第5話 受け流しは難しい


 いつもの様に午前六時に起きてジョギングへ出かける。この季節になると結構寒い。

 マンションを出てジョギングを始めると顔に当たる風が頬をヒリヒリさせ半分眠かった頭を蘇らせてくれた。でも三百メートル位走ると暖かくなって来た。


 走っていると昨日の下校時の会話が蘇った。そこから家族のあの時の映像が甦る。立ち止まる程じゃないが、吐きがして気持ち悪さが湧いてくる。あの言葉は当分の間、俺が受け入れる事は出来ないだろう。


 別にあの子が悪い訳じゃない。昨日いきなり駆け出して悪い事をした。今日はそれを先に謝っておくか。

 でも高橋さん何で俺に声なんか掛けたんだろう。彼女自身にメリットなんて無いしなあ。


 要らぬことを考えながら走っているといつものコンビニに着いた。店内に入って棚から卵主体のサンドイッチとハム主体のサンドイッチそれに五百CC牛乳を買った俺は、それを手に持ったままマンションに戻った。何故か部屋を出る時、ビニール袋を持って出るのを忘れてしまう。



 シャワーを浴びて制服に着替えると買ったサンドイッチと牛乳を胃の中に入れて玄関を出る。テレビもラジオも聞こえない静かな空間だ。今の俺にはこれが一番いいのかもしれない。




 学校の最寄り駅を降りて学校に向かうと、後から見る背格好が高橋さんに似ている女の子が歩いていた。一人だ。


 近づこうと思ったが、まだよく知っている訳でもないのにいきなり後ろから声を掛けるのも失礼と思い、そのままの距離で歩いていると彼女の友達だろうか、声を掛けられていたのでそのまま彼女を無視して追い越し校舎に入った。


 教室に入り自分の席にバッグを置いて座ると友坂絵里が声を掛けて来た。



「悠、おはよう」

「ああ、おはよ」


 俺が、バッグから本を取り出そうとすると


「ねえ、クリスマスどうするの?」

 はぁ、こいついきなり何を聞いて来たんだ。答えられない質問に無言でいると


「どうせ一人なんでしょ。私としよっか」

 流石にこの言葉の答えは決まっている。


「やらん」

「何でよ」

「お前に関係無いだろう」

「ふーん、そうなんだ。まあいいわ。二十四か二十五空けておいてよ」

「約束出来ない」

「言ったからね」


 そこまで言うと彼女は自分の席に戻った。どういうつもりであんな事言ったんだ。中学時代も誘われた事は無い。何か意図があるのだろうが、それが分からない限り考える必要もない。




 私、高橋友恵。学校へ向かっている時、坂口君が私を抜いて行った。声を掛けたかったけど、少し前にクラスの子に声を掛けられて出来なかった。


 昨日の事が気になって仕方なかった。彼は家族という言葉に異常に反応したようだ。当分彼の前では使わない方がいいみたい。




 午前中の授業が終わり、クラスの子と教室でお弁当を広げて食べる。話の内容はクリスマスの事や相手はどうするとかいう話ばかり。それに相槌打ちながら私は多分家族とだけやるのだろうと思っていると


「ねえ、高橋さんクリスマスはどうするの?」

「えっ、何も考えていないけど」

「じゃあ、終業式の後クラスの子で集まってやろうと思うんだけど、参加しない?」

「良いですよ」

 まあ、これで一人寂しくは消えたか。




 放課後になり、私は急いで職員室から鍵を借り、図書室を開ける。何故か最近図書室を開けるのが楽しみになって来た。


 開けるといつもの常連さんがやって来る。そしてまた同じ時間に坂口君がやって来た。いつもの様に窓際の席に行くんだろうと思っていると入り口から入ってそのまま私の所に来た。

えっ、どうして?


「あの、高橋さん」

「は、はい」

「昨日の下校時の事、いきなり駆け出して済みませんでした」

 彼がいきなり頭を下げたので


「ちょ、ちょっと。もう良いですから。それより今日も一緒に帰れませんか?」

「良いですよ」

「えっ?!」


 少し常連さんが五月蠅くなっているが無視をした。もう下校の予鈴が鳴るのが待ちどうしい。



 やがて予鈴がなり常連さんが帰り始めると私も図書管理システムの終了処理をして返却された本を本棚に返した。彼は窓の外を見て待っている。


 本棚への戻しが終わる頃には、常連さんは誰も居なくなっていた。


「坂口君、図書室の鍵を職員室に戻すから、また下駄箱で待っていてくれる」

「いいですよ」


 彼の返事の言い方が変わった。理由も無く心が軽くなる。



「坂口君、お待たせ。帰ろうか」

「はい」

 あの事がきっかけでこの子に対する壁が少し下がったのか分からないが、言われると前程抵抗なく返事が出来る。


「ねえ、いきなりだけど、いつも学食なの?」

「そうだけど」

「そっか。教室で食べるとか、しないの?」

「購買で買って一人で食べるのは嫌だし、俺一人暮らしだから昼くらいきちんと食べないといけないんで、学食で定食を食べる様にしている」

「えっ、一人暮らし?」

 いけない、また変な方向へ話が行く所だった。


「そうなんだ。私が学食で一緒に食べても良いかな?」

「えっ?いきなりそんな事言われても…」

「そうか、いきなりだよね。じゃあいきなりでなくなったらいい?」

 どういう意味で言っているんだ。それに俺と食べるってどういう事?


「俺と食べていると高橋さんに迷惑掛かるから、止めた方がいいよ」

「何でそう思うの?坂口君全然変じゃないよ」

「だって、俺目付き悪いし、人付き合い悪いし、周りから嫌がられているし、…」

「誰か、そんな事言ったの?」

 グイグイ来るな。


「…………」

「でしょ、自分がそう思っているだけ。だから、二学期も後一週間位しかないけど、明日から一緒に食べよ」

「分かった」

 いいのか本当に。

 



 私、工藤満里奈。今日は用事が有って帰るのが遅くなった。下駄箱でローファーに履き替えて校舎を出る。早足で駅に向かうと、えっ?!


 目の前にあの坂口悠が女の子と一緒に歩きながら恥ずかしそうに何か話をしている。あの子、そんな雰囲気全然無かったから驚いたわ。


 良く見るとうちのクラスの高橋さんじゃない。そんなに目立つ子じゃないのに。あの二人の接点って?


 二人の後姿を見ながら駅まで来てしまった。彼は反対方向のホームに彼女は私と同じ方向のホームだ。


 気になる。でも私なんで気になっているんだろう。彼がいつも満点だから。頭が良いから?違うな。


―――――


 ちょっとイチャイチャが始まります。


次回以降をお楽しみ下さい。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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