第24話 スーサイド・コンバット①

 ゲーム八日目の朝。


 相変わらず朝は二人でベッドの中でモゾモゾイチャイチャしているわけですが、いや朝に限らず夜もしてるんだけど。今日から始まる三交代制での勤務で、今日は十六時からのシフトなんだよね。だから、朝もゆっくりできるってわけ。


「マナミさん、あとでお洋服買いに行きません?」


 俺はそう言いながらも彼女に色んなことしてるから、マナミさん全然会話する余裕なさげで可愛い。うるんだ目で「イジワル」って言われて、またテンションが上がってしまう。そんな感じでずっとモゾモゾイチャイチャしてる。


 すると突然、けたたましい音を鳴らして、社用スマホが俺のもマナミさんのもベッドサイドテーブルの上で鳴動を始めた。



 ビービービーッ!



 あまりの音に心臓が止まるかと思った。ビックリして、あっちの方も縮んだわ。俺は手を伸ばして両方のスマホを取ると、俺の身体の下にいる彼女に渡す。激しい鳴動の原因は、タチバナさんからの緊急招集の通知だった。



◇◇◇



 ミーティングルームに狩人役イェーガー達が揃うと、タチバナさんは眉間に酷いシワを寄せて話し始めた。


「朝八時からのシフトの狩人役イェーガー達が全員、向こう側に拘束されたわ」


 まだ午前十時である。さすがにこの短時間で「全員拘束」は、みなザワつく。拘束ということは、俺以外にも実弾ではなく麻酔銃で統一ということなのか。それにしても九龍ジュニアも随分とガチめな奴らを雇ったようで、ほんとウンザリする。父親譲りのヤンデレ気質。


 タチバナさんの後ろにある大型スクリーンに今日から投入された特殊プレイヤー達の写真が映し出された。


「リーダーの名前は、ハメル大佐。元アメリカ陸軍特殊部隊グリーンベレー。いまは民間軍事会社アリゲーターアーミーズで軍事顧問をしているわ」


 やだぁ。俺みたいな半端もんじゃなくて、ガチのエリート軍人さんじゃん。でも米軍出身なら「拘束」ってのも納得だな。デスゲーム自体にも忌避感を持ってる高潔なタイプの可能性が高い。


「確認できてるだけで、スナイパーが三名。地上部隊が十五名。あとハメル大佐本人はゲーム開始時に確認できたきりだから、どこか別に作戦本部があるはずよ」


 九龍クーロンとこの会社グルで俺のことハメようとしてんのかと思ってたけど、責任者のタチバナさんでも相手の情報を全然貰えてないようだった。


「とにかく! とにかくよ! このまま舐められっぱなしじゃ、ぜぇ~ったいに駄目よ!」


 怒りの肺呼吸でタチバナさんの超弩級戦艦なおっぱいが上下に揺れる。結構、負けず嫌いなんだな。可愛いところあんじゃんって思ってたら、マナミさんから机の下で足を蹴られた。マジでエスパーなの!? もちろん君が一番だよ! 浮気心とか一切ないから!


 そのあと十六時からだった第二シフトのメンバーの勤務時間が前倒しになり、十二時にはフィールドに出ることになった。



◇◇◇



 正午。俺は一人、狩人役イェーガーの入場ゲートである大型街頭モニターがあるビルのテナントから外に出て、何か遮蔽物に隠れるでもなく堂々と交差点へと進み、一番目立つところで立ち止まった。



 お前らの目的は、俺だろ? さぁ、早く来いよ。



 中継ドローンが飛び回り、インカムにタチバナさんからの情報が届く。敵地上部隊がこちらに向かっているようだ。自分が敵の立場なら、どうするか考える。交差点付近には駐車している車が何台かある。まずは、それらに隠れてスナイパーの援護を付けた上で、作戦を展開するだろう。


 そう考えてると、斜め上から案の定、弾が飛んできた。俺の歩こうとした方の地面に当たり、行く手を阻まれる。スナイパー達は流石に実弾のようだが、足止め目的で当てる気はないようだ。


 さてと、どうしましょうかね。前方に三人。後方に二人……いや三人か。



 トスッ。と首の後ろに麻酔矢が刺さる。俺は引き抜くと、首を抑えてしゃがみ込んだ。ザッザッザと素早く彼らの軍用ブーツの音が聞こえてきて包囲される。やっぱり、後方は三人だった。輪の大きさを狭めながら、彼らは俺を取り囲む。


 視界が歪んでくる。麻酔結構強いの使ってんな。もつのもここまでか。俺は利き手と反対側にある太もものホルスターから特別なハンドガンを引き抜いて、自分のこめかみを撃ち抜いた。



◇◇◇



 案外簡単な仕事だと思った。プロの殺人集団だというので、どの程度かと思っていたら、所詮はデスゲームなどというお遊びをしている烏合の衆だ。ゲーム開始後、早々に私の優秀な部下たちは彼らを全員拘束した。そして、麻酔銃の良いテストにもなった。


 作戦本部で複数台のモニターを確認しながら、腕を組む。


 さて、次はどう出るのかと思っていたら、ターゲットが予定よりも随分早く一人でノコノコと出てきた。このままではゲーム自体を破壊されそうで、会社に生贄として差し出されたのだろうか。


「イーグルワン、威嚇射撃」

了解コピー


 威嚇射撃の効果か、ターゲットは交差点の真ん中付近で立ち止まった。彼の後方から麻酔銃を撃つタイミングをうかがっていた三人が動き出す。


「ハウンドアルファ、ブラボーの援護を」

了解コピー


 前方のチームが陽動でターゲットの注意を引き付けた。見事に麻酔矢はターゲットに当たる。本当に楽な仕事だった。私が部下を労いインカムを外そうとした時だった。



 



 私も部下も全員が驚愕で判断が遅れた。


 ドンッ!


 ハウンドアルファの一人がヘルメットごと頭を吹っ飛ばされる。対物ライフルの徹甲弾か。敵スナイパーの位置の特定を。判断の遅れ、五秒。その間にターゲットは蘇生し、残りのハウンドアルファ隊の二人を撃ち殺した。



◇◇◇



 俺の自殺専用に限界まで貫通力を高めたカスタム銃。損傷範囲は極小で済む。これなら蘇生までおよそ五秒。予定通り、シムラさんが対物ライフルで一人吹っ飛ばして、時間を稼いでくれていた。


 射撃が上手いなと思ってたシムラさん、元警察官でしかも特殊急襲部隊SATのスナイパーだった。パチンコと競馬で給料足りなくなって辞めて、この仕事してるらしい。でもこの仕事始めて、ギャンブル全部止めたんだって。面白いよね。


 しゃがんだ状態のまま、俺は利き手で普段使ってるハンドガンを腰のホルスターから引き抜くと、眠った俺を運ぼうとしていた奴の顎から斜め上に弾を撃ち込む。ヘルメットん中で跳弾して、死ね。


 後ろにいた奴ら二人を、シムラさんがまとめて吹っ飛ばしてくれた。俺は起ち上がって、もう一人の前方にいた奴の顔に弾をぶち込む。後ろの最後の一人がウザく、また麻酔矢を撃ってきたが、気を失う前に振り向いて引き金を引いた。しかし、防弾チョッキに阻まれ、俺は舌打ちする。


 ドンッ。シムラさんの援護で事なきを得て最後の一人も死ぬと、俺は安心して利き手は逆の手の銃でまた自分の頭をぶち抜いた。


 マナミさんの二丁拳銃、笑えないな。これじゃ。

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