4


 中学校は、楽しいところだと思っていた。小学校を卒業し、春休みをて迎えた4月。

 わくわくとちょっぴりの不安をむねに秘め、僕は中学生になった。




 本が好きで、自分でお話を書くのも好きな僕は、図書委員としょいいんに入るんだと張り切っていた。そして、いつか小説家しょうせつかになって、たくさんの人にお話を届けるんだ、とも考えていた。




頑張がんばってみなさい。応援おうえんするから」


 お母さん、お父さん。


「みっくんはすごいねぇ、もう委員会を決めたの。ほんとうに本が好きねぇ。作家さっかさんにも絶対なれるわよ」


 おばあちゃん。おじいちゃん。


高田たかだくんは真面目まじめだし、優しい強い子だ。中学校でもゆめに向かって頑張れよ」


 担任の先生。


「まじ?ミノル小説家になんの?すげぇ、サインもらっとこーぜ」


 友だち。




──きっと、たくさんの人から温かい言葉しかもらってこなかったから、現実を甘くみすぎていたんだ。





 中学校は、想像しているよりも厳しい所だった。



「高田くん!それ、もう返却へんきゃくしてくれたんだっけ?」


 図書委員の先輩せんぱいがポニーテールを揺らしながら、カウンターの僕のとこに駆けてきた。

 先輩の視線しせんの先には本がばらばらと4、5冊ずつ積んである。


「あ、えっと……」


 いきなり話しかけられて戸惑とまどい、思考が止まる。まっしろになりつつある頭をフル回転させてしぼり出した声。


「まだ、だと思います……?」


 いまいち確信かくしんが持てなくて語尾ごびが上がった。恐る恐る先輩の顔色を伺う。


──はぁ。


 盛大せいだいなため息をつかれて、さらに僕は焦る。


「す、すみません。えっと、早く返却へんきゃくしますね」

「わかってるなら口じゃなくて手を動かして」

「は、はい」

「あと、オドオドするの禁止。ウザイ」


 先輩は言うだけいって満足したのか、くるりときびすを返して書架しょかの整理に戻っていった。




 憧れの図書委員に入れたはいいものの、仕事を覚えるのに精いっぱいで効率こうりつなんて考えられない。



 自分で自分のできなさに苛立いらだつ。

 先輩のため息がさる。



 委員会の仕事の日になると足取りが重く、自分の気持ちが沈んでいくのがよくわかって辛かった。



 大好きな図書館にいられるからこの仕事に着いたのに、これじゃあ本末転倒ほんまつてんとうじゃんか。




──今の図書館で、僕はただの邪魔者じゃまものでしかない。







きわめつけは、これだ。







 今日の学活。


 作文の課題を1人ずつ読み上げていく、という時間だった。ちなみにテーマは「自己紹介」。原稿用紙げんこうようし1枚に収まれば何を書いてもいい、というルール。


 僕は、大好きな短編小説たんぺんしょうせつのような感覚で、作文を書いた。気の合う子がいるといいな。誰かひとりでも興味きょうみを持ってくれたらいいな──。




 でも。




「高田って言ったっけ?お前、頭大丈夫そ?」

──あたま?

「高田くんっておもしろーい!」

──ウケはねらってないんだけどな。

「あ、キミもしかして不思議ちゃん?」

──真面目まじめに書いたんだけど。




 僕の作文は、クラスメイトには受け入れられなかった。


 作文を読み上げたあと、みんなから出た質問や感想は、予想とは大きくかけ離れたものだった。





 そして言ったのだ、同じ小学校だったヤツが。




「こいつ、作家目指してるんだぜ。だからヘンなんだよ」



 どっ、とクラスが笑いに包まれる。



「じゃあしょうがねぇな!」



 誰かが相槌あいづちをうつ。



 まだ笑いの渦は続く。



──僕が、ヘン。





 へん、ヘン、変。



 心がきゅう、と縮む。

 クラスじゅうが笑いに包まれている中、僕は呆然と立ち尽くしていた。

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