第6話 クリスマスはどうしよう
私、高橋友恵。今日から坂口君とお昼を一緒に食べれると思っていたら…。
今日から終業式の前日まで午前中授業に変わっていた。すっかり忘れていた。そう言えば月曜日の朝、担任から言われていたんだ。
でも…学食は午後一時半までやってくれる。生徒の事を考えての事。午前中の授業が終わるといつも一緒に昼食を食べている子達に、学食で食べるからと言って急いで学食に向かった。彼いるかな?
結構生徒がいる。家で食べれない人だって一杯いるものね。自動券売機の所に坂口君が並んでいる。私は、彼が分かるように近くに行って、目を合わせると彼も気付いてくれたようだ。
わたしは、そのまま彼が座っていた窓際の二人席の所でテーブルにお弁当を置いて彼を待った。彼は今カウンタで待っている。
彼がカウンタから多分B定食をトレイに乗せてこちらに来る。
彼がトレイをテーブルに乗せて私の反対側の席に座ると
「食べようか」
「うん」
何となく彼の声が柔らかく感じる。初めて会った時とは大分違う。
「坂口君、もし良かったら、卵焼き食べない。私が作ったの。口に合うか分からないけど?」
「いや悪いから良いよ」
「そんな事言わないで」
私は強引に卵焼きの一切れを彼の皿に乗せた。
「結構強引だな」
「食べて見て」
本当に強引だ。仕方なく彼女のくれた卵焼きを口に入れると…凄い、ふんわりしていてジューシーで、汁が口の中で上手さと一緒に広がる。
「とっても美味しいです」
「本当!良かった。不味いと言われたらどうしようと思った」
「全然そんな事無いよ」
「ねえ、良かったら私が明日からお弁当作ってあげようか?」
「流石にそれは勘弁して。そこまでされる理由無いし」
「そ、そうだね。調子に乗って御免なさい」
「謝る必要はないよ。でも卵焼き美味しかったのは本当だから」
「坂口君優しいのね」
「俺が優しい?」
こんな言葉聞いた事ない。小学校からの付き合いの芳美だって言ってくれた事ない。まあ当たり前か。そう言えばあいつ居ないな。
「ごめん気に障った?」
私また変な事言っちゃったかな?
「そんな事ないけど」
その後、二人で静かに食べた。そう言えば一人暮らしって言ってた。クリスマスとかお正月とかどうするんだろう。あっ、でも聞いたらまた気にするかな。でもクリスマス位なら聞いても。
「ねえ、坂口君クリスマスどうするの?」
「なにもしない。終業式終わったら、一人でいるだけ」
これ以上聞かない方がいいか。
「そうなんだ。今日はこの後どうするの?」
結構突っ込むな。
「うーん、道場に行って稽古するぐらい」
「道場?稽古?」
「ああ、小学校の頃からやっている。今は、もう生活の一部かな」
「へーそうなんだ。でも駅までは一緒に帰れるね」
「それは良いけど」
この子なんで俺に絡んでくるんだろう。まあ、嫌な感じの子じゃないからいいけど。
坂口君と毎日昼食を摂る様になってからもう五日目。明日は終業式。その後、クラスの子とクリスマスパーティをカラオケでする事になっている。彼は何もしないって言っていたけど。
でも聞くのは良くないよな。家庭の事というか、プライベートな事には絶対に入ってはいけない感じだし。今日も一緒に駅まで帰れるからいいか。
俺、坂口悠。午前授業になってから、毎日道場に来ている。道場は学校側から見ると俺の家のある駅の一つ先だ。
家のある駅を通る時だけ、胸に嫌な思いが出て来るが、なるべく思いは飲み込む様にしている。
稽古が始まればそんな事も忘れてしまう。ここの道場に通ってもう八年目だ。年齢理由だけど、一応準師範になっている。十八を超えれば師範の資格が取れる。まあここの道場に勤める訳でもないが、自分がそこまで到達したという意味では嬉しい。
今日は師範代と手合わせをして貰っている。
「坂口、大分心が落ち着いてきたようだな。九月頃は相手を殺そうとする殺気しかなかったが、最近は、武道家としてのお前に戻っているぞ」
「ありがとうございます」
この道場の師範以上は俺に何が起きたかを知ってる。いや嫌でも分かる。ここに入れてくれたのは父さんだから。
男は強くなれ。守るものが出来た時、必ずそれを必要となる。でも父さんは…。多分、母さんや姉さんを人質に取られて一方的にやられたんだろう。あんな奴らに負けるはずがない。
「おい、坂口。待て、待て」
いけない、いらぬことを考えている内に師範代をあいつらと同じに見てしまった。
「すみません」
「また思い出したのか。時間では解決してくれないからな。今日はここまでだ」
「はい」
明日は終業式か。去年までだったら…。いけないまた思い出してしまう。
終業式の朝。俺が教室に入ると例によって友坂絵里が寄って来た。
「おはよ悠」
「ああ、おはよ」
「ねえ、明日空いているんでしょ。付き合ってよ」
「空いていない」
「嘘つきなさい。何も入っていないくせに」
「そんな事は無い」
「じゃあ、何するのよ?」
「他の子とクリスマスパーティをする」
嘘をついたが方便だ。こいつにはこれでもいい。
「えっ、他の子とクリスマスパーティ?誰よそれ?」
友坂が腰を曲げて俺にぐっと近寄って来た。顔と顔があと十センチも隙間が無い。サッと顔を避けると
「いいだろう、誰だって」
「ねえ、じゃあ明後日は?」
くそ、連続でクリパなんて言えないし。
「ふふっ、空いている様ね。じゃあ私としようか。クリスマスパーティ。勿論二人きりでね」
何言ってんだ。こいつ。
担任の下条先生が入って来た。
「終業式やるから皆廊下にでてくれ。体育館に行くぞ」
終業式が終わり、教室に戻ってから担任が通知表を渡して来た。こんなものどうでもいい。誰に渡す訳でも…あっ、親の確認サインがいる。どうしよう。
解決策が浮かばないままに下駄箱で履き替えて校門の所まで行くと
「坂口君」
「あっ、高橋さん」
「一緒に帰らない?」
「良いけど」
ほんと、分からない。なんでこの子俺にこんな事してくるんだ。
「ねえ、坂口君。もし、もしもだよ。君が明日空いているなら二人でクリパしない?」
「えっ?」
何考えているんだ。俺としたって面白くないだろうに。
「俺なんかとするより他の子とした方が良いんじゃないか」
「クラスの子とはこの後する事になっている。明日は空いているんだ。だからどうかな?」
まあ、いいか。友坂にあんな事言ったし。でもどこでどうするんだ?
「いいけど、何処でどうするんだ?」
「えっ、本当にいいの。じゃあ、直ぐに考えるから、連絡先教えて?」
「あ、ああ」
考えて無かったのかよ。
俺はスマホをポケットから出すと
「ふふっ、これで連絡取れるね。今日中に連絡するから。じゃあ、私行くね」
あーあ、行っちゃったよ。まあいいか。どうせ暇だし。
私、友坂絵里。今からクラスの子とクリパする為に一緒に下校している。付き合いは大事だから。校門に差し掛かろうとしたところで悠を見つけた。
えっ、悠が女の子と話をしている。えっ、スマホで連絡先を交換?どういう事。どうして、どうして。あいつは私の物よ。なんで他の子なんかに連絡先教えるのよ。
―――――
次回以降をお楽しみ下さい。
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価★★★頂けると投稿意欲が沸きます。感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます