ロリサキュ×世界渡りの占い師はNPCなので世界を救わない『コッヒーズ☆オラクル』

吉武 止少

コッヒーズ☆オラクル

「異世界クッキングー!」

「いえー」

「ぱちぱちぱち、です!」

「楽しみですねー」


 アルマが構えるカメラの前、皆でタイトルコールをしてにぎやかす。フリル付きのエプロンを着て可愛くポーズを取っているのは柚希ちゃんだ。

 何でも、普段から使っている占いアプリで「新しい料理に挑戦するのが良い」と出たらしい。


「うち、作るーれるもん作ってしもうたけん」

「ああうん、柚希ちゃん本当に何でも作れるもんね」


 百均で買ってきたもので燻製作ったり、豚バラブロックを塩漬けして生ベーコンパンチェッタ作ったりしたときは本気でびっくりした。

 いやびっくりしたのは冷蔵庫を開けたらででんとおっきなお肉がそのまま置かれてたからなんだけどさ。燻製にしろ生ベーコンにしろ冷蔵庫内で乾燥させるのが作りやすいんだとかなんだとか。

 そんなわけで相当マニアックな料理以外はほぼ挑戦済みの柚希ちゃんが占いをクリアするために手を伸ばしたのは異世界の料理である。妖怪は食べないって言ってた気がする(※1)けど、モンスターは別なんだろうか。

 おれたちがいるのは異世界の森。

 大悟と買ったキャンプセット(※2)がこんなところで役立つとは思わなかったけれど、前室付きのテントに難燃素材のタープは本格派なのでテンション爆上がりだ。


「さて、それでは今日の食材を紹介します。まず狩人から」

「待って環ちゃん。食材紹介するのに狩人からってエグくない?」

「えー、でも頑張った人はきちんとほめてあげないと」

「なでなで、です!」


 進行役の環ちゃんに呼ばれて出てきたのはリアと葵ちゃん。二人は設営中に森を駆けずり回って良い感じの食材を獲ってきたらしい。

 獲ってきたってなんだよ……と思わなくもないけれども、クリス監修だしあからさまに罠っぽい食材は避けてくれてるだろう。きっと。恐らく。多分。メイビー。……避けてくれてると良いなぁ。


「あまね、何で空をみている?」

「いや、神に祈りを」

「あははは、あまねさん自身が信仰の対象なのに(※3)面白いこと言いますね!」

「環おねーさま? せっかく食材を獲ってきましたので、料理に入りません?」

「ボクもお腹減ったよ」


 やんややんやと騒がしい雰囲気ながら、何となく料理する流れになったので柚希ちゃんがむん、と胸を張る。


「御馳走さまです!」

「あまねちゃん? うち、まだ何も作っとらんばい」


 いやあの、見てるだけで魔力が湧いてくるんですよ。

 首を傾げながらも柚希ちゃんは包丁を手に取り、料理を始めていく。ちなみに俺は料理シーンは見ないことになっている。モンスターをさばくところからみちゃったら絶対に食べられないもん。

 料理用のブース周辺で皆がキャイキャイやってるのを聞きながら、テントの中に入る。

 ふーん。別に寂しくなんてないもんね。

 なんたって柚希ちゃんはおれのためにご飯作ってくれるわけだし!

 中に待機しているのは半ば無理矢理連れて来られた大悟。撮影とか編集がアルマの仕事になったのであまりやることはないんだけど、梓ちゃんとデートに行くって浮かれてたのを見て環ちゃんが拉致してきたらしい。

 環ちゃん、君に人の心はないんか。


「大悟ー。暇ー」

「お疲れっす。せっかくなんでゲームやります?」

「今は何やってるの?」

「エルデン指環物語っす」

「高難易度鬼畜死にゲーじゃん」


 やってると絶対に叫びたくなるのでパスして、スマホをいじり始める。とはいえ、無料の漫画もだいたい読んじゃったし『文筆家になろう』とか『ヨミカキ』とかの無料小説も気になるのは読み終えてる。

 仕方ないので本企画の発端にもなった占いアプリをダウンロードしてみる。


『コッヒーズ☆オラクル』


 ポップなデザイン文字の下、ブラックコーヒー入りのマグカップが湯気を立てたタイトルが映し出される。マグカップには緑色の三角帽子がシルエットに印刷されていて、爽やかながら占いっぽい気配もしている。

 ダウンロード時に読んだ説明によるとカメラ連携でこっちの表情を読み取りながら高性能AIが占いをしてくれるらしい。占いの種類はタロットらしいんだけど、表情を読み取る必要ってあるんだろうか。

