第10話 お正月は色々起こる


 午前十時二十分前、俺は高橋さんの家の最寄り駅の改札にいる。紺色のダウンに下には厚手のシャツを着て、冬用のスラックスを履いている。手袋をしていないので手をダウンのポケットに入れて待っていると十分前に高橋さんが来た。


 白いダウンにロングスカートそれに黒いブーツを履いている。

「坂口君、明けましておめでとう」

「高橋さん、明けましておめでとう」

「神社はここから十五分位歩くのだけど結構大きな神社なんだ。行こうか」

「うん」



 少し歩くと参道が見えた。大きな鳥居があり、着物姿の女性や男性が一杯いた。

「結構大きいね」

「うん、この辺では、有名な神社だよ」


 参道に入ると交通整理の人が一列七人で並んでくれと言っている。確かに俺達の後ろにもあっという間に人が並んでいた。


「坂口君、順番で手を清めようか」

「そうだね」


 俺達は交代で参道の横にある手を洗う場所に行って手を洗うと無口になった。周りの人も自然とそうなっているみたいだ。ちょっとだけ緊張する。



 境内に入り俺達の番になると百円を賽銭箱に入れて二礼二拍した後、手を合わせてお願い事をした。そして一礼して横にずれる。



「坂口君は何をお願いしたの?」

「それは言えないよ。叶えたいから」

「私は言えるよ。坂口君ともっと仲良くなれます様にってお願いしたんだ」

「…………」

 どういう風に捉えれば良いんだ。今だって友達で仲が良いと思っているんだけど。確かに高橋さんとは冬休みの間に随分話せる様になった。まだ足りないのかな?



「坂口君。おみくじしよ」

「いいよ」


 百円を箱に入れて番号の付いた棒が入っている箱を良く回して棒を一本出して、棒に書かれている番号が貼られている棚からおみくじを一枚取って開けて見た。


「小吉だ」

「えっ、私は大吉だよ」

「いいなあ、まあ俺はこんなものだから」

 坂口君はなんでそんな言い方するんだろう。少し寂しい。


「気に入らないおみくじは、あそこに結び付けておけば後で神主さんがお焚き上げしてくれるんだって。結び付けたら?」

 それって、結びつける場所が一杯になるから処分しているだけの様な。こんな考えは良くないか。


「いいよ、小吉だって悪くない。伸びしろが有ると思えばいいさ」

「坂口君、随分前向きな考えね。素敵よ」

「そ、そう」

 褒められるような事言っていないんだけど。



「ねえ、ちょっと早いけどお昼兼ねて喫茶店かファミレスに入らない」

「いいけど、せっかくの元旦、家にいなくていいの?」

「ふふっ、私は坂口君の傍が良い」

「…………」

 どうと捉えれば良いんだ。




 私、友坂絵里。家族と一緒に隣駅にある神社に初詣に来ている。着慣れない着物だけど親がせっかく買ってくれたのだから着ている。少し歩き辛い。ゆっくりと参道を歩いていると、えっ?なんで悠が高橋さんと一緒におみくじ引いているの。どういう事?


 この前は学食で一緒に食べていたし。悠、まだ心の傷が癒えてないんじゃないの。どうしてあの子と笑顔で会話が出来るの。私にはまだ全然冷たいのに。


 もしかして二人付き合っている?そんな事ない。絶対にそんな事ない。悠は、胸が大きいだけの美人でも可愛くも無い子と付き合う筈がない。あいつと付き合う権利があるのは私だけよ。


 この前のクリスマスで、大分悠と話せる様になったと思ったのに。不味いわ。何とかしないと。




 俺達は、駅の近くに有るファミレスに入った。結構混んでいて順番待ちになっている。

「坂口君、どうしようか待つ?」

「うん、何処に行っても同じだろ。待つよ」

「分かった」

 彼がウエイティングリストに名前を書くと二人でウエイティング用の椅子に座った。



 俺は、一人だからこれで良いんだけど彼女はこれで良いんだろうか。無理して合わせてくれる感じじゃないし。でもやっぱりいいのかな?ここは早めに切り上げて別れた方が彼女の為かも知れない。



 順番が来てボックス席に案内されると二人で対面で座った。二人で一つのメニューを横にして見る。


「坂口君、何食べようか?あっ、お正月セットっていうのもあるよ」

「えっ、どこ?」

 彼女が指を差した。お雑煮と小さなお菓子それにお茶だけだ。


「うーん、それだと足らないかな。二百グラムステーキセットにするよ」

「さすが高校男子、食欲あるね。私はヘルシーサラダセットとドリンクバー。坂口君はドリンクバー要らないの?」

「うん、この後ちょっと用事が有って」

「えっ?…そっかあ、残念だな。今日は夕方まで二人で居れると思ったのに」

 それは俺への気遣いだけだよね。無理しなくても良いのに。


「じゃあ、それで頼もうか」

 彼女がテーブルの脇にある呼び出しボタンを押して店員さんを呼んだ。


「坂口君は二百グラムステーキセットね、私はヘルシーサラダセットでお願いします」

「あれ、ドリンクバーは?」

「だって坂口君頼まないのに私だけ頼んだらおかしいよ」

 それはそうだけど。


 店員さんが席を離れた後、

「ねえ、聞いて良いかな。言えれば教えて。この後どんな用事があるの?」

 多分無い筈。彼は私の事を気遣ってくれているだけ。出来ればもっと一緒に居たい。


「うん、ちょっとね」

「言えないんだ。私はもっと坂口君と一緒に居たい。本当にそう思っている」

「…………」

 本当だとしてもこれ以上、一緒に居るのは別の意味で辛い。周りの家族ずれの楽しそうな笑顔が、胸の中で嫌な思い出を引き出しそうで堪らない


「本当は何も無いんじゃないの?私に気を使っているだけでしょ」

 なんか、押しが強いな。元々そんな子だったけど。


「いや、本当にあるんだ。だからごめん、気持ちは本当に嬉しいけどごめん」

「分かった。そこまで言うなら諦める。今度会えるのは学校始まってからだね」

「そうなるかな」



 注文の品が来て食べていてもちょっと会話が進まなかった。仕方ない。これで良いんだ。



 ファミレスを出た時、

「坂口君、君が抱えている事って私には想像も出来ない位大変な事だと思う。でもこんな私で良かったら。こんな私だから君の役にたちたい」

「…ありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ。でもまだ自分でもどうしようも無いんだ」

「そうなの」


 高橋さんが寂しそうな目をした。本当に俺の事を思っていてくれるんだ。でも今日は精神的にこれが限界だ。一人になりたい。


「じゃあ、これで」

「うん、坂口君も」


 気の所為か坂口君の背中がとても寂しそうに見えた。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

次回もお楽しみ下さい。


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