最終話 ハネムーン

 ギリギリ日本な南の島。浜辺でビーチパラソルの下、トロピカルなジュースなぞ飲んでまったりと過ごす。


 水着を着たマナミさんのダイナマイトボディは、さらにダイナマイトな感じですごかった。裸とかもっとエッチな姿いつも見てるのに、なんで水着って興奮してしまうのでしょうか。


 そもそも下着と変わらん布面積どころか、下手したら下着以下なのに、なんで「水着」って名前に変わると、途端にそれだけで人前に出てオッケーになるのでしょうか。不思議でなりません。


 なんでこんな話を長々としてるかと言いますと、マナミさんの下乳がすごいからです。気が付くとカミカミしてしまいそうなほど、たわわな下乳。とにかく下乳がスゴイ。大事なことなので、二回言いました。


「ヨタ君。さっきからなんで目逸らすの?」


 俺を見下ろすマナミさん。俺に馬乗りになってるマナミさん。そのせいで下から見上げる下乳がすごいマナミさん。


「なんか配信されてそうで」


 俺は下乳から目をそらし、欲望に負けておっぱいを揉んでしまわないように、上半身を起こした。トロピカルジュースを両手に持ってストローでチューチュー飲む。


「タカハシ社長のプライベートビーチなんだから、大丈夫でしょ」


 えー。むしろ、その方が配信されてそうじゃん。サンオイルを塗った彼女の身体は艶っぽくて、太陽の日差しとともに俺の頭をクラクラさせる。



◆◆◆



 俺はもらった給料で、よいお値段のするしっかりちゃんとした戸籍を買った。そして、マナミさんと結婚した。


「マナミさんの本名って『久城 愛美くじょう まなみ』って言うんだね」


 マナミさんの戸籍は本物なので、俺の方が彼女の戸籍に入った。だから俺はいま『久城 与太郎』なのだ。


「久城 愛美。久城 与太郎。久城 愛美。久城 与太郎。久城 愛美。久城 与太郎……」


 籍を入れた日に、ベッドの中でずっと唱えてたら、腕の中の彼女に笑われた。だって、偽名じゃなくて本当に苗字ができたの初めてだったし。マナミさんとつながりができた気がして嬉しかった。例えそれが嘘の戸籍だったとしても。


 ずっと一人で生きてきて、周りから疎まれたり、気味わるがられたり、名前を付けてくれる人もいなくて自分でつけた。『与太郎』の意味も知らずに。


 長いこと生きてきて、ときどき優しくしてくれる人はいたけれど、それはいつも憐れみとかそういう対等ではない関係で、俺が相手に愛情を抱くことはなかった。


 マナミさんは壊れてるし、イカレてる。でも俺を必要としてくれてて、たぶん俺以外は彼女と一緒にいられない。初めての対等な関係。俺らは化け物同士、ようやく見つけたツガイなんだと思う。


 でも彼女の方が先に死ぬ。彼女、おばあちゃんになっても嫌がらずに俺と一緒にいてくれるかな? おばあちゃんなるくらいまで生きててほしいな。きっと可愛いおばあちゃんになるんだろうな。おっきなおっぱいは垂れちゃうかな? それならそれで俺、楽しめる自信あるなぁ。


 結婚してから、俺、寝てる時によく泣いてるみたいで、起きると彼女が心配した顔してる。ごめんね、弱くて。



◆◆◆



 結局、誘惑に負けた俺は、下乳から水着の中に手を入れた。彼女とキスを交わす。眩しい太陽の下で、青い海と白い砂浜と俺のダイナマイトな奥さん。



 ギュゲェェエエ。



 なに!? めっちゃ気持ち悪い鳴き声!! さすがのマナミさんも驚いて、浜辺の方に振り返る。二人でエッチなことは中断して、変な金切り声をあげている未確認生物を確かめに行った。マナミさんはその生き物を見つけると露骨に嫌な顔をする。


「なにこれ……」


 それは下半身は鱗に覆われているのに、上半身はツルっとヌメッとしていて鱗はなく、エラの当たりから人間のような手が生えていた。まるで人間の赤ちゃんが赤ちゃんのままお爺さんになったみたいな上半身と魚の下半身をくっつけたような……。


 俺が尾ひれを持って逆さづりにすると、もう一度だけ「ギュゲェェエエ」と鳴いて、動かなくなった。死んじゃったのかな。


 それにしても、なんかどっかで見たことあんなぁ。なんだっけ、これ。


「キッショ。半魚人じゃん」


 マナミさんのその発言で思い出す。五百年前のあの日の出来事を。


「マナミさん! これ人魚!!」

「え? ヨタ君、こんなキッショイの食べたの? ちょっと引く」


 あれ? マナミさんがドン引きしてるの初めて見たかも。ちょっと興奮してきた。無理強いしたくなる!


「マナミさん、これ! 食べて!」

「やだ! そんな気持ち悪いの待って近づけてこないでよ!」


 俺はマナミさんを人魚を持って追いかける。逃げるマナミさん。


「なんで! ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃん!」

「ずっとヨタ君とは一緒にいたいけど、そのキモイの食べるのイヤァアアア!!」


 本気で嫌がってるマナミさん、超レア!! やばいってきた!!


「生がダメなら焼くから! 俺、焼いて食べた気がするし!」

「そういう問題じゃなぁーーーい!!」



 マナミさんと俺は美しい白い浜辺で追いかけっこする。俺の大好きな大好きなダイナマイトな奥さん。ずっと一緒にいてね。



◇◇◇



 那覇空港ってなんで国内線でも免税店使えるんだろう。マナミさんはお化粧品を見てる。なんかめっちゃカゴに入れて買ってる。すごい。俺が「誰かにお土産?」って聞いたら、「妹」って返された。


「マナミさん、妹さんいるんだ。今度会わせてよ」

「うん。そうだね。アイリは私より胸小さいし、ヨタ君会わせてもいいかも」


 親族に会わせてもらえる基準、おっぱいの大きさなの? どんだけ俺おっぱい星人だと思われてるの? 実は、君のお尻に一目惚れしたのが最初なのに! いや、おっぱい星人でもあるけどね。


「ヨタ君は何買ってるの?」

「元々モリさんにこのマンゴージュース買ってきて頼まれてたんだけど、タチバナさんが『経費で落としてやるから、みんなの分買ってこい』って言ってくれてさ」


 土産物屋の店員さんに、配送でお願いする。


「領収書の宛名はいかがいたしますか?」


 俺は会社名を答えた。


「じゃあ、(株)まえかぶゲーム・オブ・ザ・ダイニングデッドで」




(第一部・完)


********************************

第一部の最終話までお付き合いいただきありがとうございました。

少しでも本作お気に召しましたら、何卒『星★評価』のほどよろしくお願いいたします。

近々、第二部やる予定です。


参考書籍リスト

https://kakuyomu.jp/users/sasa_makoto_2022/news/16817330659482767306

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領収書の宛名は「(株)ゲーム・オブ・ザ・ダイニングデッド」で。 笹 慎 @sasa_makoto_2022

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