プロローグ(2)

……これから僕は、どうしたらいいんだろう?

……そんなことは分かってる。僕から大切な人を2人も奪ったあいつを倒すだけだ……。


……怯えてガタガタと体を震わせていただけの僕が?

おじいさんとおばあさんでも敵わなかったあの男と戦う?


…勝てる訳……無い……。

……それでも……僕はやらなきゃならないんだ……


もっともっと強くなって……たとえ何年かかろうと……

あの世界に、帰れなくなろうと……


「……」


僕は、落ちていた禍々しい色をしたクリスタルを拾い上げる。

今まではこんなもの、落ちた事は無かった……


もし、もしもあの男が出てきたからこれが落ちる様になったと言うのなら……

これをお守りに、僕は強くなろう。


僕はそっと、クリスタルをしまって歩き始める。

おじいさんとおばあさんの家の方向ではなく、当てもなく歩いた。


「……ぐぅぅっ……」


なにを、なにを泣いてるんだ僕は……

泣いたって……泣いたって仕方が無いじゃないか……


「ううっ、グズ、ううううっ……」


なのに、涙が止まらない……


「勇助」


「勇助」


「「勇助」」


っ!


「うぁぁぁあああああっ!!!」


絶対に……絶対にあいつを、倒してやる……!








どのくらい歩いたんだろう。

もう真っ暗だ。

辺りは木々が生い茂っていて、斜面があったり無かったりする。


きっと、山だ。

僕は気づかないうちに山に着いていたみたいだ。


冷静になると、熊にやられた傷が痛む。

それでも、何かにすがるように、何も考えないようにと前に前に進む。と、


ブブブブブブ


明らかに大きい黒い色をしたカマキリのような昆虫。

それも、赤い目をしたもの。


ブブブブブブ


と羽を震わせながら歩く。

僕は生存本能なのか、分かってしまった。


こいつには勝てないんだ、と。


弱気になった僕に気づいたのか、カマキリがこっちを向いた。


「……ひっ!」


思わず逃げ出す僕。

圧倒的なスピードで追いかけてくるカマキリ。


「……っ!くぅ……うぅぅ……!」


声にならない声をだし、半べそをかきながら逃げる。

……まただ……また、僕は逃げるしか出来ないんだ……。


さっきあんなに何度も戦うと決めたばかりなのに。


「うぅ…ううぅぅっ…!」


涙が止まらない。

それでも僕は、泣いてないっ!泣いてなんかいない!泣いてどうする!と自分を煽って、泣いていないと思い込む。


そんなことを考えながら逃げていると、目の前に大量の小さな、

それでも僕くらいの大きさはある、白いカマキリの大群を見つける。

それも、全て赤い目をしていた。


その中に、白いカマキリから逃げる青い体をして頭から角を生やした子どもを見つける。

なんで角が?なんて考える暇もなく……


「あっ……」


僕もとうとう、黒いカマキリに追いつかれる。

……もう駄目なのかな……

また……僕は何も守れずに……


「っ!!!」


弱気になる僕を無理矢理押さえつけ、青い体をした子どもを見る。

青い体をした子どもも僕の方と言うより黒いカマキリを見た。

おびえた様子で、目を見開いていた。


赤い目はしていない、黄色い目。


僕は決心する。

青い体をした子どもはとうとう諦めてしまったのか頭を抱えて身を埋めてしまう。


「……どうせ……死ぬんだったら……」


どうせ死ぬなら……!

僕は黒いカマキリの方を見る。

そして剣を抜こうと手を伸ばす。


「うおおおおおおおっ!」


が、


ドサッ!


「ぐぁっ…!」


ズサァァァァァ!


黒いカマキリにカマを振られ、1発で吹き飛ばされる。

すぐ隣には青い体をした子ども。


……僕はもう足に力が入らない……

せめて……せめて……


僕は這って、青い体をした子どもを抱きしめる。

子どもは黄色い目で僕を見た。

何もできない僕は、力なく笑った。


白いカマキリの1匹が襲いかかってくる。

僕はなんとか体を動かし、攻撃を避ける。


が、

黒いカマキリが僕の前にとうとう来た。


「ごめんね……守れなくて……」


小さくそう言い、子どもを抱きしめ死を覚悟した。






その時。


ブブブブブブブブブブブブ


と、白いカマキリ達が騒ぎ足す。


ブブブブブブブブ!!


