第25話 スーサイド・コンバット②

「うっしゃー! ざまぁみろぉ!」


 イベント運営本部で、タチバナはガッツポーズをした。彼女の部下たちは揺れるおっぱいを眺める。部下の視線に気が付いて、彼女は振り上げた拳をそっとおろして、コホンと咳ばらいをした。


 タチバナはまた現状の監督業務へ戻る。そして、見ていたモニターの一台に、疾走するジャジャ・ラビットの姿が映っていた。



◇◇◇



 しばし目を瞑り、死んだ部下を想う。そして、すぐに目を開けた。


「敵スナイパーの位置、特定急げ。対物ライフルじゃ、そうそう移動できまい」


 情報分析官達がすぐに弾道から位置を導き出す。


「ハウンドエコー、敵スナイパーを無効化しろ」

了解コピー


 オペレーターの一人が振り返る。


「大佐、イーグルワンの位置が敵にバレたようです」

「イーグルワン、移動しろ」

『……ドンドンドン……ピーガガガ……』

「イーグルワン、応答しろ」


 イーグルワンのモニターには、不気味なウサギのお面をつけた女が映っていた。


『待ってろよぉ。すぐそっちいくから』


 女はイーグルワンのインカムにそう言うと、カメラを壊した。



◇◇◇



 シムラさんの位置がバレた可能性が高いため、急いで彼のいるビルに向かっているとインカムに連絡が来た。


『ヨタロー君、こっちもうモリ君と一緒に本部に撤収したから』

『またあとで地上行くね~』


 早いな。さすが。建物のいくつかには、本部へ直行できるエレベーターが付いている。


『ヨタロー君、そっちに敵の地上部隊が三名向かってるわ』

「了解っす。マナミさん、今どこっすか?」


 タチバナさんから送られてきたマナミさんの位置情報を確認すると、彼女もシムラさんがいた建物の方に向かっていたので、そのまま走る。途中で狙撃に遭う。一旦、ビルとビルの隙間で身を隠した。


「タチバナさん、三時の方角に敵スナイパー」

『ラビットを向かわせる』

「了解」


 位置が不明な敵スナイパーはこれであと一人。地上部隊は三人ずつで行動してる可能性が高いな。ってことは、あと少なくとも三チームか。速攻で終わらせるなら、本丸を叩くべきだが。


「タチバナさん、敵の本部、どこにあるか検討つきませんか?」

『さっきシムラさんの位置、すごく早く特定されたのよ。うちと同等の設備がある場所だと思うの。いまドローンでそれらしい通信車両ないか探してるわ』


 話をしてると、移動してきている三人の兵隊を見つけた。シムラさんの再配置までもう少しかかるか。援護なしで三名。と思ってたら、向かい側のビルにモリさんの姿を見つける。モリさんだけでも先に出てきてくれたのか。ありがたい。


 なら俺は陽動だ。素早く車と車の間を移動する。彼らの隠れている車に向かって発砲すると、麻酔銃ではなく実弾を撃ち返してきた。臨機応変なこって。俺は車の陰で彼らの銃撃をやり過ごしながら、ハンドガンの弾倉を交換した。



◇◇◇



『こちらハウンドエコー。敵スナイパーの無効化前に荷物バゲッジを捕捉』

「無理はするな。周辺映像を出せ」


 エコーチームがいる近辺の様子がモニターに表示される。彼らの背後には棒状の武器を持った巨漢の男が近づいてきていた。


「後ろッ!」


 私の声で振り返った部下の。「なッ!?」思わず動揺の声が喉から漏れる。エコーチームのいる範囲は、スナイパーのイーグルスリーが配置されていたはず。何故だ。


「イーグルスリー、応答ありません!」


 イーグルスリーのモニターに、先ほどの不気味なウサギ女が映る。早い。行動スピードが早すぎる。これは人間なのか。


『ふ~た~り~めぇ~』


 女はイーグルスリーのインカムにそう言うと、またカメラを壊した。クソッ。顔には出さずに神に悪態を吐く。エコーチームの全滅を確認して、残りの部下に命令を下した。


「イーグルツー、ハウンドチャーリー及びデルタ、一時撤退だ」

了解コピー

了解コピー

了解コピー


 体勢を立て直す。私はインカムを耳から外して、敵を舐めていた私の責任だ、と拳を強く握った。



◇◇◇



 自称『軽快に動けるブタ』ことモリさんの日本刀が、スパッと敵の首を落とした。なんでもモリさんち歴史ある居合抜きで有名な武士の家系らしいよ。居合抜きを人間で試してみたくて、この会社に入ったんだって。


 でも日本刀よりもナタで肉屋の格好してた方が怖いかなって、いつもあの格好らしい。ま、実際、日本刀って天井高いところじゃないと室内じゃちょっと扱いづらそうだよね。


 彼らがモリさんの襲撃に驚いてるうちに、俺は残り二名の兵隊さんの顔を撃ち抜いて始末した。スナイパーの援護射撃もなかったところを見ると、マナミさんが早々にブチ殺してくれたらしい。僕ちんの彼女、さいつよすぎでは?


「はぁ、膝が痛い。剣術続けるには減量しなきゃ……」


 膝を撫でてるモリさん。居合抜きの踏み込みするのに、やっぱ相当体重の負担が膝にかかるんだろうな。


『残りの敵の地上部隊が撤退していってるわ。あなた達も一度戻ってきて』


 タチバナさんから喜ばしい通信が入った。とりあえず第二回戦は、俺達GotDチームの勝利ということで。

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