第39話 束の間の春休み


話中に聞いた事のあるワードが出て来ますが、現実の組織、団体とは一切関係ありません。また一部分詳細に書かないが故に説明不足を感じる方もいると思いますが、ご了承願います。

宜しくお願いします。


―――――


 俺は、春休みに入る前の数日で現在警視庁サイバーセキュリティ対策室に提供しているシステムの完成版の仕様を作成した。

 元が有れば更新は楽だ。但し、万一の事を考えてある仕組みを中に入れた。これが理解できる人間はいない。


 春休みに入ると最初の一週間は公安調査庁に行って、仕様の説明をした。最初公安調査庁サイバー特別調査局の人達は俺の姿を見て、子供じゃないかという馬鹿にした気持ちが露わだったが、一週間後には全員が目を丸くして俺に対する見方が変わっていた。


 実際ハードウエア、ソフトウエア面での仕様が、警視庁で機能しているという実績が彼らを眉唾と思わせる事をさせなかった。


 本当は三日もあれば説明できるのだが、彼らの理解が追い付いてこなくて仕方なく一週間かかってしまった。

 その後、局内の担当者間で再度共有する(理解を深める)という事で俺には三日間の休みも貰う事が出来た。



 毎日だが、公安庁へ行く途中、マンションに帰る途中、誰かに付けられている気がして、万一を考えて住吉さんに連絡を取った。


「住吉だ」

「坂口です。最初に公安委員会に行ったその後から今日まで、公安庁の行き帰りに誰かつけられている気がするんですが、調べて貰えませんか」

「その事か、神門組の者だ。こちらでも既に認識している。彼らが君に何か事を起こそうとしたら、その前にこちらで片付ける手配だ。気分は悪いが気にしなくていい」

 それでも嫌なものだが。


「分かりました。ちなみに実家の方はどうなっています?」

「警察庁の方に命令して、君の家族には分からない様に二十四時間見守っている。今の所それらしい事や人物が現れたという報告はない」

「そうですか。ありがとうございます」


 俺は、マンションに入った後、一度シャワーを浴びて夕食を摂った。と言ってもコンビニ弁当だが。

 その後、最初に真理愛に連絡した。


 あっ、スマホが震えている。画面を見ると真理愛だ。直ぐにタップした。

「悠、私」

「連絡が遅くて悪かったな。急だが明日会えるぞ」

「えっ、ほんと!じゃあ、朝一番で悠のマンションに行く」

「朝一番って?」

「朝の七時。朝ご飯作ってあげる」

「いや、それは良いよ。もっと遅く来ても構わない」

「いいの、朝早く行きたい」


 真理愛がマンションの前まで来ても俺の関係者だとは…、いや分かるか。かといって俺が迎えに行けば関係を分からせる事になる。そうすれば真理愛が狙われる。


「分かった。気を付けて来るんだぞ」

「うん、会うの楽しみ」

「俺もだ」


 俺は真理愛との連絡を終えると直ぐに絵里に連絡した。春休みに会うと言いながら連絡も入れないから怒っているかもしれない。



 あっ、スマホが震えている。画面を見ると悠だ!あいつ全然連絡寄こさないんだから。直ぐに画面をタップすると

「もしもし悠。なんで全然連絡くれないのよ。春休みずっと会うって約束したじゃない」

 いきなりこれか。


「悪い。ちょっと忙しくてな」

「まさかずっと工藤さんと会っていたんじゃないよね」

「彼女とも全然会っていない。学術会議の方で忙しかったんだ」

「そ、それなら良いけど。じゃあ明日から全部会って」


「絵里、それは出来ない。明後日一日だけだ」

「どうしてそうなるの。全部会ってくれるって言ってたじゃない」

「ごめん。色々入ってさ」

「ふーん。そう色々入ってたの。どんな色々?」

「それは言えない。とにかく明後日一日だけだ。それに三年になれば毎日会える」

「それはそうだけど」

「とにかくそういう事だから」

「分かった」


 悠の奴、あの件はもう終わった筈。何をしているんだろう。まあいいわ明後日会えるなら。どこ行こうかな。



 翌日、俺は控えていた午前六時のジョギングを再開した。季節は春。もうだいぶ暖かい。いつものコースをジョギングしている。後ろから付けてくる気配はない。問題なさそうだ。


 コンビニの前に行った時入ろうとしたが、真理愛が朝食を作ってくれる事を思い出し、寄らない事にした。その時偶然入口のドアが開いたので本能的にレジを見るとあの子がやっていた。


