第7話 女の子と二人でクリスマス


 私、高橋友恵。坂口君と明日、二人でクリスマスパーティをする事になった。何処でしようかな。私の部屋、彼の部屋、いやいやそこまでは。じゃあカラオケルーム?

 あっ、それにクリスマスプレゼントも用意していない。どうしよう。



「高橋さん、…ねえ、高橋さん?」

「あっ、はい」

「どうしたの?なんか別の世界に入って行ってたよ」

「すみません」

「何か歌う?」

「えっ、でも私いきなり言われても」

「じゃあ、考えといて。また回すからさ」


 今、クラスの子とクリスマスパーティをカラオケでやっている。なんでもここのカラオケにクラスの子の知合いが勤めているという事で、二十人部屋を予約してくれていたそうだ。

 結構、集まっている。男子女子合わせて十五人位いる。当分マイクは回ってこなさそうだ。結構みんな乗っている。


 こういうのは初めて。あっ、男の子が近づいて来た。

「高橋さん、俺の事知っている?」

 誰だろうこの人?


「あははっ、やっぱり影薄いか。俺、城之内弘和(じょうのうちかずひろ)。覚えてね。高橋さん、明日時間有る?二人でクリパしない?」

 うわっ、いきなりだ。


「ごめんなさい。気持ち嬉しいけど、もう入っているんだ」

「そっかあ、高橋さん可愛いし、胸大きいし、人気あるよね。遅かったあ」

「城之内お前の番になるぞ」

「おう、分かった。じゃあ高橋さん今度一緒にね」



 あっという間に来て、あっという間に去って行った。私の事可愛いなんて言ったけど、皆私の胸を気にしている。チャンス有ればなんて下心一杯が丸見えだ。そういう意味では坂口君はそんな素振り無いし、やっぱり彼良いな。あれ、私何考えているんだろう。




 午後四時にクラスの子とクリスマスパーティは終わった。二次会に行く人も多かったけど、私は断った。なんかあういう風にみんなで騒ぐの好きじゃないから。



 さて、明日の二人だけのクリパどうしよう。それにプレゼントも。断れるだろう予定で坂口君に確認したから何にも考えて無かった。早く連絡もしてあげないと。


 まず、場所だよね。何処にしよう。私の家は家族いるし、私の部屋では、恥ずかしいし、彼の家、一人暮らしって言ってたし、…やっぱり不味いか。


 ファミレスは駄目だしなあ。そうするとやっぱりカラオケルームしかないか。でも色気ないかあ。あーっ、どうしよう?



 私は、一案を思い付き、相談の内容は別にして思い切って坂口君に連絡した。



 スマホが震えた。高橋さんからだ。俺は直ぐに画面をタップして

「はい」

「坂口君?高橋です。クリパの件なんだけど、その色々考えたんだけど私の家は家族がいるし、私の部屋はその…狭いし恥ずかしいし、かといってファミレスやカラオケルームじゃちょっとなあと思うし、それでね…」


 黙ってしまったよ。それって引き算すれば一つしか残らないじゃないか。


「俺の部屋か?」

「そ、そうなんだ。もうそこしか残っていなくって。で、でもね。その私、変な事とか下心とか無いし、絶対大丈夫。潔癖少女だから」

 それって普通男が言う言葉だろ。変な奴だな。


「俺がその気になったらどうするんだよ。俺は男だぞ」

「それも困る。まだした事無いし」

 それ言うか?まあ、俺もする気無いから。


「分かった。じゃあ、お互い変なことしないという事で俺の所で開くかクリパ」

「うん!でね…」

「まだ有るのか?」

「そのプレゼントとかまだ用意していないし、明日午前中一緒にデパート行ってくれないかな」

「はぁ?」

 呆れた。ここまで来ると、要は取敢えず俺に声を掛けただけで一緒に出来るとは思っていなかったんだ。何という無計画。


「分かった。いいぞ」

「でね…」

「まだ有るのか?」


「その、朝デパートに出かけると料理作る時間無いからデパートの食品売り場にある調理済み品で良いかな?」

 もう開いた口が塞がらない。


「分かったよ。高橋さんに皆任せる。何時にどこに行けばいい?」

「やったー!じゃあ、デパートある駅の改札で午前十時でどうかな?その後、プレゼント買って、調理済み品買って、君の部屋ね。午後一時には開けると嬉しいな」

「はいはい、分かりました」

「じゃあ、明日」


 ふふっ、捨て身の戦法って奴、結構使えるものだね。でも本当に大丈夫かな。もしかしたら、でも彼なら…。


 全く、どういうつもりだ、高橋さんは?