「えっ……?」


僕が顔を上げると、白いカマキリが吹き飛ばされていて、

目の前にいるのは大きな体をした、青い…鬼。


顔の上には金髪のパーマの中、堂々と立つ角。

口の両橋には牙が生え出ている、鬼としか言えない、鬼。

僕の体をみて、そんな鬼が口を開いた。


「お主……我の子を守ってくれたと言うのか……?」


心底意外そうな口調。

冷静じゃない僕はただただおびえることしかできない。


が、僕の代わりに子どもが頷いていた。

すると、鬼の口角が上がった。


「人間なのに……フフッ」


と、鬼は黒いカマキリを見る。


「奴は我が何とかする……そのまま待っていろ」


なぜ、鬼と会話できるのか。

なぜ僕を守ってくれるのか。

そんな事はどうでも良かった。


僕の目の前では、青鬼がカマキリに立ち向かう姿。


棍棒を振るい、カマを弾く雄々しい戦い。

だが、複数いるカマキリ対鬼一人。

一匹からの攻撃を鬼も喰らってしまう。


「……むぅぅぅん!!!」


それでも、鬼は立ち上がる。

我が子を守る為にも自分は負けられない、と言うように。


「うおおおおおおっ!!」


ボロボロになった体を奮い立たせ、立ち向かう姿。

……凄い……


ただこうして子どもの鬼を抱きしめるしかできない自分の中に、

何か熱い熱量を感じた。

そんな時……


ブブブ!


1匹の白いカマキリが、僕たちに向かって飛び出した。


「しまった……!」


鬼は僕たちを見て、怯んだ。

その時、鬼は黒いカマキリに吹き飛ばされる。


……本当に、僕は何も出来ないのか……?


ただただ変わらずにやられて……

この子どももやられる……

……そんなの……そんなの……


「ウワアアアアアッ!!!」


僕は無理矢理に足に力を入れ、体を起こす。

背中から剣を抜き、飛びかかってくる白いカマキリに、一閃。


ブ……ブブ……ブ……


そこで、僕も倒れる。

すぐ頭上に、黒いカマキリ。


……僕、頑張ったよね?おじいさん……おばあさん……


先ほどまでは悔いしかなかったのに、なぜか心はすっきりしていた。


その時。


ドンっ!


ズサァァァァァ!!


「フハっ、フハハハ!気に入ったぞ!人の子よ!!」


飛んできた黒いカマキリを吹き飛ばす青鬼。

体がボロボロになっても、立つ雄々しい姿。


ブブブブブブブ!


再び青鬼に向かって襲いかかる黒いカマキリ。


「我も……我も倒れてなどいられぬ!!!」


それに立ち向かい、飛びかかる青い鬼。


ドガッ!!!