 まぁでも楽しそうなのでさっそくポチリ。

 画面が暗転して、どう見ても本物にしかみえないキャラクターが映し出される。


『ふっふーん、ふーん♪』


 マグカップに印刷されていたような翡翠色の三角帽子と、同系色のドレスはスッキリとショルダーレスなデザイン。白磁のような肌に華奢な肩がなんとも美味しそ……ンン、魅力的な女性だ。


『ふっふっふーん♪ ……あれ?』


 耳には大きな金のイヤリング。細かな装飾が施されたネックレスも相まって、非常に占い師らしい。

 そんな彼女はいたずらっぽい雰囲気を漂わせながらもこちらをじっと見つめ、それから首を傾げる。


『赤いランプ……あっ!? もしかしてこれ繋がってます!?』

「おお、凝った演出だ」

『……ええ、そうです~。凝った演出なんです~。お名前を伺ってもいいですか~?』

『あ、ハイ。宗谷あまねです。えっと、お姉さんは?』

『おね~さんなんて照れちゃいますね~。私はコヒナ。見ての通りの占い師です~』


 微妙に視線を逸らしてるのは何ででしょうか。

 っていうか普通に受け答えしてるの本当にすごい。アルマみたいな異世界のオーバーテクノロジーの塊が近くにいるからあんまり触れる機会はないけど、こんな滑らかにもしかしたらおれの世界もゆくゆくはアルマみたいな存在を作れるようになるんだろうか。


『えーっと、あまねさん? あれ~? 繋がってない? おーい?』

「あ、繋がってます」

『良かったです~。あんまりにも静かだったので不安になっちゃいました~』


 あまりにも人間らしい喋り方に思わず画面を凝視すると、コヒナさんはぱたぱたと手を仰ぐ。


『そんなに見つめられると照れちゃいますね~。さっそく占いはいかがでしょうか~?』

「あ、ハイ。じゃあお願いします。何を占えるんですか?」

『タロットで見ますので、基本的には何でも~。今日、明日の運勢からお悩み相談、なんでも承ります~』


 占える範囲が広すぎて逆に困ってしまう。

 うーん、と頭を捻っていると、エルデン指環物語をしていたはずの大悟がひょいっと顔を出した。


「恋愛運っすね。あとは食運とか」

「うっ……食運は何となく理由分かるんだけどさ。恋愛運は何で?」

「ほら、こないだ自分が買ったエロゲを借りたじゃないっすか」


 ああ、うん。エロゲっていうか『魔法まほラー少女☆瀬阿部拉せあぶらめんま』を出してるところの新作ね。

 今度は田畑開拓ゲーだって騒いでたし、どこをどう頑張るとエロにつながるのか気になるじゃん。ある意味期待通りのイカれ具合(※4)だったけどさ!

 

「環にバレたっす」

「ヴェッ!?!?」

「リアに電話して楽しそうに異世界のゲテモノとかを聞き出してたんで、おそらく今日は色々来るっすよ」

「ヴォォォォ!?」


 いやだ。絶対にいやだ。

 おろおろしながら打開策を考えるけれど、おれの頭脳で思いつけるはずがない。というか今まで回避できた試しがないんだよ!


「ッ! こ、コヒナさん! 助けて! この後の全体的な運とかを占って、悪いことが起きた時の回避方法も一緒に教えて!」

『では全体運ですね~。スリーカードで占いますので五分ほどお待ちを~』

「エッ!? 五分もかかるの!?」

『あ、これアプリですか。すみませんいつもの癖で~。アプリならすぐ出ますよ~』


 ……コヒナさんってAIなんだよね?

 なんかすごく中に人が入ってそうな気配がするんだけども。

 怪しいなぁ、と眺めていると画面が切り替わる。現れたのは三枚のタロットカード。

 最初にめくられたカードは若い男女と、それを祝福する天使。

 二枚目は握られた棒で、三枚目は月だった。


『一枚目はラヴァーズ。愛を示すカードですね~。情熱や選択、結婚や深い結びつきを意味するカードでもあります。、誰か大切な人との出会いや縁の深まりがあったんではないでしょうか~。もしかしたら、そのお方のお陰で何か大切な選択を決断出来たりとか~』


