ったの。だってメールしても連絡しても既読すらつかないんだもの」


「そうか、それは悪かったな。忙しいからオフにしてあったんだ」

「それに、ネットにお兄さんの仙田温泉での事やお父さんと神門組の会長との関係がアップされていて、いま大炎上している。だけど誰がアップしたか、投稿者が何も反応しないので好き勝手にみんな言っていて」

「…………」


 あのネットにあげたのは正解だったようだな。メディアの口は防げてもSNSを見る何億人もの人達の口を塞ぐことは出来ないからな。


「どうしたの悠。黙ってしまって」

「いや、真理愛の事考えて、どうすればいいかと思って」

「…ありがとう。私どうしたらいいか分からない。お父さんの名前もお兄さんの名前も実名で出ているし、仕事も学校も家も皆バレているから、学校にも行けない。私どうすればいいの悠?」


 考えていた通りになったな。だが、マンションに戻るのは危険だ。どうするか。だが、真理愛とこうして居ても埒は開かない。取敢えず彼女を家に戻させて、それからだ。

「真理愛、今は苦しい時だけど、とにかく家に入って一歩も出るな」

「でも家の前はメディアの人が一杯いて入れない」


 そういう事か、流石に工藤警察庁長官も木崎法務大臣も今回は手を回し切れない様だ。これでいい。後は武藤武がどうなっているからだが、ニュースを見たい。


「真理愛、取敢えず俺と一緒にネットカフェに行こう。明日には少し冷めているかもしれない」

「うん」

 俺はニュースが見たかった。


 ネカフェで手続きをして直ぐに個室に入ると真理愛がいきなり抱き着いて来た。


「悠、悠、怖かった様」

 泣きながら俺に抱き着いている。俺も彼女の背中に手を回して

「大丈夫だ。俺が付いている」

 少しだけ、唇を合わせてあげると俺の胸に頭を付けて


「離さないで」

「ああ、離さないよ。ちょっと俺もニュースを見たい良いか?」

「うん」


 備え付けられているPCでテレビニュースを見るとどこの局も工藤警察庁長官、木崎法務大臣と遠藤総務大臣の拘束、それに工藤大樹、木崎洋介、遠藤武の逮捕が飛び交っていた。


 そこには、二年前に起きたあの事件の事も。坂口の名前は出ていない。多分あの時抑え込まれた局の人間の反発だろう。


 これでいい。父さんに連絡をしたいが、もう少し待つか。俺は最近見ていなかったスマホをオンにして見るとメールや着信履歴が数えきれない位有った。ほとんどが真理愛と絵里からのものだ。


 スクロールアップしていると父さんからのメールもあった。覗いてみると

『悠、大丈夫か。こっちは朝から警察が来ているが、何も知らないと言ってある。警察がお前を何故探しているか知らないけど、気を付けなさい。お父さんはいつもお前の味方だ』



 俺はそれを見ながら返信はせずにしておいた。だが、既読が付いてしまった。まあ父さんのスマホを検閲するなんて事はこの状況ではしないだろうけど。大方あの時、俺を取り調べた刑事が、もう一度話しを聞きたがっているんだろう。俺は覚えていないが。



 今日の所は取敢えず真理愛と一緒にネカフェで泊まる事にした。今のネカフェはシャワーも付いている。初めて使ったが、悪くない。

 ただ、真理愛が、今まで我慢して来た所為かその分狭い部屋で…。本人は必死に口を塞いでいたけれど、隣に聞こえているんじゃないかな?


 あの三人の親も拘束されたという事は、俺に対する力も働かなくなる。明日は用心しつつ一度マンションに戻るか。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る