一瞬の衝撃音が消えた後……


残っていたのは、青鬼と禍々しい色をしたクリスタルだった。







「人の子よ……大丈夫か?」


僕と子どもを運びながら言う青鬼。

自分こそ体をボロボロにしているのに、それでも運んでくれる。


「ぼ、僕は……大丈夫……です」


……正直、怖い……

僕、このまま連れて帰って食べられちゃうんじゃないかな……

こんな強そうな鬼に、勝てっこないよ……


「安心せい。貴様を食べはせん」


「っ!ぁ、いや、その……すいません……」


考えていた事を見透かされ、思わず謝る僕。

すると、鬼は気にもしないように笑って洞窟のようになっている穴の中に入る。


「さて……到着……だ……」


僕と子鬼を下ろす。と、


ドサッ


「っ!!」


青鬼が、倒れた。


「むむむ……我も無理をしすぎたようだな……」


立ち上がろうとするけど、青鬼は中々立ち上がらない。

僕はそんな様子を見て、なんとか起こそうと僕自身の重たい体を起こして青鬼を奥に運ぼうとする。


「……うぅ」


が、


ドサッ


全く動かせず倒れてしまう。


「フハ、ハハハハ!貴様は本当に面白いな!」


青鬼が、笑った。

それに釣られて小鬼の顔も笑って、僕も思わず笑ってしまった。




僕が鬼に出会ってから、2日目。


「んん……」


目が覚めて、自然の力で作られた天井が見える。

……そっか、僕、昨日鬼に助けられたんだ……

……おじいさんとおばあさんは……もう……いないんだ……


「うっ、ううぅ……」


また、泣きそうになる。


「人の子よ、どうした」


そんな僕の様子を見てか、青鬼が心配してくれた。

小鬼も僕の元に駆け寄ってくる。


「わ、我は貴様は襲わん!子を守ってくれた貴様だ!大丈夫だ!怖がるでない!!」


焦ったように言う青鬼。

すごく、申し訳なくなる。


「ち……ちがっ……これは……その……」


僕はなんとか涙を止めようと何度も手で拭う。

それでも、涙は止まらない。

小鬼が寄ってきて、僕の頭を撫でてくれる。


「我が……怖くて泣いているのではないのか……?」


「……はい……僕は……ううっ……」


鼻の頭が熱くなって、うまく話せない。

理由を言わなきゃ……ちゃんと理由を言わなきゃ……

そう思うほど、頭の中がこんがらがって、言葉にできない。


「人の子よ。泣くな」


僕が必死になって喋ろうとすると、青鬼が僕を包み込んでくれた。


「っっっぅぅ!!」


僕は感極まって、青鬼に抱きついてしまう。


「うあああぁぁぁ!!」


昨日やられた体の痛みも、この時は忘れて無我夢中で泣いていた。







青鬼さんと出会って半年。

このままじゃ僕はあいつ(魔王)を倒せない……

そう思って特訓を続けている。


青鬼さんと小鬼は本当に僕を食べる気はないみたいだ。

赤い目をしていない、動物を狩って食べている。

僕は一緒にいるうちに、自然に青鬼さんと呼ぶようになった。


「勇助よ、今日もやるのか?」


青鬼さんが木の棒を持ちながら言う。


「はい!お願いします!」


僕も木の棒を拾って言う。

僕の剣の練習相手を青鬼さんがしてくれていた。


青鬼さんは強い。

だから、僕は何度も練習をさせてもらう。


「むぅ?」


青鬼さんが珍しく声をだした。


今までと違った考えでの攻撃。

…今日こそ…勝てる…!