 言われて思いつくのはサキュバスになってから出会ったみんなのことだ。

 ルルちゃん、環ちゃんや柚希ちゃん。リアに葵ちゃん、アルマもそうだ。

 そして何と言ってもクリス。

 春のクトゥルフ野郎の件もそうだし、夏の祓魔師協会の件だってそうだ。

 いつだってうじうじしてるおれのことを支え、励まして、そして背中を押してくれる。みんながいてくれるからおれはここまで頑張れているのだ。


『二枚目はエースオブワンドです~。情熱的な──』


 コヒナさんが説明してくれてるというのに、横にいた大悟が突然思い切り噴き出したやがった。汚い……。


「大悟、うるさい! なんだよもう」

「いや、あのっすね……ワンドって棒じゃないっすか」

「そうだな。棒とか杖みたいなのだよ。それが?」

ワンドエース。サキュバスにTSしたせいで一本しかない棒が失われた、と」


 しょうもない下ネタだったので後で環ちゃんに言いつけようと心に誓っておく。せっかくなので梓ちゃんにも密告してやる。


『三枚目はムーンです。何故かうまく読み取れなかったんですけれど。、夜の怪しさそのものの象徴ですね~』


 ……いや、あの。

 サキュバスだもん。

 もうそのまんまだよね。

 コヒナさんは読み取れなかったのが納得いってないらしくて首を傾げているけれども、まさかモニター越しのユーザーが異世界でTS転生した人外サキュバスだなんて思わないだろうし、そういうこともあるよね。


『なんだか申し訳ないです~。もう一度占いますね~?』

「あ、ハイ!」


 勢い込んだはいいものの、二回目の占いをする前に料理が完成したらしく呼ばれてしまった。ま、まだ回避方法を聞いてない!

 肝心の回避方法をォォォ!!!


「ふぬぬぬっ! ぐおおおおおっ!」


 スマホに向けて必死に手を伸ばすが、クリスに引きずられておれはテントを後にした。


『やれやれですね~……まぁでも、回避なんてしなくても大丈夫ですよ~。あまねさんが皆さんを思ってるように、皆さんもあまねさんを思ってます。カード達がそう示していましたから~』


 コヒナさんの声が聞こえた気がしたけれど、何を言ってるか確かめる暇もなく着席させられた。

 おれに出されたのは『何かのお肉のソテー』。


「何かって何!? 何なのこれ!?」

「いやー、教えたらあまねさんきっと食べてくれないですし」

「美味しゅうできたけん心配せんでよかとに」

「味じゃないんだよ味じゃ! 素材を聞いてるの!」

「よう熱した鉄板でバターば溶かして、ハーブば摺り込んだお肉ば一気に焼き上げると美味しくなるばい」

「だから作り方じゃなくて素材ぃぃぃ!!!」


 なお、実は環のいじめっ子配信ただのドッキリで中身は普通に牛肉でした。美味しかったよ! 多分! 味わかんなかったけど! ちくしょおおおおおお!

 


※1 本編第二部

披露会会場にてオアジとか人面樹とか河童を使った出店が出てた。おれは絶対に食べないって誓ったけど。……いや企画って言われたら視聴者リスナーさんたちのために食べないわけにもいかないけれど、とりあえず人型シルエットのものはノーセンキューでいこうと思う。


※2 本編第二部

大悟とホームセンターに行ったときに色々買ったんだけど、そのまま死蔵してたんだよね。でもホラ、こうして使い道があったわけだし! 無駄じゃなかった! 無駄じゃなかったんだよ環ちゃん!


※3 本編第二部

いやあの、これ完全に不可抗力だし悪いのは環ちゃんなんだよ。


※4 新作:『未踏の島のぱい☆おにア!』

無人島に住み着く鬼になって、貧乳から巨乳まで色んな女性を拉致スカウトして開拓に従事させて無人島を発展させるゲーム。連れてきたらすぐに洗脳調教するので大悟好みの18禁ではあるんだけど、拉致と開拓は鬼ムズなのに洗脳調教は三分で終わるの本当にゲームバランス壊れてると思う。

あと拉致の下調べで被害者の名前とか家族とか友達まで出てくるのに、事後はステータス画面見ても『労働力(A)4』『労働力(F)1』とかになってるの本当に可哀想すぎる。あ、ちなみにアルファベットはサイズです。大きい方が労働力として優秀なんだけどどういう理屈なんだろうか。



こちらが原作となります。

◆「世界渡りの占い師は NPCなので世界を救わない」

https://kakuyomu.jp/works/16816700429050299055


◆「TSロリサキュバスの健全配信活動!」

https://kakuyomu.jp/works/16817139554496608169

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ロリサキュ×世界渡りの占い師はNPCなので世界を救わない『コッヒーズ☆オラクル』 吉武 止少 @yoshitake0777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