第25話 キングトレント討伐④
翌日、昨日夜中まで森にいたせいで、起きたら昼になっていた。久しぶりに夜更かしをした。
「ふぁ〜、おはよ〜」
「おはよー」
「アキラさん、ユウナさんおはようございます! 今日は少し遅めですね?」
「ああ、昨日ちょっと夜遅くまで出掛けてて」
「そうなんですか? 夜遅くなったら、お腹も空くでしょうし、言ってくだされば、夜食用意しますよ?」
「流石にそこまでしてくれないくていいよ。それに、多分帰ってきたらすぐ寝るし、食べる暇ないと思う」
「そうですか。けど、あまり夜更かしのし過ぎは体に悪いですよ」
「うん、わかった」
レイラちゃんが用意してくれたら、昼食を取り、軽く支度を整える。
「あれ? そういえば、レーク君は?」
「レークでしたら、お父さんのお手伝いに行っていますよ。レークに何か用事があったんですか?」
「いや、いないなと思っただけ」
お父さんの手伝いと言うことは、お父さんはお父さんで、別の仕事をしているのだろうか?
そういえば、ずっと宿に世話になっているけど、お父さんというか、二人の親の顔みたことないな。
何か訳ありだったりしたら、何だから、聞かないようにしていたけど。
ま、会うことがあれば、挨拶でもすればいいだろう。
「よし、準備もできたし、行くか」
「うん!」
「お出掛けですか?」
「出掛けるというか、今受けているクエストをしに行く感じ?」
「そうなんですか。気を付けてくださいね、行ってらっしゃいませ」
「うん、行ってきます」
「行ってくるね」
夜のことをフルールさんに報告するべく、新緑の森に向かった。
新緑の森に着くと、早速フルールさんが現れた。なぜ、毎回俺たちが来たのが分かるのか不思議だ。
「おはようございます、アキラさん、ユウナさん」
「おはようございます、フルールさん」
「昨日、また夜、森に来ていたようですが、どうかされました?」
夜に森に来ることは言っていないのに、ほんとなぜ分かるんだ。
「キングトレントがどうやってトレントを生み出すが見てみようと思って」
「そうですか。見れました?」
「えっと……あ……」
そういや、見ていない。キングトレントが話せることに驚いて、すっかり目的を忘れていた。
「ん? どうかしました?」
「いや、それが――」
俺は昨日のキングトレントのことを話した。
「稀に人語を話す魔物はいますが、まさかキングトレントもその部類に入るとは。にわかには信じたい話ですね」
「信じられないかもしれませんが、話したんですよ。な、優奈」
「うん。カタコトぽかったけど、話していたよ」
「驚きですね。それで、何を話したんですか?」
「森を襲う理由ですね」
「……キングトレントはなんと?」
「なんか、誰かに言われてやっていると。まあ、その誰かは、分からないみたいですけど」
「なるほど……。命令され、森を襲っていたと。その犯人さえ、分かればどうにかなりそうですね」
「ええ。あ、それと、キングトレントに森をもう襲わないでくれと言ったら、襲わないとも言っていましたよ」
「そうなんですか? あのキングトレントが?」
「はい。代わりに俺の魔力をあげる条件ですけど」
「では、一先ずは安心と?」
「たぶん、そうなりますね」
「分かりました。本来なら、森の管理者である私が解決しないといけない事なのに、すみません」
「いえいえ、気にしないでください。俺たちは依頼をこなしただけですので」
「本当にありがとうございました。では、あとはこちらでキングトレントやトレントたちの様子を伺い、何かあればまたギルドを通した連絡しますね」
「はい!」
ということで、今回のキングトレント事件は、解決した……かのように思えたが、そう甘くはなかった。
俺たちの本当の敵は、影からトレントたちを操る謎の人物だったのだ。
♡ ♡ ♡
その日の夜。俺は、また森に来ていた。理由は、キングトレントにあることを聞くためだ。
「よっ!」
「
「ああ、来たぜ。ちょっと、聞きたいことがあってな」
「
「お前ってさ、魔力を吸収したり、他のトレントに分けたりできるよな?」
「
「あれって、どうやってやっているんだ?」
キングトレントがしているのは、魔力操作なのかは分からないが、それに近いものだと俺は目を付け、何か魔力操作を修得するヒントにならないかと、聞きに来たのだ。
本来は倒すべきはずの相手なのに、そんな相手からヒントを得ようとしている。人生何が起こるか分かったもんじゃない。
「
「そう、やり方。俺も同じようなことをしたいんだけど、上手くできなくてな」
「
「やっぱ、俺が魔力を持っているの分かるのか」
「
フルールさんが言っていたな。精霊や魔物は魔力に敏感だと。
