第3話 社内恋愛

 窓から入ってくる人工の太陽光の明かりで目を覚ますと、隣にはスヤスヤと眠る彼女が横たわっていた。つやつやの茶色の髪に長いまつげ、ぷっくりとした唇。それらに光が当たってキラキラとしている様子に、天使って実在するんだなぁと思ってしまう。


 それに相反するように部屋の惨状は酷かった。枕元に転がっている伸び切ったTバックの亡骸を見やる。もう履けんやろ、これ。今度こそ具は収まらん。いや、昨夜ガン見した限りでは大変お上品な具ではあったが。


 昨日の彼女を思い出して、起き抜けパワーも加勢し、またちょっと下半身が元気になった。彼女の頬っぺたをプニプニと人差し指で押してみる。ムニャムニャしながら彼女は薄目を開けると、俺を見て微笑んだ。やべぇ、可愛いな。



 さて、なぜ俺がこんな天使みたいなカワイ子ちゃんと急転直下の展開でベッドインできたかというと、早い話がジャジャ・ラビットこと、マナミさんは殺人で欲情するタイプのわりとポピュラーな異常性愛者だったからだ。



「何してもいいよ。その代わり殺させて」



 昨夜は俺の首を絞めて殺しては、生き返る俺を見て大変喜んでいらした。ちなみに死体の損壊には興味ないらしい。さすがにあんまり細かくされると再生に時間がかかるので、次の日の仕事に間に合わないと困るなぁと思っていたら助かった。


 一度、マフィアに粉砕機で粉々にされて海に撒かれた時は、浜辺で意識を取り戻すまでに二ヶ月もかかったし。あれはわりと二度としたくない経験である。いくら生き返るといっても、できるだけ俺の人権を尊重してサクッと殺して分解しないでほしいと切に願う。


 マナミさんが肘をついて上半身を起こしたので、その豊潤で色素の薄いおっぱいと反比例するように細い腰がシーツから現れる。そして、俺に「何してもいい」と言った彼女の色白の肌には、歯型がたくさんついていた。


 俺には噛み癖があるし、関係をもった女性からは終わった後で大抵怒られるか泣かれるかなプレイをしてしまうのだけれど、彼女は有言実行で全部笑って受け入れてくれた。まぁ女の子がガチで嫌がってる顔や軽蔑した顔も好きな俺としては、ちょっとその点は残念だったけど。それから、ふと彼女の仕事中のコスチュームを思い出して、彼女に謝る。


「ごめん。今日マナミさん肌出せないね」


 彼女は悪戯っぽく笑ってから俺の脇腹に噛みついてきた。くすぐったい。俺は身をよじる。ジャジャ・ラビットの性格はキャラ作りなようで、素顔の彼女はわりかし大人しく物静かなたちのようだ。言葉使いも優しい。


「大丈夫。私、社員ヨタくん殺したペナルティで、狩人役イェーガーとしては三日間の出場停止だから」


 お返しとばかりに歯型を付け終わると、マナミさんはそう言った。さすがにペナルティあるんか。まぁ、そうだわな。就業規則ちゃんと確認してないが、一応社員同士の殺し合いはペナルティがあるようだ。ただ、ゲロ甘いペナルティなのは、デスゲームの会社だからだろう。


「ねぇねぇ。社内恋愛も禁止だったり、ペナルティあるの?」


 俺がそう尋ねると、俺の起ってるモノを触って遊んでいた彼女は小首を傾げた。


「ないと思う」


 返答を聞いて、ベッドサイドの目覚まし時計で時刻を確認する。時間まだあるな。傾げた彼女の細い首筋を甘噛みした。


「じゃあ、マナミさん、俺と付き合ってよ。好きなだけ殺していいよ」


 長い人生で初めての告白を口にすると、マナミさんは子供みたいに無邪気に微笑む。そして、「いいよ」と言って俺の首を絞めた。



 その後、二回ほど俺は殺されて、採用二日目にして遅刻しそうになったのだった。



◇◇◇



 出勤二日目。


 昨日は現地直行だったが、今日は別の仕事らしく、まずは本部に寄るように言われていた。ペナルティで三日間は裏方のマナミさんも本部集合だったので、一緒に出勤してみる。社内恋愛めっちゃテンションあがるな!


 本部に着くと、エロい声しか知らなかった責任者のお姉さんがピッチピチのスーツとハイヒールで立っていた。マナミさんより乳デカイのヤバイ。タカハシ社長の趣味わかりやっす。


 思わず、手をタイムカードにして、タイムスタンプを押したくなる谷間。


「もう、ヨタ君。浮気するの早すぎ」


 かなり絶景の渓谷をガン見していたようで、マナミさんに袖を引っ張られて小声で怒られる。いや、これは浮気ではなく、男の脊髄反射なので許してほしい。でも「すいません」と素直に謝っておく。それよりも頬を膨らませて怒ってるマナミさん、めちゃくちゃ可愛いんで優勝です。あちらの渓谷よりも俺の中で世界遺産です。


 俺達のイチャイチャなんぞ気にも留めていない様子の責任者のお姉さんは、「タチバナ」と自己紹介をしてから俺の今日の仕事について説明してくれた。


「ヨタロー君。昨日の貴方の特殊能力を見て、折り入って頼みたいのだけれど、プレイヤー用のワナの実験台とプロモーション動画の撮影をお願いしたいの。いいかしら?」


 ああ。死ぬサクラ役ね。まぁこの会社に就職した時から覚悟はしてたが、真っ正面からお願いされると苦笑してしまう。


「はい。大丈夫です。でも身体の破損欠損は、蘇生に時間かかるんで、そのあたりは了承ください」


 タチバナさんは俺の回答に満足そうに頷くと、遊戯開発室に行くようにと告げた。マナミさんに部屋の場所を教えてもらってから、途中まで一緒に廊下を歩いて別れる。バイバイと可愛く手を振る彼女を見送りながら、彼女のショートパンツを履いたお尻に目が行った。そして、俺のベッドに転がったTバックの亡骸を思い出す。彼女は今朝、自室に帰っていない。



 今更、気が付いたけど、マナミさん、今日ノーパンでは?

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