第4話 サクラ

 遊戯開発室の扉を開けると、同じ洋服の揃えがハンガーラックに何着もかかっている。嫌な予感しかない。うわぁ。何パターン、プロモーション動画撮る気だよ。


 不死身ではあるが、別に死ぬのが好きなわけではない。マナミさんに殺されるのは、その前とか後とかにさせて貰えるエッチなことが好きなのであって、断じて死ぬのが好きなわけではない。



「あ~、遊戯開発室主任のタキです。よろしく」


 白衣を着た撫で肩のくたびれたオッサンが自己紹介をして、握手を求めてくる。俺も自己紹介を返して、手を握り返した。


「不死身って本当なの? いや、まぁタチバナさんから昨日の映像は見せてもらいはしたけど」


 俺の殺害と蘇生した記録は昨日配信はされなかったが、映像は残っているようだ。以前、紛争地域で撮られたものを有名な動画投稿サイトにアップロードされたことがあるが、フェイク動画として扱われて終わった。普通は信じられないのだろう。


 タキ主任は俺を連れて、部屋の奥にある扉を開けた。そこからは階段になっており、下ると航空機の整備場のような広いコンクリートで囲まれた場所に出る。いくつも巨大なコンテナが置いてあった。


「コンテナのサイズは、ワナを設置する部屋のサイズでね」


 そう言いつつ、コンテナの一つを開けてくれた。タキ主任がタブレット端末で操作すると、コンテナの奥から手前に向かって横と縦の赤いレーザー光線が交差して走ってくる。


 いや、これ絶対、人間サイコロステーキ作るやつじゃん。映画の観すぎだよ!!


「いま、人間サイコロステーキとか映画の観すぎって思ったでしょ?」


 タキ主任は眼鏡を鼻で押し上げて、俺の心を読んでくる。ってか、本人もたぶんこれ言われて作っただけで絶対納得してないやつやろ。俺にはわかる。顔も虚無ってるし。


「でもこれ凄い人気なんだよね」

「まぁ人気なのはわかります。派手だし、キャッチーだし」


 次のコンテナはかなり巨大だ。中で小さな立方体の部屋が移動しており、ルール通りに部屋を移動しないとトラップが発生して死ぬ仕様らしい。これも既視感すごいな。


「いま、既視感覚えたでしょ。移動ルールに素数トラップもあるよ」


 またタキ主任の顔は虚無った。俺は彼をだんだん不憫に思い始めた。そして、三つ目のコンテナに案内される。こちらは横に長い。


「これは『だるまさんが転んだ』ゲームで止まってられずに動いちゃうと、そこのレーザー兵器で撃たれて死ぬってやつね」


 これもこの前、動画配信サービスで観たわぁ。


「これは予算の関係で、レーザー兵器を最小限の数で全体カバーできるように位置をかなり試行錯誤したから、うん……まぁ他のよりは思い入れあるかな」


 マジで可哀想。泣けてきた。


「あのタキ主任が考案したのとかってないんですか?」

「え? 興味あるの?」


 くたびれたタキ主任の顔が輝く。興味はないが、普通にマジで同情するし。俺が頷くと、とてもウキウキしながら昔懐かしい公衆電話ボックスのような装置を見せてくれた。


「これは『シュレーディンガー・フォン』と言って、電話がかかってきて取ると五十パーセントの確率で死ぬんだ!」


 ……。

 …………。

 ………………。


 うん。俺、タキ主任のアイデアが採用されない理由わかった気がする!



 結局、サイコロステーキ装置とキューブ型の例の装置とイカ的な装置のプロモーション動画を撮ることになって、身体をサイコロステーキにされるとマジで再生に時間かかるしで、結構疲れた。


 その後、新しい生物兵器の人体実験もされた。給与アップ交渉しようかな。



◇◇◇



「あ~癒されるぅ」


 ベッドの上でマナミさんのおっぱいに頭を挟めて、俺は自分を労る。頭撫でてくれるマナミさん、天使か!


「ヨタ君、やっぱり死ぬの大変?」


 先ほど豪快に俺を絞め殺したばかりの可愛い彼女が心配してくれる。俺はおっぱいから顔を上げた。


「マナミさんは別」


 実際、絞殺は一番蘇生が早いし、本当に別に構わなかった。死ぬこと自体というよりも、バラバラにされると意識が戻るまで時間がかかるから嫌なのだ。俺は彼女の乳房をお歳暮のハムの塊を齧るみたいにハムハムカミカミする。その後もなるべく服で隠れると場所を選んで、俺は俺の欲を満たした。



 そうそう! 今夜はマナミさんの部屋にお邪魔してる。俺と同じレイアウトの部屋なのに、なんかイイ匂いする!!


「ああ、そうだ。ヨタ君に相談したかったことがあって」


 彼女はベッドを降りると、作業机の上のサブマシンガンを手に取った。


「すぐにジャムるんだよね」


 ジャムる……つまり、彼女のサブマシンガンは弾詰まりを起こしやすいらしい。まぁ先日の使い方見る限り、扱い雑だし整備もあまりしてなさそうではあったけど。俺は手渡されたサブマシンガンのマガジンを確認する。装填不良か、排莢不良か。


「直るかわからんけど、一度バラシて見てみるよ」


 彼女の作業机に銃を整備する道具は見当たらない。仕方ない自室に持って帰るか。彼女の部屋に泊まる気だったが、ベッドの下に落ちてる服を拾って着替える。その様子を見ていた彼女が慌てて、俺のトレーナーの裾を掴む。


「え! 帰っちゃうの?」

「うん。部屋戻って、マナミさんの銃直すよ」


 引き留められると思っていなかった俺は少し驚きつつ、振り返ってそう答えた。


「いいよ。今日じゃなくて! どうせ、明日から私もヨタ君も一緒にだし!」


 え? そうなの? 俺、何も聞いてないけど。ま、いっか。マナミさんと一緒なら。



 俺は銃をベッドサイドに置いてから、一度着た服をまた脱いだ。


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