お給料日

第31話 結局のところ優勝者は誰?

 こんにちは。みんな私のこと覚えてますか? いや絶対に覚えてないとは思うんですけど、だってたぶん皆さんが見てる範囲で私喋ってないので。


 翔太くんのグループにいた孝子です。


 実は私すごい特技があって、気配が薄いのかゼロなのか、すごい近くにいても誰にも気が付かれないんです。


 幼い頃、母は私の手を繋いだまま、私が迷子になったと探してました。修学旅行では置いて行かれること多数です。バス旅行なんてした日には、トイレ休憩でバスがいなくなっちゃいます。


 だから、この特技を活かして、私、かくれんぼ系デスゲームの賞金稼ぎやってるんです。


 色んなデスゲームで、全く目立つことなく、ぬるっと優勝しちゃうので出禁になってるところもあるんですけど、でも名前変えただけで出禁になったところにまた参加できちゃうほど、気が付かれないんです。


 それに十代じゃないです。別にそんな若く見えるわけじゃないと思うんですけど、影が薄すぎて顔をちゃんと認識されません。


 今回は最終日まで生き残ったのが一名なら十億円と破格だったので、本当に気合いいれて参加しました。でも初日から翔太くんに見つかっちゃったんですよ。


 たまーにいるんです。私の存在に気が付いちゃう人種が。クラスの浮いてる子とか面倒見ちゃうタイプの優等生っていませんか? それの最上位種っていうか、そういう人気者優等生でたまにいるんですよ、私の存在認識しちゃう人。


 翔太くんはまさにそれでした。そういう人に見つかると、何故か周りの人たちも私に気が付いちゃうんですよ。本当に困ります。だから初日に彼に見つかった時、今回はダメだ~って落ち込みました。


 でも、三日目に明らかに怪しい二人組が参加して来て、「ああ、内通者だなぁ」って、内通者がつくほど翔太くんが人気のプレイヤーなら、とりあえずはゲーム有利に進められそうだったんで、大人しく翔太くんチームにしばらくいることにしました。


 内通者の二人は演技も発言内容もガバガバすぎで、でも翔太くん全然疑わないしでコント見てるみたいで面白かったです。仕事そっちのけでイチャイチャしてるし。ちょっと楽しそうで羨ましかったなぁ。私もあんなラブラブな恋人ほしい。


 話が逸れちゃった。まぁだから五日目の出来事は不幸中の幸いでした。与太郎さんと真波さんには感謝してもしきれません。私はあそこで翔太くんから無事に逃げ出せました。あとで戻ったら、翔太くんカッコいい顔を潰されて死んでて、ちょっとだけ不憫でしたけど、彼らが獲得してたアイテム類はありがたくいただきました。


 八日目の大混乱は、普通にあのジムのある建物でやり過ごしました。殺人鬼の方達も軍人さん達との戦争ごっこに忙しそうでしたし、そもそも私、位置情報のアラートが出たところで見つからないので、食料品をたくさん持って引きこもったんですね。


 これが大当たりで、ほぼほぼ最終日までそんな感じで過ごして、最終日のゲーム終了時刻に大型街頭モニターのところに行きました。生き残ったの私一人でした。


 十億円は大事に使いたいと思います。


 これもひとえに、与太郎さんと真波さんのお陰です。本当にありがとうございました!



◇◇◇



 夕暮れ時、灯台の上からスコープを覗き込む。


 今日はゲーム開始から十五日目で、昨日終わったゲームの優勝者発表とか、最優秀社員MVPの発表とかがあって、給与明細が配られました! すごい! 傭兵時代じゃ考えられないくらい高額! 嬉しい! でも、明細よく見たら今回のハメル大佐の軍隊の殲滅手当インセンティブがほとんどで、今回限りっぽくてシクシク……。


 ちなみに最優秀社員MVPは、バッドケロ丸ことシムラさんでした。さすが元公務員だね! 真面目で丁寧な仕事ぶり……とても見習いたいです。



 スコープから眺める景色。日が落ちて、リゾート施設はどこも華やかにライトアップされている。もう少ししたら、花火ショーもあるみたい。俺は一キロあまり先を見つめて、今日モリさんに教えてもらった情報を思い出す。


 そう! みんな気が付いてくれましたか? スコープです! 新しいスコープ! おニュー! 初日にマナミさんに壊されて、早二週間。ようやく代わりの品が届きましたよ。


 スナイパーとしての長距離射撃スキルは、五百から八百メートルくらいと大したことないんだけど、とにかく同じ場所で何日でも隠れていられるのと、例え場所見つかって死んでもまた復活できるのが唯一無二の売りでした。


 というわけで、これで一番向いてる仕事に復帰だぁ~って思ったけど、蘇生した時にはゲーム終わってました。残念。


 本当は腕っぷし弱いし、白兵戦なんてできればやりたいくないんだよね。その点、本当にマナミさんって強い。足速いし、力強いし、体力無尽蔵だし。普通何度も何度も成人男性の首絞めなんてできないよ。俺のエッチにも何度でも付き合ってくれるし。超人だよ、あの人。


 ヤバいな。気が付いたら、ずっとマナミさんの話をしてしまう。俺の可愛いマナミさん。俺のことが大好きなマナミさん。いかん。いかん。仕事に集中せねば。


 仕事といっても、今日ここでスナイパーライフルを構えているのは、かなり個人的な事情だった。一応、タカハシ社長とタチバナさんに許可は取ったけど、二人ともどうでも良さそうだった。金の切れ目が縁の切れ目なのかなぁ。



 ずっと脳内で独り言で会話を楽しんでいると、ようやくヘリポートにターゲットが出てきた。



―― 九龍クーロンの息子。



 アイツの雇った傭兵に俺達が勝った後も、タカハシ社長にしつこく俺の身柄引き渡しを要求してたみたいだけど、なぜか社長断ってくれたらしい。もしかしたら、タカハシ社長はタカハシ社長で、タチバナさんあたりから脅されてるのかもしれない。ついこの間も「殺してやる」って、タチバナさんブツブツ言ってたし。


 俺が死んでる間にそんなやり取りがあって、それで九龍は怒って出資を打ち切ったんだってさ。だから、俺が奴を殺そうがどうでもいいみたい。



 光学測定器で風速と標的距離を確認。目を瞑り、大きく一つ深呼吸。目を開き、スコープを改めて覗き込んだ。


 諸条件問題なし。フッと短く息を吐きだす。そして、引き金を絞った。



―― 九龍の息子ターゲットの頭に弾丸は命中する。



 俺は、後顧の憂いを断ち、この初めての仕事デスゲームを終えた。

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