第13話 優勝候補⑧

― ちょっと待てwww生き返ったwww

― デスゲームなのに不死身とかチートすぎて萎える

― ヨタロー君そういうことかよwww

― ええええ……

― あの殺人おっぱいとなんで付き合えてるのか理解www

― ラビットを幸せにできるのはお前しかいない任せた(俺は死にたくない)

― 朝のやつ、結構マジでイラついてたけど、諦めついた



◇◇◇



 オレはジムの受付ロビーに戻ってくると、襲撃があった話をして、みんなに急いで荷物をまとめさせる。セーフティゾーンだったはずなのに。でも今はそんなことを思ってる場合じゃない。早くここから下の奴らに見つからずに逃げる算段を考えないと。


 しかし、真波さんは与太郎さんがオレを助けてくれた話をしてから、ショックを受けたのかソファーに座り込んで親指の爪をまた噛み始めた。動こうとしてくれない。心にモヤモヤとイライラが同時に溜まる。


 彼女のことは出会った瞬間から好きだったんだと思う。でもそれは、きっと母親に似てるからだ。どんなに酷いことをされても結局クズな親父が好きで別れない。DVシェルターに連れて行こうとした時だって、今の彼女みたいにグズグズしていた。なんでオレが助けようとしても、手を払いのけるんだよ。


 無意識に立ち上がらせようと、オレは彼女の腕を掴んでいた。真波さんは酷く驚いた顔で、オレを見つめている。少し怯えてる……? 無理矢理、力で言うことをきかせようとしている自分に気が付いて戦慄した。カエルの子は、カエル?


 いやいや、与太郎さんだって、彼女が逃げて生き延びることを望んでいるはず。オレは親父とは違う!


 そして、もう一度、真波さんを立ち上がらせようとした時だった。


 自動ドアが開く。真波さんはビックリするくらい強い力でオレの手を振りほどいて、入ってきた人物に抱きついた。


「与太郎さん!」


 嬉しさで思わずオレも名前を呼んでしまう。彼は無事だった。エアガンを持った与太郎さんは、抱きついてきた真波さんを片腕で抱き返しつつ、オレに「よお」と気軽く声をかけてくる。その様子から危険が去ったことを理解した。


 それにしても、一人で殺人鬼を二人も追い返してしまうなんて。もしかしたら、元自衛官とかなのかもしれない。彼にはまだ拭えない気味の悪さや真波さんへの扱いについて疑問は残ってはいたが、このゲームを生き延びるには彼との協力は不可欠だと思い始めた。



◇◇◇



 抱きついてきたマナミさんは俺の臭いをクンクンと嗅いでいる。とりあえず、彼女の奇行は通常運転なので、俺は翔太くんの方へ目を向けた。おお。子犬のようなキラキラした瞳。身を挺して庇った甲斐がありました。あのゴミを見るような目をやめてくれて嬉しいです。


「……硝煙の臭いする」


 マナミさんは普段の可愛いフワフワした声から想像もつかないような低い声で、そう呟いた。ギョッとして、腕の中の彼女に目を落とす。眉間のシワ! 可愛い顔が台無しですよ! マナミさん、なんかわからんが、めっちゃ怒ってるな。ちょっとマジギレ系じゃね? これ。


「誰にされたの?」


 マナミさんの質問に答えるには、二人きりの方が都合がいい。それに他三人からの視線も痛かった。翔太くんに身振りで「ちょっと二人で話してくる」と伝えると、彼は頷いてくれる。俺は結局ジムの受付ロビーに入る前に、また廊下に出る羽目になった。



 廊下の端で、いつものすねてる感じではなく本気で怒っている様子のマナミさんと会話を試みる。


「誰にされたって、どういうこと?」

「だから、ヨタ君、殺されたよね? 誰にされたの? 私、そいつ殺してくる」


 ん? 何をそんなに怒ってるんだ? 俺のことを日々ブチ殺してるよね、君。一応確認のために、可能性は低いかもしれないことを口にする。


「それは、俺のことを心配してくれてる的な?」

「はぁ?」


 はい。違いました。自意識過剰でした。ごめんなさい。本気キレのマナミさん怖いよぉ。ジャジャ・ラビットモードだよぉ。


 何にそんなに怒ってるのかよくわからんが、ここでカエル男のシムラさんとブタ男のモリさんの名前を出そうものなら、仕事放ってでも殺戮しに行きそうな勢いなので、俺は彼らの名前を伏せて手短に説明する。


「背中撃たれて、死ぬの時間かかりそうだったから、自分で自殺リセットしたんだよ」


 嘘ついてないもん。そんな疑いの目でジッと見ても、嘘ついてないもんね。


「……じゃあ、それ信じる」


 容疑は晴れたようだ。でもまた彼女の地雷を踏むのも嫌なので、理由を尋ねた。すると何故か気まずそうに、彼女はそっぽを向く。


「俺、マナミさんとは喧嘩したくないし、嫌なことあるなら知りたいんだけど」


 自分で言ってて、ちょっと恥ずかしくなった。なにこの理解ある彼氏ムーブ。うわっ! はっず! でも彼女には意外にも効果あったようで、また抱きついてきて、小声でいう回答が聞こえる。



―― 私以外に、殺されちゃダメ。



 ホントこの子、マジで可愛い。普通の彼氏は殺したら、生き返らないんですよ? もう俺以外と付き合えないね!


 尋常じゃないくらい独占欲が満たされて、俺は抱きついていた彼女を逆に壁に押さえつけて無茶苦茶にキスをした。



◇◇◇



― 我々はデスゲームの配信を見ているはずでは……?

― 隙あらばwwwイチャイチャwww

― 今日はマジで何を見せらてるんですか?

― 別のカメラに切り替えればいいのに何故か見てしまう

― ナカーマ。朝の事故の続きを期待してる

― ほんま仕事しろ、このバカップル

― 俺は応援したい

― 涙ふけよ

― ウッ…(´;ω;`)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る