3

 ごくり。


 水色のプラスティックストローをゆっくりと吸い上げる。

 瞬間しゅんかん、とろり、と舌の上に優しい甘みが乗っかった。

 バナナも入っているのかな、それとも牛乳?少しだけバニラの香りもする。

 さわやかさもありつつ、こっくりとしたまろやかさもあり、なんだか不思議ふしぎな味だけど、とっても落ち着く。ミックスジュースってこんなのだったっけ。


──おいしい。


 思わず出た僕の言葉に、ブッコローさんがまた奇妙な声で笑う。


「それはよかった。やっと本来の笑顔に戻ったみたいですね!」





 本来の笑顔?





 僕が首をかしげると、ブッコローさんはどこからかりんごを取り出した。


「カフェの前であなたを見た時、すごく悩んでいる顔をしていたので。何かあったのかと思って思わず保護ほごをしてしまいました」

「え、そんなにですか」

「はい。学ランを着た子がこんなところに迷い込むのは通常つうじょうのアタマじゃないですからね!」


 さりげなくディスられたのは気のせいだろうか。


「ボクで良かったら聞きますよ、話くらい。」

「え?」

なやみ多き年頃でしょう。ただ話すだけでも気は多少楽になるもんですからねえ」



 ブッコローさんは器用にペティナイフでりんごを切っていく。



さく、さく、さく。



「まぁ、嫌だったら別に、ねぇ。競馬けいばとかで発散してもいいわけですし」



さく、さく、さく。



 僕とブッコローさんだけの空間に、音がひびく。ブッコローさんは作業に集中しているのか、はたまたわざとか、僕の方を見ようとしない。



 ミックスジュースのストローから口を離す。とろん、とした甘みから、空気に触れた所がひやり、とする。






 今なら、話せる気がした。




***



 

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