凄過ぎる研究

橋元ノソレ

『動画共有サイトの利用による偏愛―個人の興味追及と繋がりの欠如―』

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目次

第1章 はじめに

1.1 研究背景

1.2 研究目的

  1.3 本論文の構成

 第2章 準備

 第3章 本論

  3.1 問題提起

  3.2 研究の説明

 第4章 考察

 第5章 結論

 参考文献

 付録


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第1章 はじめに

1.1 研究背景

 今日、『Y〇uTube』をはじめとした動画共有サイトが利用されている。利用者はそれぞれに興味のある動画を検索し、それを好きな時に視聴できる。個人が時間に縛られず、能動的に好きなコンテンツを選択できるのだ。これは放送内容と時間が定められたテレビ番組との大きな違いである。しかし、動画共有サイトは各個人が自己の興味のあるコンテンツを追及できる反面、意識しなければ、その他の情報を得ることが難しい。

 また、社会生活でコミュニケーションは欠かせないものであるが、ニュースの話をしようとすると、それを知らないと会話を切られることが、先週にもあった。テレビ離れという言葉が生まれるなかで、この興味による情報の偏りが日常会話における話題選択を困難にしているのではないかと考えられる。ネットで趣味を共有できる仲…


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 もうすぐ秋雨の時期にもかかわらず、屋外は未だに炎天とアスファルトの照り返しに挟まれていた。N氏が読んでいたのは、一緒に登校する友人が自慢げに渡してきた紙束だ。N氏の口から、疑問がそのまま漏れた。

「何だ、これ?」

「何か研究するようにって、課題も出たじゃん」

「さすがに凄過ぎるって。20ページはある。普段やらないのに、張り切り…過ぎじゃないの?」

「ああ、高評価、間違いなしよ」

 友人は褒められたと思ったのかと笑うと、論文を大事にしまった。


「そういうNは何やった?」

「架空植物観察」

「架空?架空って許されるのか!?あっ、レオ・レ〇ニの本みたいな?」

「何だ、それ?知らん」

 研究の題材は指定されていなかった。しかし、それも良識の範囲というものがあると、友人としては、言わずには居られなかった。

「それさ。本当に提出して大丈夫か?怒られない?」

「怒られないって、中身はちゃんと書いてはあるんだから。人に心配する前に自分の心配してな」

「先生、優しいし」

「あー、先生優しいからな」

 年に数回、大量の課題を出す癖を持つ先生への愚痴で、2人は盛り上がった。


 翌日の放課後、先生は生徒を1人呼び出した。

 呼び出し、叱られたのは、『架空植物観察』の著者であるF氏ではなく、その友人だった。

 担任の先生が研究内容を訝しみ、当人を呼び出し、内容について質問したところ、解答がちぐはぐだったことで、ゴーストライターがいることが判明したのだ。

 小学生の自由研究であの論文はやりすぎだ。夏休み最終日に、1人で全ページを埋め、アサガオの架空観察日記を提出したF氏はそう思った。

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凄過ぎる研究 橋元ノソレ @UtheB

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