と思って木の棒を青鬼さんの体に当てようとしたけど…


ぺしっ


「えっ…?」


先に青鬼さんの木の棒が当たった。


「勝負あったようじゃの」


先に一撃を当てた方が勝ちの勝負。

これで、何戦したかは覚えてないけど全戦全敗だ……

多分、3桁はいってると思う……


「そ、そんな……」


僕は思わずしゃがみこむ。

また……また負けたんだ……


「気に病むな、勇助よ」


「う、うん…」


言葉では肯定するけど、やっぱり悔しい……

こんなんじゃ、いつまで経ってもあいつは倒せない……


僕は体育座りをして、顔を埋めてしまう。

そんな様子を見てか、青鬼さんが僕の隣に座ってこんな事を言い始めた。


「勇助。怖がらないで聞いてほしいのだが……我はかつて、人を襲っていた」


初めて聞く話。

僕は顔を上げると、青鬼さんは悲しそうな顔をしている。


「人を襲う事が、我らの誇りに思えていた時があったのだ……

 そんな中、赤鬼がもう襲うのをやめようと言い出した……我はなぜ赤鬼がそんな事を言ったのかが分からなかった。

 次の日に、我らは襲われた。人と、犬と、猿、キジに」


……聞いたことある話だ……


「我は思った。やはり人を襲ったから我らは襲われた。それは当然の事だ。

 だから、我らも襲い返すんだと……

 我らはやられ、残ったのは我と子と、一族の宝のみだった」


青鬼さんは続ける。


「我は子を抱き、宝を抱えた。その後、我は死に、転生した。

 鬼に転生はよくあるが、記憶があることなど聞いたことも無い。手元にも確かにある一族の宝……

 その時、我は見たのだ。人を学べ、と……我は確かに人を学んでいなかったのかもしれんな……

 勇助と出会って、我はそう思えたのだ」


そして、僕の頭を撫でる。


「勇助の優しさは強い。強情だった我の考えまでも変えてしまったのだ。だから、強くなる。大丈夫だ」


僕にくれた、激励。


「……ありがとう、ございます……」


また、僕は泣きだしてしまった。

家族以外に優しくしてくれる者が、また増えたから。




青鬼さんと出会って、一年。

僕の体は、鍛えているけど相変わらず貧弱だ……

筋肉はついてるけど、大きくない、貧弱な体。


それでも、確かに強くはなっていると思う。

青鬼さんが相手をしてくれるお陰で。


「勇助。今日は我が相手だよ」


すっかり大きくなった小鬼。

僕の身長なんてとっくに超している。


鬼の成長速度は凄いみたいだ。

もう、青鬼さんに教わって言葉まで覚えてる。

でも、喋り方と一人称の使い方があっていなくて中々おかしい。


「うん、よろしくね」


僕が木の棒を拾うと、小鬼も棒を持った。

僕が切りかかると、防ぐ小鬼。

何度かの切り合いのあと、


バシッ


「うっ……!」


僕の木の棒が当たって、小鬼が負ける。


「ご、ごめん……痛かった?」


「いや、大丈夫。流石にこれくらいじゃ痛まないよ」


と言ってへっちゃらだと言う小鬼。

……やっぱり、鬼なんだなぁ……

その強さが、羨ましいよ……


「勇助。ちょっといいか?」


青鬼さんが出てきた。


「あ、はい。大丈夫ですよ」


小鬼には気兼ねなく話せるけど、やっぱり青鬼さんには敬語を使っちゃう。


「悪いが、お前は飯の調達をしてきてくれ」


小鬼の方に向かって言う青鬼さん。


「分かったよ、パパ!」


と言って、棍棒を持って素直に出ていく小鬼。


「……それで、話ってなんですか……?」


「勇助には、鬼の強さの秘訣を話そうと思ってな……」


「っっっ!!」


願ったり叶ったりな話だ……!


「どうだ?聞くか?」


「はい!ぜひともお願いします!」


僕は嬉しくなって、つい声が大きくなる。

けど、なんだか青鬼さんの顔は浮かない。


「我らが強いのは、この角のお陰なんじゃ」


「えっ……?角……?」


そんなところに……強さの秘訣……?


「前に話した我らが人間にやられた話を覚えているか?」


「あっ、はい……犬とかキジとかも来たやつですよね……?」


話が衝撃的だったから、ちゃんと覚えてる。


「あの時……どうやら赤鬼は角の力を人間にやったようなのだ……」


「人間に……角の力を?」


鬼から力を貰う。

それも、角から……

一体、どうやるんだろう?


「我らが強いのは確かに角のお陰じゃ。角が折れた鬼は確かに弱くなる。

 ……じゃが、我は角の力を人間に託すなんて聞いたこともない……」


「……それなのに……どうして角の力を渡したって分かったんですか……?」


「あやつらが来る前の赤鬼は……

 2本あるはずの角が1本しか立っておらず、明らかに虚弱じゃった……」


「虚弱……?」


虚弱って弱ってるってことだよね……?


「そして、次の日に襲いかかってきたんじゃ……人間の力とは思えぬ力で……

 我はそれで確信したのじゃ。おそらく赤鬼は角の力をあやつに渡したんだと」


「……なるほど……」


じゃあ……赤鬼と〇太郎はグルだったのかな……?


「じゃが、間違えなく赤鬼も殺されとった……その顔が忘れられないわい……

 信じていたのに、裏切られたような顔をしとった……」


ふと、寂しそうな顔をする青鬼さん。


「青鬼さん……」


「まぁ、そんなところじゃ。我らは角があるから強いのだ……決して我らが強い、という訳では無い……」


「そ、そんなことないですよ!!」


青鬼さんの言葉に、思わず強く否定してしまう。


「だって……青鬼さんは僕を助けてくれたんですよ!?僕に強いって言ってくれたんですよ!?

 優しさが強いなら……青鬼さんだって強くなれますよ!!」


立ち上がって熱演する僕を青鬼さんは目を見開いて見る。

そして、僕の心の中には羞恥心が芽生えた。

……ちょっとやりすぎたかな……?


「あ、あの……すいません……でしゃばりました……」


僕が小さく縮こまると


「フフ、ハハハハハ!本当に面白いやつだ!我がまさか人の子に慰められようものとは!フハハハハハ!」


大きく、声を上げて青鬼さんが笑った。


……良かった……!


