第12話 優勝候補⑦

― ファーーーーーwww

― 配信始まってるの気が付いてないwww

― おっぱい見える体位キボンヌ

― 仕事中にサカッてて草

― 体勢をカメラの方に変えちくれ

― ( ゚∀゚)o彡゚ オッパイ オッパイ

― 自由だな。おい。続けろください。

― あ

― 気が付いたwww

― チッ

― フゥ……

― フゥ……

― フゥ……

― フゥ……

― フゥ……

― みんな早すぎんだろwwwwww

― 社会人として、仕事中にこういった不適切なことするのいかがなものでしょうか。

― 賢者タイム入んなwwwwwww



◇◇◇



 正樹くんにエアガンを持って警戒してもらいながら、翔太くんと俺で未季みきちゃんの死体をビルの一階の空テナントに運び込む。翔太くんも二階まで運ぶつもりはないようで安心した。


 とりあえず、まだ狩人役イェーガーに見つかっていないが、時間の問題だ。どうやったら彼らはここから移動してくれるだろう。


 俺の心配をよそに、今度は二階の雄平くんの死体を一階に降ろすと言い始めた。いやいや、もう死体ですよ、どうでも良くないですか? まともな倫理観をお持ちの青少年たちに付き合うのも大変だ。


 仕方なく、翔太くんと正樹くんに続いて二階に戻ろうとした時、自動ドアが開く音がした。



「あれれ~? 何してるのぉ~?」

「ヒヒッ! ヒヒッ!」

「僕たちとも遊んでよぉ~」

「ヒヒッ! ヒヒッ!」



 カエルのマスクをした緑のレインコートのヒョロ長い痩せ型の男と、ブタのマスクをして上半身裸にビニールエプロンをした太った男が外から店内に入ってくる。それぞれカエル男がサブマシンガン、ブタ男が大ナタを持っている。狩人役イェーガー来ちゃったよぉ。


 カエル男が腕を上げる。やっべ。撃ってくる。俺は反射的に翔太くんに覆いかぶさった。翔太くんをゲーム四日目で死亡させるわけにはいかない。タチバナさんにまた怒られちゃうよ、さっきの配信事故といい。マシンガン特有の連続的な銃声が鳴り響き、背中に衝撃が走る。十秒ほどでマガジンを使い切ったのか音が止まった。


「翔太くん、二階に走れッ!」


 俺は「正樹……正樹……」と呟いている翔太くんを階段のある通路に、無理やり押し込んで扉を閉めた。正樹くんは肺に穴が開いたか、肺に血が溜まってるのか。仰向けに倒れて、ゴホゴホと血の泡を口に溜めている。って、俺もだいぶヤバい。


 背中側のホルスターからハンドガンを抜く。銃は無事だ。胸のあたりだけ狙ったのだろう。あのカエル男さん、射撃上手いじゃん。これがマナミさんなら全身ハチの巣か、全然当たらないかのどっちかだ。


 俺は正樹くんの頭に向かって引き金を引いた。血で溺れ死ぬのツラいよね。わかる。


 それから、自分のこめかみにも次弾を撃ち込んだ。



◇◇◇



 なんで! なんで! なんで! 与太郎さんに、オレ酷い態度ばっかりとってたのに……。


 殺人鬼達の襲撃よりも、彼に守られたことに動揺する。それでも彼の気持ちを無駄にしないように懸命に階段を駆け上った。


 正樹……。与太郎さんの肩越しに見た時、血を流して倒れてた。この数日見てきた。ここに病院はない。救急車もない。あれじゃもう助からない。


 どうして! どうして、オレ達がこうやって殺されないといけないなんだ!


 オレは怒りで二階への扉を乱暴に拳で叩いた。



◇◇◇



 網膜がまぶた越しに外の光を感じ、漆黒の闇が終わる。


「いやぁ、ヨタロー君の戦い方、アクロバットだねぇ」


 目を開けると、緑のレインコートを着たシムラさんがカエルのマスクを取って、俺の顔を覗き込んでいた。ブタマスクを取ったモリさんも「大丈夫?」と言って、俺が起き上がるのに手を貸してくれる。


「ってか、モリさんのキャラ『ヒヒッ!』しか言えないの大変っスね」

「ほんとだよぉ。楽かと思ったけど、超大変だよ。失敗したよ、キャラ設定」

「だから普通のキャラにしておけって言ったのに」


 モリさんは、シムラさんにそう小言を言われて、面目なさそうに禿げ散らかった頭を撫でる。


 カエル男こと『バッドけろ丸』のシムラさんと、ブタ男こと『矢羽やばとんとん』のモリさん。彼らとは、初日にマナミさんにブチ殺された俺の死体を片付けてようとしてたところを、生き返って脅かせて以来の関係だ。


「何分ぐらい寝てました?」

「三分くらいかな」


 シムラさんがモリさんに同意を求めると、彼も頷いた。やっぱ、身体が傷ついてる箇所が多いと、それくらいはかかるなぁ。起き上がると、背中からバラバラとサブマシンの銃弾が落ちた。


「マジで来た狩人役イェーガーが知ってる人で良かった」

「状況がよくわからなかったから、殺人鬼らしく振舞っておいた方がいいのかなって」

「うんうん。疑われちゃうもんね」


 彼らと話していると、ポケットのスマホが鳴動する。タチバナさんから通話だったので、三人で聞けるようにスピーカーにした。


『悪かったわ。セーフティゾーンの設定してなかったのは、私のミスよ』


 素直に謝ってくるタチバナさん、エロくていいな。しょぼんしてる顔を想像してみた。あ、またこれマナミさんに怒られるやつだわ。胸のうちにしまっておこう。


「どうしましょうか。なんか良い誤魔化し案ありませんか?」


 タチバナさんは、「バッドけろ丸と矢羽とんとんは、未季ちゃんと雄平くんを殺した後で、実はまだこのビルを離れていなかったから、これに正樹くんの三人を足して今から三時間のセーフティゾーンにする」とかなり苦しい言い訳を用意してくれた。


 まぁ翔太くんかなり動揺してたし、俺が押し通すしかないか。ってか、嘘下手なんだよぉ。俺の迫真の「未季ちゃんと雄平くんを殺したのは、アイツらだ!」にかかっている。マジで責任重大でツライ。


 タチバナさんとの通話を終えると、タイミングを見計らったようにコンテナを持ったドローンが飛んできた。自動ドアの前にガコンッと荷物を落とす。コンテナの中身は、俺が今着ているパーカーとフライトジャケットと同じ服だった。俺の服が銃弾で穴が開いてるので着替えを持ってきてくれたようだ。


「ぶはっ! ヨタロー君、一発も被弾してない設定にするの?」

「仕方ないじゃないですか! 俺ピンピンしてるし、現状無傷だし」


 シムラさんもモリさんも、めちゃくちゃ笑っている。俺はちょっと子供みたいに唇をとがらせた。服を着替える。穴が開いた服をコンテナに詰めて、またドローンにセットすると、持って帰っていってくれた。


 ドローンちゃん、なんか犬みたいだな。可愛いかも。俺も飼おうかな。

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