牛鬼の対話①

 鬼塚はゆりあの自宅マンションに向かった。エレベーターでゆりあの自宅がある5階まで上がり、玄関のチャイムを鳴らすとゆりあの父・春日卓郎と母・春日彩が出てきた。

 鬼塚はお辞儀をすると

「私、何でも屋の社長、鬼塚清志郎と申します。本日、ゆりあの依頼の件でお伝えしたい事がございまして参りました」

 春日夫妻は鬼塚を上から下まで見て

「お待ちしてました」

 そう言って鬼塚を家の中まで案内した。

 春日夫妻と鬼塚は席に座ると同時に鬼塚は鞄から名刺を出し、春日夫妻に渡した。今度は、ゆりあから預かっている自由帳を出し、事の経緯を丁寧に話した。春日夫妻は、自由帳の中身を見ながら鬼塚の話に耳を傾けていた。

 鬼塚が話終えると

「自由帳に書かれている内容を見る限りこれは学校にもう一度話さなくては」

「嘘でしょ⁉︎あの子私達に何も話さなかったのに…」

 春日はショックを受け、彩は今にも泣きそうな顔をしていた。

「来週、授業参観があるそうですが」

 鬼塚が静かに落ち着いて聞くと

「はい」

 春日が返事をした。

「お嬢さんはその自由帳の内容を作文にして生徒さんや保護者、先生の前で発表します」

 鬼塚はしっかり前を向いて話した。

「え!そんなことをしたら」

「反対です!私は!」

 春日夫妻が口々に異論を唱えたが、

「お気持ちはわかります。ですが、こうでもしない限りお嬢さんのSOSは届きません。昨今、虐めが原因で自殺して亡くなった小中学生が何人いる事やら…」

 鬼塚はゆりあの依頼からTVニュースやネットニュースを見たり、伊万里経由で伊万里の弟の雪之丞の学校内について聞くなど虐め問題について調べていた。

「鬼塚さん、仰る通りです。ですが、後先の事を考えてください。他の子の親御さんとの人間関係だってある訳ですし…」

 春日が言うと鬼塚はテーブルを叩き急に立ち上がって

「人間関係も大事だが、自分の子供を考えるのが親でしょ!」

 そう怒鳴った。

「すみません。熱くなってしまい…。私はゆりあさんを助けたいです。だから」

 鬼塚は頭を下げた。

「どうか…どうか…。お嬢さんの気持ちに気づいてください…。どんな手を使ってでもゆりあを助けましょう」

 鬼塚の目から涙がポロポロ流れてきた。

「鬼塚さん…間違ってました」

「私達にも責任があります。だから顔を上げてください」

 春日夫妻にそう言われると鬼塚は顔を上げ、自分を落ち着かせながら

「明後日、ゆりあさんの担任教師にもこの話をします。申し訳ございませんが、お時間はございますか?」

 鬼塚にそう聞かれ、春日夫妻は頷いた。

「大丈夫です」

「あります」

 春日夫妻は笑顔で答えた。

「では、明後日宜しくお願い致します」

 鬼塚はそう言うと事務所へ帰って行った。

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