 翌日、午前十時二十分前にデパートある駅の改札に来た。ここは俺の家から学校とは反対方向に四駅。駅の総合施設の中にデパートが有るという感じだ。

 クリスマスイブという事も有って、結構カップルが一杯いる。


 スマホを弄りながら待っていると五分前になって、彼女がホームからのエスカレータに乗って降りて来た。

 白のガウンに、茶色の膝下スカート、それに黒のブートを履いている。


「まったあ、坂口君?」

「まだ五分前だからな」

「じゃあ早速行こうか」


 俺、いや俺達はデパートの紳士用品売り場に行くと

「ちょっとここで待っていて。買うもの見られると渡す時、トキメキ無くなるし」

 最初から無いんだが。


 十分もしない内に出て来た。彼女が俺にプレゼントする以上、俺も何送るしかないが。どうすればいいんだ。


「坂口君、私のプレゼントだったら気にしなくて良いよ。急に誘ったんだし。地下の食品売り場に行こう」

「いや待ってくれ。そうはいかないだろう」

 だが、何処へ行けばいいんだ。そもそも買う物が分からない。その場で迷っていると


「じゃあ、ハンカチが良いな」

「分かった」


 女性用品売り場に行って彼女が欲しいと言ったハンカチを買って化粧箱に入れてリボンを付けて貰った。


 少し高かったが、金銭的には余裕がある。あの一億円もそうだが、親から毎月生活費と小遣いを送って貰っている。あまり使う所もない俺は結構懐には余裕があった。


「ふふっ、後で喜んで貰うね」


 この後、地下の有名なストアでチキンやサラダ。オードブル、飲み物やお菓子を買った。勿論小さいけどホールケーキも。高橋さんは割り勘でと言ったけど、全部俺が払った。まあ、言葉としては後で精算と言っておいたけど。



 

 私、工藤真理愛、今日は父さんがクリスマスのプレゼントだと言って、冬物の洋服を買ってくれるという事で家族と一緒にデパートに来ている。

 婦人服売りで洋服を見ていると


 えっ?坂口君と同じクラスの高橋さんが一緒にいる。それも婦人服売り場に。どういう事。彼ってもっとドライでこういう所に女子と一緒にくるイメージ無かったんだけど…。


 それに高橋さんとはどういう関係なんだろう。イブの日に一緒に来るなんて。

 まさか二人、付き合っているの。何このもやもや。何か面白くない。


「真理愛、どれか気にいった洋服見つかったか?」

「お父さん、別のフロアに行こう」

「あ、ああ。そうするか」




 今、俺と高橋さんは俺の部屋のキッチンにいる。オープンダイニングなのでカウンタ越しに料理を受け渡せる。

 チキンはレンジで温めて、コールスローやサラダは一度冷蔵庫に入れている。勿論飲みのもだ。



「坂口君のマンションって広いんだね。もっとアパート一部屋風を思っていたんだけど、しっかり家族が住める大きさだね」

「まあ、親が買ってくれた所だから、俺は何も言えない」

 この位の踏み込みは大丈夫なんだ。


「そうかあ、その話は後でという事で、もう料理出そうか」

「ああ」



 二人でアップルタイザーを開けてグラスに注いだ後、

「「メリークリスマス」」

「さっ、食べようか」

「ああ」


 まさかのまさかだ。今年は一人で本でも読んでコンビニ弁当のつもりだったのに、まさか高橋さんと一緒に居る事になるとは。


「ねえ、坂口君」

「なに?」

「色々話をしたいんだけど、もしどうしても話題にしたくない所が私の口から出たら遠慮なく言って。無理して我慢されると寂しいから」


 そういう事か。俺がこの前の言葉に反応して以来、変に気を使う様な事が有ったからな。


「そうしてくれるとありがたい」


 それから俺達は学校の事、友達の事、趣味とかいっぱい話した。食事が終わって食器を片付けてから…と言っても彼女は結構上手で初めての台所なのにテキパキと片付けてくれた。


 その後はリビングのソファでグレープジュースを飲みながら話をした。あの件以来、人とこんなに話すのは始めてだった。言葉が途切れ始めた頃


「高橋さん、一つ聞いて良いか?」

「なに?」


「俺みたいな奴にどうしてここまでしてくれるんだ。もっと楽しい事だってあるだろう」

「これが私の楽しい事だよ」

「なんで?」

「なんで、高橋君と友達になりたいからじゃ駄目かな?」


 友達って…。中学時代の知合いで同じ高校に来たのは友坂と芳美位だ。芳美とは目を合すと頷く位で話はしない。あいつの希望だから。

 

 友坂とは中学の時は結構話たけど、高校に入ってまともに話した事は無い。まあ、いい男が一杯いるからな。当たり前だが。


 しかしこの子は俺と友達になりたいと言っている。どうしたものか。俺の今の感情で友達になれるものなのか。


「坂口君、私と友達になるのにそんなに考えなければいけないの?」

「違うんだ。ちょっと色々有ってな。それに友達になったからって、他の男子と違って、一緒にどこかに行くとか、遊ぶとか出来ないぞ。俺何も知らないから」

「いいよ。私だって、自慢じゃないけどゲームとかしないし、ゲーセンとかも行った事無い。カラオケだって昨日で二回目だよ。だから二人で覚えて行けばいいよ」

 なんかこの子凄い押しが強いというか、この前の昼食の卵焼きといい、凄いな。


「分かった。友達になろう」

「うん」


―――――


次回以降をお楽しみ下さい。


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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