第26話 キングトレント討伐⑤
キングトレントの事件が解決したと思った二日後のことだった。
俺たちは、フルールさんに呼ばれ、新緑の森にやって来た。
新緑の森に足を踏み入れた瞬間だった、木に紛れていたトレントたちが一斉に襲い掛かってきた。
「なんだなんだ!? なんで、こんな大量にいるんだ!?」
「あきくん、取り敢えず逃げよっ!!」
「そうだな!」
今の俺たちにトレントをまともに倒すことはできない。とにかく、なんとかトレントたちをまき、茂みに隠れた。
「なんで、突然またこんなにトレントが……」
「もしかして、キングトレントが」
「そんなバカな。あいつは、もう森は襲わないって……確かめに行こう」
周りにトレントがいないか確かめてから、茂みから出ると、俺たちの行く手を阻むように木の葉が吹き荒れた。
こんな芸当ができるのは、この森に一人しかいない――フルールさんだ。
「お待ちください」
「フルールさん! なんで、止めるんですか!」
「今、キングトレントの元に行くのは危険です。あそこには、今、大量のトレントがキングトレントを守るように集まっており、以前よりと狂暴化しております」
「それでも、俺はキングトレントに会いに行かないといけないんです!」
「止めても無駄そうですね。分かりました。ですが、本当に気を付けてください」
「分かりました。ありがとうございます」
俺たちは、キングトレントに会いに行った。道中、トレントたちが襲い掛かってきたが、フルールさんが足止めをしてくれた。
「私が道を作ります。お二人はひたすらキングトレントの元に向かってください」
「分かりました!」
「森よ私に力を貸してください――鶴縄」
木から伸びたツルがウネウネと動き出し、トレントに絡みつき動きを封じる。
「キングトレント、今行くからな」
♡ ♡ ♡
「ヴォォォヴヴッッッ!!!!」
「キングトレント!!」
「ヴォォォ?」
フルールさんの手助けもあり、なんとかキングトレントの元に辿り着いた。
キングトレントの周りには、フルールさんが言っていた通り、大量のトレントたちが彷徨いていた。
「なんで、お前、また森を襲っているんだよ!」
「ヴォォォヴヴ!!」
「あきくん! 危ない! ラブルーム!!」
キングトレントの鋭利な枝を寸前の所でラブルームで止めたが、バキッとラブルームにヒビが入った。
「ラブルームにヒビが!?」
「これ、何回も受け止めれないかも知れない」
「そうだな、一回引くか」
「あきくん、それはちょっと難しいかも」
気付けば、俺たちはトレントに囲まれていた。
トレントたちは、ラブルームを突き、割ろうとしている。
「マズイな。ミディアムトレントやレッサートレントならまだしも、またキングトレントが攻撃してきたら、終わりだぞ」
「どうする?」
「この数を相手にするのは、分が悪い」
どうする? どうしたら、この状況から脱出できる。
「ヴォォ……ォォォ……オ゛マ゛エ゛」
「キングトレント!? 俺がわかるのか!」
「厶゛ズ ガ ジ グ……ガ ン エ゛ル゛ナ゛――ヴォォォヴヴッッッ!!」
「わかった、ありがとうキングトレント」
最後の理性を使って、キングトレントは、最後まで俺に教えてくれた。
やっぱり、あいつは、悪い奴じゃなかったんだ。やはり、裏で糸を引いている奴がいる。
そうじゃなければ、キングトレントが暴れる訳がない。
「お前は苦しんでいたんだな。だったら、その苦しみ、俺が奪い取ってやるよ」
「あきくん?」
「優奈、ちゃんと見とけよ。お前の彼氏のカッコいい姿」
「ふふ、あきくんは何時でもカッコいいよ。でも、分かった。ちゃんと見てるね、あききんのカッコいい姿」
「ああ」
こういうとき、俺の彼女は、俺を止めない。なぜなら、信じてくれているからだ。
ほんと、つくづく思うよ、俺には勿体ないぐらいの彼女だと。
俺だけ、ラブルーム内から出ると、ラブルームを囲っていたトレントたちは、一斉に俺に
「お前らに見せてやるよ、“鬼“の力を。魔力操作――」
襲い掛かって来るトレントにタッチしていく。すると、タッチされたトレントたちは次々動きを停止させる。
「奪い尽くせ――百鬼夜行」
トレントたちは枯れていき、萎れていく。しかし、まだトレントたちは倒れない。
俺がしたのは、与えるではなく吸い取るだ。
栄養が足りなくなったトレントたちは、森から足りなくなった栄養を吸収しようとする。
「させねーよ。そんなに栄養が欲しいなら返してやるよ……炎にしてな。灰にしてやるよ――
多く魔力が込められた魔術は稀に進化する――俺の火は炎へ進化し、耐久性、防火性が弱まったトレントたちは、キャンプファイヤーの如く燃え上がり灰となり風に飛んでいく。
「ヴォォォヴヴ!!」
「今、楽にしてやるから、キングトレント。束縛を、苦しみを、喰らい尽くせ――悪食」
キングトレントから魔力を吸収していく。正直、キングトレントが、どれほど魔力を溜め込んでいるのか分からない。
それに、仮に大量に魔力を溜め込んでいたとして、それを俺が全て吸いきれるかも、体が持つかも分からない。
だけど、なんとなくだが、こいつに魔力を与えてはいけない気がした。理由は分からない。
だから俺は、こいつから苦しみも魔力も罪も全て吸い取る……いや、奪ってやる。
「ヴォォォ!? ヴォ……ヴォォォオオオ!!」
「なっ!
キングトレントは、魔力を吸い取られていると気付き、数本の細い枝を注射のように俺の腕に刺し、俺から魔力を奪おうとしてくる。
「はんっ、いいぜ。どちらが先に全ての魔力を奪えるか勝負だ!」
師と弟子の勝負。友達との大喧嘩。ライバルとの力比べ。どれが正しいかのか、どれも正しいのかは分からないが、俺は今そんな気分だった。
普段、役に立っているのか分からない『怠惰の心』、今日ほど活躍する場面はねーぞ。だから、しっかり回復させやがれ!
『はぁ〜、ボクのご主人様は無茶苦茶だし、無茶振りだ。ふぁ〜、面倒だけど、命令されちゃ、仕方ないね。ボクが珍しく頑張るだ、勝たないとご主人様の魔力全てボクが貰うからね』
「っ! なんだ、今の声……。前もどこかで……いや、それは後でいい。ちゃんと加護が仕事をしてくれるらしいし、俺の目には勝利しか見えね!」
というか、勝たないと魔力全て奪われるみたいだからな。キングトレントにも奪われ、謎の人物にも奪われたら、乾涸びて死んでしまう。
「ヴォォ……オオッッ……」
「どうやら、そろそろ魔力が尽きるようだな」
「ゥゥゥオォォオ……」
葉が枯れていき、俺の腕に刺している枝が折れていき、樹皮が剥がれていき、根が腐り、禍々しいオーラは消えていく。
「じゃあな、キングトレント。お前と友達になれてよかったぜ」
「オォォ……オ゛デ モ゛――」
最後にキングトレントは、俺に何か渡して、そして、そのまま死んだいった。
その姿はまるで、樹齢何百年も生きた神木のようだった。
魔力最強主人公と魔術最強ヒロインのファンタジーな日常 〜〜ヒロインの彼女が主人公の俺より強いんだが〜〜 冬雪樹 @fuyuki_yuki
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