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 鮮やかなオレンジの体にギョロリとした目。ミミズクらしき風貌ふうぼうのその生き物は、僕を優しくカフェに迎え入れてくれた。いや、半ば強引ごういんに連れてこられた。


「本好きですよね?入ります?入りません?入りましょう!」


 三段活用さんだんかつようを思い出す言い回しをする彼(声がおじさんっぽいのでたぶんオスだ)に連れられて、僕は今、ちゃっかりカウンター席に座らせられている。



 せまい入り口からは想像そうぞうできない程に、店内は広かった。よくあるおしゃれカフェに、本屋さんをくっつけたような感じだ。内装ないそうは木をイメージしているようで、温かみがあって、初めて来た気がしなかった。



 それに、なんと言ってもこの本の山!造り付けの本棚が壁一面かべいちめんにあって、それぞれ多種多様たしゅたような本が詰まっている。今すぐにでも手にとって読みたい気持ちにかられながらも、緊張していて席から動けない。奥のワゴンには文房具の山も見える。



 カウンターキッチンでは、ミミズクがせわしなく何かを作っている。珈琲コーヒーとインクの匂いが部屋いっぱいに満ちていて、なんだか大人になった気分。このお店は彼のものなんだろうか。



 というか、そもそもミミズクってヒトと会話できたっけ?

 こんなにカラフルだったっけ?

 もしかして着ぐるみ?

 これは何かの夢?

 新手あらて誘拐ゆうかいじゃないよね?




 今更いろんな疑問ぎもんがぐるぐると回る。



 

「はい、おまちどお。ポポくんのミックスジュースです〜」



 つばさとかぎ爪、クチバシを器用きように使って、ミミズクが僕の前にグラスを置く。

 パフェのような大きめのグラスに、とろりとしたクリーム色の飲み物が入っている。



「え、僕、お金持ってないです、注文してません」


 思わず断ると、目の前のミミズクは大きな声で笑った。


「なあに、子どもからお金は取りませんよ!いちおう妻子さいし持ちなので。」

「そ、そうなんですか……」

「サービスですよ」



 ミミズクはボイスチェンジャーをかけたような声をしていて、そこもまた不思議ふしぎだった。しかも妻子持ちなのか。ますます謎だ。



 とりあえずまあ、お言葉に甘えてありがたく頂こう。ちょうど喉もかわいていたし。ありがとうと礼を言うと、大きな目をさらに見開いて、嬉しそうに言った。



「なあに、お安い御用ごようです。ボクはR・B・ブッコロー。君は?」

「僕は……高田たかだミノルです。」

「ほう、ミノルくん。まずはゆっくりジュースでも飲んで、落ち着きなさいな」



 そう言ってミミズク、もといブッコローさんはカウンター越しに僕のうでをバシバシと叩いた。景気けいき付けのつもりだろうか。



 急に知らないひと(ミミズク?)だったブッコローさんが親戚しんせきのおじさんに見えてくる。ブッコローってなんだかブロッコリーみたいな名前だな、とちらっと思ったが、初対面しょたいめんのひと、及び動物にそれは失礼だなと思ってやめた。



 「い、いただきます」


 

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