週末

第18話 仕事明け

 ゲームが終了した後、本当はタチバナさんから「本部に寄れ」と連絡がきてたけど、マナミさんと二人でブッチして俺の部屋に即行で帰ってきた。どうせ怒られるだけだし。


 一緒にシャワーを浴びて、三日ぶりのベッドで何も気にせず幸せな時間を過ごす。この三日間、最悪だったけど、マナミさんとの距離縮まった気もするし、結果オーライかな。ってか、女の子から「好き」って言われたの記憶してる限り初めてでは、俺。「気味が悪い」と、言われ続けて五百年。


 マナミさんホント可愛いなぁ。しかも、おっぱいもお尻も掴みがいと噛みがいあるし。性格は少々ヤキモチ焼きで、怒りのツボもおかしい所あるけど、基本はフニャフニャしてて可愛いし。なにより俺のこと「好き」だし!


 でも、マナミさんは先に死んじゃうんだよなぁ。彼女こんな仕事しかできないだろうし、あと十年……いや五年も生きててくれたら長く一緒にいられた方だろうな。


 俺、この子が死んじゃった後、どうなるんだろう。これまでそんな相手いなかったから孤独を感じなかっただけで、幸せを知ってしまった今は軽く想像するだけで恐怖だ。


 彼女の寝顔を見ながら、ちょっとだけセンチメンタルな気持ちになってしまった。


 

 マナミさんはかなり疲れてたようで熟睡している。俺は銃の手入れをしながら、彼女の寝顔を見てたけど、ふと起きた時に彼女がお腹減ってるかもと思い、「売店行ってくる」と置手紙を残して部屋を出た。


 会社のイベント運営本部のある地下には、社員の宿舎と売店。それから食堂もある。食堂はさすがに二十四時間は営業してないけど、売店は有名なコンビニチェーンが入っていて二十四時間営業だ。


 それに、VIP用のリゾート施設についても利用は制限されていないので遊びに行くことができる。明日、マナミさんとデートに行こうかな~。そんなことを考えながら、俺は売店でパンとおにぎりの棚を物色していた。


「あれ? ヨタロー君じゃん」


 大量の缶酎ハイとツマミが入った買い物カゴを持ったカエル男のシムラさんとブタ男のモリさんだった。二人ともスウェットの上下にサンダルなので、どちらかの部屋で酒盛りでもする気なのだろう。


「ヨタロー君たち、終業ミーティング、サボったでしょ。タチバナさん超怒ってたよ~」

「もう、おっぱいが上下に揺れてた。怒りの肺呼吸で」


 モリさんが豊満な自らの脂肪を駆使して、その時の様子を再現するので、思わず吹き出してしまった。二人に「これから部屋飲みですか?」と聞くと頷かれた。


「ヨタロー君も暇なら飲み来る?」


 シムラさんの誘いを首を横に振って断る。「部屋にマナミさん来てるんで」というと、モリさんがヒュ~と口笛を吹いた。俺はちょっと恥ずかしくて頭を掻く。


「マナミちゃん、いつも無口で仲いい人もいなかったから少し心配してたけど、ヨタロー君が入社してくれて良かったね~って、モリ君と話してたんだよ~」


 シムラさんに同意を求められたモリさんは、うんうんと頷く。


「そうそう。それにタチバナさんもラビットの時のマナミちゃんの扱いに困り果ててから、正直助かってるんじゃないかなぁ」


 確かにタチバナさんから、もう「お守役」として扱われている感じはある。だからこそ、多少イチャイチャしてても小言言われるくらいで済んでいるのだろう。


 その後も三人で話しながら買い物をして、お互いの部屋に帰るのに別れようとした時、シムラさんが「あ!」と声をあげた。


「そうだ。タカハシ社長が八日目に入ると、夜勤始まって集まれなくなるから、明日の夜は、みんなでバーベキューだって。集合は十八時半に本部」


 終業ミーティングをサボった俺に連絡事項を教えてくれるシムラさん優しい。俺はお礼を言って、二人に頭を下げてから部屋に戻った。



◇◇◇



 部屋に戻ると、マナミさんは起きて、俺の赤いコーラを勝手に飲んでいた。いや別に勝手に飲んでいいんだけどさ。


「あ、起きたんだ」


 もう服を着てしまっているマナミさんに少しガッカリしつつ、でもブカブカの俺のトレーナーを着てる姿はそれはそれで良いものです。ありがとうございます。


「もう! 起きたらいなくて寂しかった!」


 俺がテーブルに買ってきたものが入ったビニール袋を置くと、彼女はそう言って抱きついてきた。俺も抱きしめ返しつつ、彼女の不服気に膨らませたホッペを撫でる。


「ごめん。ごめん。良く寝てたから。パンとか買ってきたよ。何か食べる?」


 彼女は俺が開いたビニール袋の中身を覗き込む。しばらく悩んでから、チョコチップメロンパンを選んだ。それを彼女はベッドの上でクッキー生地部分をボロボロとこぼしながら食べてて、ハムスターみたいで可愛い。


 俺もベッドの上に上がって、パンを食べる彼女を後ろから抱きしめた。


「マナミさんも明日は休みだよね? 何か用事あったりする?」


 腕の中の彼女は、俺を見上げて「ないよ」と答えた。


「じゃあ、リゾート施設の方に遊びに行こうよ」


 誘うと、また見上げて「いいよ」と言って彼女は笑う。こんな幸せでいいんかなぁ。今までの人生でなかった幸せだった。マナミさんも服着ちゃったし、今夜は即物的な行為じゃなくて、まったり過ごそう。


「なんか映画でも観ようか。あ、リモコンあっちだわ。マナミさん取ってくれる?」


 マナミさんの方がリモコンに近かったので頼むと、彼女は「ちょっと待って」と言って、リモコンを取るために俺にお尻を向けて四つん這いになった。



 ……。

 …………。

 ………………。



 ノーパンだったなんて、聞いてない! やっぱ映画観るのキャンセル!


 俺は先ほどまでの「まったり過ごす案」を秒で覆すと、即物的な行為をすべく彼女にのしかかった。

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