第12話 タコさんウインナー

 翌日、学園ではダンジョン崩落の話題で持ち切りだった。


「なあ、知ってるか? ダンジョンの床が崩れたって話……」


「第15層の床が抜けて、下のフロアと吹き抜けになってたって聞いたぜ」


「妙だよなぁ、15層に床を抜けるほど強いモンスターはいないし……」


 Fクラスでもダンジョン崩落の話題で持ち切りになる中、事件の当事者であるレティシアはといえば平然と教科書を出していた。


「……おい、結構な騒ぎになってるぞ」


「そうね」


「そうねって……そもそもレティシアがダンジョンで襲いかかったからだろ……」


「あなたが大衆の面前で魔剣を使うのをよしとしないから、合わせてあげたんじゃない」


 つまり、あれはレティシアなりの配慮だった、と。


 そうはいっても、俺たちがダンジョンに大穴を開けたという事実に変わりはない。


「どうしよう……名乗り出た方がいいのかな」


「なんて説明するつもり? 魔剣使い同士で戦っていたら崩落してしまいました、なんてバカ正直話すつもり?」


「それは……」


 できるわけがない。


 そもそも、魔剣を所持していることを公表するのすら危ないのだ。


 それなのに学校に公表するだなんて、自滅しにいくようなものだ。


「……………………」


「賢明ね」


 レティシアがクスリと笑みをこぼす。


 面倒なやつに弱みを握られ……いや、弱みを押し付けられたなぁ。


 そんなことを考えていると、リズが俺に駆け寄ってきた。


「あっ、エイルくん」


「リズ」


 亜麻色の髪を弄り、少々恥ずかしそうに頬を赤らめる。


「あのね、私今日お弁当なんだけど、一緒にお昼どうかな?」


「もちろん大丈夫だよ」


 中庭で昼食を食べるのはは居心地が悪いのでどうしたものかと思ったが、リズと一緒なら話は別だ。


 俺は上機嫌で昼まで待つのだった。



 ◇



 昼。中庭までやってくると、俺とリズはそれぞれ弁当を広げた。


 リズの弁当を覗き込むと、タコさんウインナーやウサギ型にカットしたリンゴが入っており、女の子らしく見た目にもこだわっているのが伝わる。


「おお、美味しそうだなぁ」


「えへへ。まだ勉強中だけどね。エイルくんのも美味しそう」


 俺の弁当はレイチェルが作ってくれたもので、具沢山のサンドイッチと果物が入っており、栄養バランスを気遣ってくれているものだ。


 と、ふと気になったことを尋ねてみた。


「そういえば、なんで俺だったんだ? 他にもクラスメイトはいたのに……」


 俺以外にも弁当組はいたはずだが、リズが指名したのはなぜか俺だった。


 先日一緒に弁当を食べたからだと言えばそれまでなのだが、朝のリズを見るにそれだけではないような気がした。


 ふはふはと呼吸を整え、やがて何かを決心したようにリズが顔を上げた。


「実はね、エイルくんに大事な話があるの」


「だ、大事な話……?」


 な、なんだろう、大事な話って……。


 まさか、告白……!?


 密かに期待する俺に、リズの口から出た言葉は……


「来月のクラス対抗戦、エイルくんに出てもらえないかなって」


 あ、告白ではないのね。


 いや、当然と言えば当然なのだが、期待してしまった自分がちょっと恥ずかしい。


「でも、いいのか? 俺で」


 エイルといえば、先日の決闘でアランに負けた身。


 その俺にクラスの代表を頼むのか?


「レティシアさんとの模擬戦見てたよ。あのレティシアさん相手に互角で戦うなんて、なかなかできることじゃないよ」


「それは……」


 魔剣の力を使っていなかったとはいえ、あの時はお互いに全力を出していなかった。


 力量を測る小競り合いのようなものだっただけに、その時の実力で測られるとなんとももどかしい気分になる。


「っていうか、そういうことならレティシアに頼むのが筋じゃないか?」


「うーん、そうなんだけど、レティシアさんって近寄りがたい雰囲気があるから……」


 痛いところを突かれたようで、リズが苦笑する。


 ともあれ、リズが俺を頼ってくれたという事実が嬉しい。


「わかった。俺で良ければ、出させてもらうよ」


 快諾すると、リズが顔を綻ばせた。


「ありがとう。それじゃあ、お礼といってはなんだけど、このタコさんウインナーをあげちゃいます」


 冗談めかした口調で、俺のサンドイッチの上にタコさんウインナーを乗せる。


 こういうやりとり、なんだか青春っぽいなぁ……。


 そんなことを考えながら、リズにもらったタコさんウインナーに舌鼓をうつのだった。

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