僕も一緒に、思いっきり笑った。





僕が青鬼さんと出会って、1年3ヶ月……

事件は、起きた。

今日はやけに山が騒がしい。


ガサガサガサ


「むぅぅ?」


青鬼さんもしかめっ面だし、僕だって分かる。


「……2人とも、どうかしたの……?」


小鬼は気づいてないみたいだけど……


「勇助」


「はい」


青鬼さんが棍棒を持ち、僕も剣を持つ。

小鬼は何がなんだか分かっていない様子だ。

と、その時。


キキキキキキキキーキー!!


「「「っ!」」」


鳴き声がして、赤い目をした白い猿が出てきた。


「勇助!行くぞ!」


「は、はい!」


青鬼さんが飛び出した後、1匹が僕の目の前に来る。

襲いかかる猿の爪。

それを難なく剣でいなし、切りかかる。


チッ、ザシュ!


キーーー……


猿は斬られると、光の結晶となって消えた。

……久しぶりの戦闘だけど……しっかり戦える……!


青鬼さんや小鬼と練習したことがちゃんと生きている!


その後も順調に倒していく。

少なくとも僕は、青鬼さんとなら勝てると確信していた。

僕が何匹目か分からない猿を倒した後……


「っ!青鬼さん!」


「むぅ!おう!」


数も少なくなった白い猿の中、明らかにサイズが大きい猿……

猿と言うより、ゴリラだ。


如何にも群れのボス、と言わんばかりに存在感を発揮させる真っ黒い体に赤い目。


ウゴオオオオオオオオ!!


一瞬の雄叫びの後、ゴリラと白猿5匹が襲いかかってくる。

ゴリラは青鬼さんに、僕の所に白猿の群れ。


「ご、5匹も……」


「大丈夫だ!勇助はもう数え切れないくらい倒しとる!恐れるでない!」


「っ!はい!!ありがとうございます!」


後ろ向きになりそうな考えを、青鬼さんが吹き飛ばしてくれる。

青鬼さんがゴリラを「こっちじゃ!」などと挑発し、僕を巻き込まないように洞窟の外に出ると

いよいよ、僕の元にも白猿が飛びかかってきた。


「くぅぅ……!」


1匹目の爪をいなす。

からの切りかかり……が出来ないで、別の猿に攻撃されそうなのを剣で防ぐ。


なんとか攻撃。1匹の猿の目が切れる。


その時、嫌な予感がして後ろに向かって切りかかる。


どうやら予感は当たったようで2匹目の猿を切り落とす事ができた。

けど、その時。


「ぬぁぁぁっ!!」


「青鬼さん!?」


青鬼さんの悲鳴。

何があったのかを確認したいけど……

白猿が邪魔をしてくる。


「じゃ、邪魔だぁぁぁ!」


3匹目を切る。


「やめろぉぉぉ!父さんを虐めるなぁぁ!」


「小鬼!?」


どうやら小鬼が来たみたいだ。

状況はよく分からない。

……早く……早く見に行かないと……!


「邪魔だよぉぉぉ!」


4匹目、後は1匹だけ。

でも、なんでかこいつがすぐに倒せない。

まるで僕の動きを学んだかの様に動いている……


「うわぁぁぁぁ!!」


「っ!?小鬼!?」


小鬼の悲鳴。

そして、僕に襲いかかる白猿。


「お前に構ってる暇は無いんだよぉぉぉ!」


さっきと同じように切りかかる……と見せかけて足の位置を変えて、重心ごとぐるりと体を回す。

白猿は引っかかって、僕の剣に自ら飛び込んできて、光の結晶となって消えた。


「青鬼さんっ!小鬼さんっ!」


僕が急いで洞窟を出ると……

青鬼さんと小鬼がうなだれて動いていなかった。


「……そんな……そんなぁっ……!」


……嘘……でしょ……?

あんなに強かった……青鬼さんまでやられたの……?


そんなの……そんなのっ……

僕が敵う訳、無いよ……

逃げるべきだ……逃げるべきだ……けど……


また何にもできないのは……死ぬよりも嫌だ……!


「うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」


僕は剣を抱えて、ゴリラに走る。


「わぁぁぁぁ!!!」


ザシュ!


