第8話 クリスマスはイブより当日
俺、坂口悠。昨日高橋さんと二人でクリパをした。そして友達になる約束もしてしまった。
俺の様な男に高校に入ってから友達が出来るなんて考えてもみなかった。ただ、彼女は俺の過去を知っている訳でもないのに、入ってはいけない一線を彼女なりに理解してくれている様だ。だから話をしていても楽しかった。
そして今は二十五日午後一時。友坂絵里から空けておけと言われていたが、別に入っている用事はない。それにあいつからは、あの後連絡も無かったから何も無いのだろうと思い、武道場に出かける支度をしていた時、スマホが震えた。
画面を見ると友坂からだ。画面にタップして
「はい」
「悠、今から来れる?」
めちゃくちゃな奴だな。まあどうせ武道場に行く予定だったし…。
「構わないが」
「じゃあ、デパートのある駅に二十分後で良い?」
「良いけど」
あいつの家からはもっとかかるはずだが?
俺は、胴着の入ったバッグだけおいて直ぐにマンションを出た。ぎりぎりだが間に合うだろう。
調度二十分後にデパートのある駅について改札に行くと友坂が待っていた。あの時点で来ていたのか?
「悠、来てくれたのね」
「お前が来いと言ったんだろう」
「まあ、いいわ。さっ、行こう」
「いきなり何処へだよ?」
「デパート。悠にクリスマスプレゼント買ってあげるから」
俺の洋服の袖を引っ張って歩き始めた。何なんだこいつ?
「なあ、なんで俺にクリスマスプレゼントなんかくれるんだ?」
「いいじゃない、私がそうしたからよ」
悠は、あの事件以来、心を閉ざしている。私もどう接して良いか分からないままに中途半端な態度を取って来た。
彼のその日の調子を見る為に朝の挨拶だけはして確認していた。でもそれだけでは、何も解決できない。
だからクリスマスをきっかけに少しでも悠が心を開いてくれればと思って彼を誘う事にした。
最初は、彼にプレゼントを送る事を理由にして会話のきっかけを作る。
「悠、何か欲しいもの無い?」
「特にない」
「えーっ、でも冬物の洋服とか、何か有るでしょ?」
実際、冬服なんて去年の物でも良いと思っていたが、流石に中学生の時来ていた洋服では不味いと思い、この前買いに来ていた。
「うーん、ハンカチは昨日貰ったし…」
「えっ、貰った?誰から?」
「誰だって良いだろう」
「まさか、昨日用事が有るって言ったのはその子と一緒?」
「そうだよ」
不味い、まさか今の悠に声を掛ける子がいたなんて。
「じゃあ、マフラーは?」
「それは持っていない」
「よし、マフラー贈ってあげる」
まあ、いいか。邪魔になるものでも無いし。
「ねえ、どれか好きなの選んで」
「友坂の好きな奴でいいよ」
「えーっ、じゃあこれは?」
彼女が選んだのは、濃い紫色にブランドのマークがワンポイントで入ったマフラーだ。いくらするんだ。これ?
俺が値札を見ようとすると
「いいの。私が買うんだから」
そう言うとそのマフラーを持ってレジに行った。どうもカードで買うみたいだ。少し待っていると
「これは、この後の二人だけのクリスマスパーティの時にね」
「えっ、この後も有るのか?」
「何を言っているの。この後が本番でしょ。悠の部屋でしよ」
「何?!」
「良いでしょう。色々考えたんだけど、選択肢そこしかなかったのよ。あっ、私自身は、まだプレゼント対象じゃないからね」
「…………」
まだ?ってどういう意味だ。しかしこれじゃあ昨日と同じじゃないか。もしかしてこの後地下のストアなんて…。
「ところでさ、料理地下のストアで調理済み品買いましょ」
参った。これじゃあ、全く同じじゃないか。
結局、昨日と同じ様に小さなホールケーキ、チキン、コールスロー、サラダ、飲み物とお菓子を買って俺のマンションに来た。
「割と駅から近いのね。それに素敵なマンション」
「入るぞ」
俺の部屋に入るなり
「わーっ、結構広いんだ。これなら毎日遊びに来ても問題ないわね」
「ちょっと待て、毎日遊びに来るってどういう意味だよ?」
「別に言った通りだけど。何か問題あるの?」
「有り過ぎるだろう。男の部屋だぞ」
「ふふっ、悠は私が欲しいの?」
「そんなつもりはない」
ショック。少し位言い淀みなさいよ。
「分かっているわよ。冗談よ。それより料理をお皿に移しましょ。何処食器?」
「そこの食器棚だ」
私は、デパートの地下にある有名なストアで買った調理済み品を簡単に手を入れる為、キッチンに入ると、えっ、洗い籠に二人分の食器が残っている。まさか昨日ここで…。
私はそれを気にしない様にしながら料理をチキンを温めたり冷野菜を冷蔵庫に入れ直した。
この間にテーブルを整える。
少し悠が手伝ってくれたので、簡単に用意する事が出来た。悠のグラスと私のグラスにアップルタイザーを入れると
「「メリークリスマス」」
「はいこれ、プレゼント」
「ああ、ありがとう友坂。嬉しいよ。ところでなんでここまでしてくれるんだ。去年は何もしなかったろう」
「そ、それは…。ほら私達高校生になったでしょ。だから高校生らしくしようと思って」
「意味分からないが、嬉しいよ。でも俺からのプレゼントないからな。急にやる事になったし」
「良いわよ。欲しいものは有るけど。それはまだ待っておく」
「…………」
どういう意味だ。
「悠、お願いが有るんだけど」
「なに?」
「私の事、名前で呼んでくれない。絵里って」
「はぁ?どうしたんだ。急に」
「だって私達中学からの知合いで友達だし、私も北沢も悠って名前呼びしているし、悠も北沢には芳美って名前呼びしているでしょ。だから私も絵里って呼んで」
「そんな事なら構わないぞ。お前が嫌がると思ったから苗字読みしていただけだから」
「えっ、本当なの?」
もっと早く言えば良かったか。
「後さ、手とか偶にはつなげるかな?」
「絵里、お前熱でも有るのか。いつもと違うぞ」
「そうかもね。やっぱりいいわ。手つなぎは」
大分話せる様になって、ちょっと急ぎ過ぎたかも。
「でも嬉しいな。中学の時の様にこうして悠と話せるなんて。それにイブより今日がクリスマスの本番だからね!今日が本番だからね!」
なに力入れているんだ?
その後も色々話したが、俺が話したくない事には、触れられなかった。やっぱりこいつ何か知っているのか?
絵里を駅まで送って行き、自分の部屋に着いた所でポケットに入れてあるスマホが震えた。ポケットからスマホを取出して画面を見た時…。あの光景が蘇ってしまった。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
次回もお楽しみに。
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