第14話

 翌日から、クラス対抗戦に向けて裏山で特訓を開始した。


 といっても、ダンジョンの閉鎖が続いているため、もっぱら素振りや基礎体力作りのためのトレーニングが主になのだが。


『……お前、バカだろ』


 のっけから失礼なことを言ってのけるベリアル。


 まったく……。


 <超重領域>の出力を10倍にして筋トレしているだけだというのに……


『んな負荷かけて筋トレするやつがあるか。すぐにバテるぞ』


「だからだろ」


 レティシアとの戦いでは、とっさに<超重領域>の出力を10倍にしたものの、機敏な動きができず単調になってしまった。


 その結果、“影の手”を避けられず不要なダメージを負い、最後には賭けに出ざるをえなかった。


「超超重力の中でも自由に動けるようになれば、それだけで戦略の幅が広がるだろ」


『……わかってても普通やるか、こんな鍛え方』


 そうは言われても、現状これくらいしか超超重力に適応する方法が思いつかない。


 と、ひたすらトレーニングしていると、どこからか声が聞こえてきた。


 これは……アランとセレスティアの話し声だ。


「ほらアラン、どこからでもかかってらっしゃい」


「……ダメだ。俺にはできないよ」


「もう……それじゃあ訓練にならないじゃない!」


「訓練ってわかっていても、セレスティアに剣は向けられないよ」


「もう……アランったら……」


 ……なに乳繰り合ってるんだ、こいつらは。


 その場を離れようとするも、小枝を踏みつけた音が辺りに響いた。


 やばい、見つかったか……?


「あれは……エイルじゃないか」


 二人に見つかり、俺は観念したようにその場に立ち尽くした。


「よ、よう……」


「聞いたぞ。エイルもクラス対抗戦に出るんだってな」


 その口ぶりから察するに、やはりアランも出るのか。


「……忠告ってわけじゃないけどさ。辞めるなら今のうちだと思うぞ」


「……は?」


 何を言ってるんだ、コイツは。


「ほら、前の決闘で俺に負けて、いろいろ大変だっただろ。実家を勘当されて、Fクラスに編入して……。今度負けたら、いよいよ後がないだろ」


 何を言ってるんだ。


 後がないもなにも、俺はすでに多くを失ったんだ。


 いまさら我が身可愛さに降りるわけがないだろう。


「アラン。この際だからハッキリ言っておく。俺は勝つために出るんだ。相手が誰でも負けるつもりはない」


「エイル……」


 呆気にとられるアランとセレスティアを置いて、その場を離れる。


 しばらく間をとると、ベリアルが口を開いた。


『よく言った。それでこそオレ様を使う人間だ』


「なんだよ。俺のこと認めてくれたのか?」


『ハッ、誰が……。オレ様を使おうって人間が無様なマネしたら、たとえお前でも見限るからな』


「……それって、多少なりとも認めてくれてるってことだろ」


『バカか』


 否定するベリアルだったが、不思議と悪意は感じない。


 むしろこの距離感が心地いいとさえ思ってしまうのだった。

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負けイベですべてを失ったゲーム悪役は、闇落ちフラグを全力でへし折ります 田島はる @ABLE83517V

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