 そうか戻ったのか。良かった。でもこれでこのコンビニは来れなくなったな。朝ご飯どうするかな。

そう考えている内にマンションの前に着いて。入り口を見るともう真理愛がいる。まだ午前七時まで三十分は有るはずなのに。


 入口に行って

「真理愛おはよう」

「あっ、悠。ジョギング行っていたんだ。ちょうど今来た所良かった」

「そうか、じゃあ入るか」

「うん」



 俺がシャワーを浴びている間に真理愛は朝食を作ってくれていた。もう何回かキッチンは使っているので、食器類は何処に有るのか分かっている。


 頭を拭いて、Tシャツと下はジャージ姿でダイニングと言ってもキッチンと同じ場所だが、に行くと真理愛が可愛いウサギのプリントの付いたエプロンを取る所だった。


「悠、出来たわ、食べましょう」

「ああ」


 炊き立てのご飯にスクランブルエッグとベーコン、トマトとレタスのサラダに味噌汁だ、海苔もある。純和風朝食だ。こういう朝食ここ二年半食べていなかったので嬉しい。


「凄いな。美味しそうだ」

「どうぞ召し上がれ」

 

 お茶碗から淡く湯気が立っている。炊き立てだ。一口食べると

「上手い、久しぶりだなこんなに美味しいご飯は」

「ふふっ、嬉しいな」


 二人で楽しく朝食を食べた後、一緒に食器を片付けて真理愛が洗い、洗い籠の中に置いた。


「真理愛、暖かいミルクティを淹れてあげるよ」

「ありがとう」


 ミルクティを淹れた後、二人でリビングのローテーブルの前にあるソファに座った。いきなり真理愛が抱き着いて来た。


「会いたかった。会いたかった。本当に会いたかった。お父さんとお兄さんがあんな事になって二人でネカフェに泊って以来だよ。ねえ、我慢出来ない。毎日毎日、悠の事ばかり考えていた。お願い」


 俺は真理愛の希望を叶えるべく寝室に誘った。まだベッドがぐちゃぐちゃだ。

「いいよ、これで。悠を思い切り感じられるから」


 水を取る以外、真理愛は物凄く俺を求めて来た。


「悠、もっと」


 もう三回目も終わった。何時か分からない。

「真理愛休ませてくれ」

「うん、私はもっとして欲しいけど」

「どうしたんだ?」

「会えなかった分、全部埋めたい」

「えっ?それって何回になるの?」

「ふふっ、明日の朝まで」

「えーっ。でもいきなり外泊なんてお母さん心配だろう?」

「いいの。お母さんにはしっかりと言ってある」

 何をしっかり言ってあるんだ?

 


 もう午後二時を過ぎていた。

「真理愛、限界」

「仕方ないなあ。じゃあ、遅い昼食ろうか?」

「いや、寝たい」

「駄目」

 

 真理愛ってこんなにこんな事好きなんだっけ?


 午後三時になり、やっとベッドから解放された俺は一度シャワーを浴びに行った。もう汗だらけだ。

 寝室に戻ると真理愛が眠っていた。あれだけ求めれば眠くなるだろうに。


 一時間して真理愛が目を覚めた。

「あっ、寝ちゃった」

「ははっ、あれだけすれば眠くなるよ」

「ねえ、悠。今年三年生だよね。私、学校に行くのが怖い。お父様やお兄様の事で皆から苛められそうで」

「俺が守ってやる。いつも側に居ればいい」

「その言葉信用して良いんだよね」

「ああ」


「じゃあ、友坂さんの事はどうするの。私とずっと一緒じゃあ、彼女焼餅焼くよ」

「絵里も一緒ならいいだろう」

「えっ、そういう事」

 一日中二人だけと思っていたのに。


「だって、俺がちょっと用事あった時、真理愛が一人では不味いだろう。だから絵里も必要だ」

「彼女、それでいいの?」

「絵里からも言われている」

「えっ、そうなの?」

「ああ、そうしないと俺の股間を蹴るそうだ」

「あははっ、なにそれ」


「真理愛、今まだ午後五時だ。家に帰れ。お母さんが心配する」

「いや、ここにいる。お母さんも良いって言ってくれた」

 真理愛は俺の事、母親にどう言っているんだ?あの事は知らないはずだが。


「真理愛、俺はお母さんに会った事無いが、俺の事どう言っているんだ。会った事もない男の部屋に泊りに来ているんだぞ」

「大丈夫。今日は春休みだから、友達の家に遊びに行くって言っておいた。悠に会うとは言っていない」

「そういう事か」


 まあ、普通そうだよな。泊まる先が会った事もない男の部屋なんて普通、親だったら認めないだろう。仕方なくなってしまった。しかし、明日は絵里と会う。それも絵里の家のある駅の改札に午前十時だ。どうするかな?


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回以降をお楽しみに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る