人間の俺にはよく分からない感覚だけど。
ここからは、キングトレントの言葉を翻訳して、話を進める。決して、濁点を付けたり、ルビが面倒になってきたわけではない。
「マ゛リョ゛グ ノ゛――魔力の受け渡しは難しく考えなくていい」
「どういうことだ?」
「人間は魔力に鈍い。だから、無理に魔力を扱うとしても、大抵の人間は扱えない。道具とかは別だが。
魔術を使わず、魔力だけを操ろうすれば、それ相応の魔力量が必要になる」
「俺ぐらいか?」
「お前ぐらいあれば、十分だ。しかし、それはあくまで条件みたいなものだ。魔力を扱うとなれば、話は別だ」
「じゃ、その条件をクリアした後はどうするんだ?」
「魔術に必要以上に魔力を込める」
「必要以上に?」
俺は、魔力が多く、減ってもすぐに回復するため、魔術にどれだけ魔力を使ったのか分からない。
「魔術は、何もしなければ必要な分だけ魔力を使い発動する。しかし、それでは通常の威力しか出ない。
だが、必要以上に魔力を込めれば、その分威力は上がり、稀に魔術は進化する」
「魔術が進化するのか」
じゃ、もし、優奈がもっと魔力を体内に溜めることができ、それを使ってラブフレイムなどを撃てば、ただでさえ威力が強いあれも、もっと強くなるのか。そして、進化する可能性がある。
ということは、俺が魔力操作を修得し、優奈に自由自在に魔力を分け与えることができれば、もっと強い敵さえも倒せるかも知れない。それこそ、キングトレントとか。あくまで、魔力回路が壊れない程度にだが。
まあ、せっかく友好的になったし、倒さないけどさ。
「魔術に魔力を込めるか」
「そうだ。試しにやってみろ」
「わかった」
両手を近くの木に向け、
木にぶつかりバシャッと弾け、水溜りができる。
「どうだ?」
「違う。それでは、通常の魔力しか込められない。溜めるんだ」
「溜めるんだ、と言われてもなぁ」
「見ていろ。魔力を操ることができれば、こんな細い枝でも木に穴を空けることができる」
そう言って、キングトレントは、自分の枝を木に向け、刺した。
すると、枝は貫通し、木に小さな空洞ができた。
「マジか。なんで、そんな細い枝で木に穴なんて」
「これが、魔力の力だ。けど、これはもう一段階上の技だ」
「なんだよ!! じゃあ、見せるなよ!」
「いずれ、お前もこれができるという話だ」
「結局、魔力のコントロールかよ」
「まずは、魔術の維持だ。手から離さず、魔力を込めろ」
「わかった」
手の前で水球を構築していき、それを維持する。が、上手くいかず、水球は飛んでいくことなく、重力に従って足元に落ちて弾ける。。
「無理だ」
「魔術と手を魔力で繋ぐんだ。そうされば、維持できる」
「う〜ん……」
言われた通り、魔力で魔術と手を繋ぐイメージをする。
掌の前に水球を作り、そこに魔力を流し、維持する。イメージは、磁石だ。魔力がS極で魔術がN極だ。
「お……おお!! 出来てる!!」
「いい感じだ」
魔力が込められた水球は大きくなっていき、バランスボール程のサイズになった。
「え!? ちょ、大きくなりすぎ! な、なあ! これどうしたらいいんだ!?」
「魔力を込めたら、あとは通常と同じだ」
「いやいや、通常と同じだと言われても、ここまで大きくなったら、どうやって……うわっ!」
水球は、俺の真上で弾け、俺はずぶ濡れになった。
「クシュンっ。夜風が寒い」
「いい感じだったぞ」
「ほんとかよ。俺、海にでも入ったのかって言うぐらい、ずぶ濡れだぞ」
「あとは、それを魔術以外に流せるようになり、奪うこともできれば、魔術のコントロールは完璧だ」
「そうか。なんか、ちょっとは魔力のことがわかった気がするよありがとう」
「そろそろ、夜が明ける。お前は帰るといい」
「そうだな、じゃあ、また明日……いや、後でかな? じゃあな」
ずぶ濡れになりながら、帰ろとしたら、キングトレントが呼び止めた。
「もし、オレがまた森を襲うようになったら、お前どうする?」
「なんだよ、急に。そうだな、何か訳ありなら話を聞くし、それ以外なら、せっかく仲良くなれて、残念だけど、多分討伐する。仮に俺がしなくても、そのうち誰かがお前を討伐すると思う」
「そうか。なら、安心だ」
「? なんだよ、もしかして、また森を襲う気か?」
「約束は守る。オレも、お前と仲良くなれて、嬉しい」
「お、おう、そうか。なんか、照れるな。はは、じゃあな!」
「ああ」
この時、俺は思いもしなかった。また、キングトレントが森を襲うなんて。そして、こうして、話すのもこれが最後になるなんて。
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