ウゴオオオオオオ!


僕の一撃を喰らって、怯むゴリラ。

……お前だけは……お前だけはぁぁぁ!!!


ドゴッ!


「ぅぐっ……!?」


ズサァァァァ


その後すぐに、吹き飛ばされる。

そして、僕の元に飛びかかってくるゴリラ。


……くそぅ、くそぅ!!まだやれるのに……!!

避けられない。


ドゴッ!!


僕が目をつぶって身構えた時、不思議と僕に痛みは無かった。

恐る恐る目を開ける。


「っ!青鬼さん!?」


僕を包むように笑顔で守ってくれる、青鬼さん……


「フハハ……勇助……すまない……我はもう駄目なようだ……」


「そ、そんな!!嫌だよ!!そんな事を言わないでよ!!」


「我は……最後に勇助と出会えて嬉しかったぞ……」


「い、嫌だ!!嫌だぁぁぁぁ!!」


青鬼さんの言葉を聞いちゃだめだ……聞きたくない!!


「フハハハハ……最後まで我の心配をするなんてな……

 この世界で、勇助に出会えて我は良かった……」


何度もくる衝撃。

ゴリラからの攻撃を受けてくれているのが分かる。


「勇助……最後は笑ってくれ……勇助になら……我が一族の宝を託せる……」


ドゴッ!


「ぬぅぅ!」


「青鬼さん!!」


続くゴリラの殴打により、とうとう青鬼さんが手をついた。

それでも片腕を上げ、ネックレスを外して僕に付ける。


「そして……最後に我の力も……」


すると、青鬼さんは角を折り……砕いて僕の体に振りかけた。


「そ、そんな!!そんな事をしたら……!し、死んじゃ……」


「勇助。我の仇を、とってくれよ……そして笑顔を……見せてくれ……」


それを言うと、青鬼さんは倒れこんだ。


ドサッ!!


その後、ゴリラの殴打にて僕の目の前から青鬼さんは吹き飛ばされた。

青鬼さんがその後動くことは……なかった。


今、僕の目の前に残っているのは、ゴリラ1匹だけになった。

……青鬼さんを死なせたのは、こいつのせいだ……

僕は、絶対に……許さない……許さない許さない許さないっ……!


「うわぁぁぁぁっ!!」


僕は飛び出してゴリラに襲いかかる。

不思議だ……体の底から、メキメキと力が湧いてくるようだ。


ザシュ!


ウゴオオオオオオオ!


ゴリラが痛みに悶え、僕に反撃をしてきた。

その攻撃を、なんなく転がって避ける。


やはり、いつもより体が軽快に動くのを感じながら。


許さない……許さない許さない許さない許さない……!


「うあああああっ!」


ザシュッ……!


ウゴ、ォォ……ォ……


勝負は案外早くついた。

ゴリラは消えて、禍々しい色をしたクリスタルが残る。


きっと青鬼さんと小鬼が戦った部分も大きかったんだと思う……

僕はそれを拾い上げ、倒れた青鬼さんと小鬼に近寄る。


青鬼さんとの最後の約束……果たさないと……

僕は力なく笑って、言う。


「青鬼さん……ほら……倒せましたよ……」


拾い上げた禍々しいクリスタルを抱えて言う。


「小鬼……も……ほら……」


泣いている場合じゃない!!笑うんだ!!


「2人の……うぅっ……お陰だよ……グズッ」


そして僕は、ネックレスのペンダントを握る。


「絶対に……絶対に大事にするからね……」


青鬼さんに向かっての言葉……

すると、ペンダントが光りだした。


「……えっ……?」


それにつられるように、青鬼さんと小鬼の体が光になる。

そして、僕の周りをくるくると回って……


「勇助、今までありがとう」


小鬼の声がした。


「勇助なら、大丈夫じゃ……強くなるんじゃぞ」


そして、青鬼さんの声……


「うっ……うぅ……」


……だから……泣いちゃだめだって……僕……!


くるくるしていた光は、やがて僕から離れて天に向かって登り出した。

僕は、笑顔というのには涙はいらないのかもしれないけど……笑顔で見届ける。

……それが、青鬼さんの願いだったから。



青鬼さん、小鬼。



僕、強くなるよ。







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