第24話 キングトレント討伐③
「改めて、キングトレント及びトレントたち討伐作戦の話をしますが、現状アキラさんの方はどうですか? 魔力操作に関して」
「正直、できるような気はしません。どうしても、魔力を感じ取るのが難しくて」
「確かに、精霊や魔物などと違って、人間は少し魔力に鈍感な所がありますからね。昨日今日でできるものじゃないですね」
「精霊や魔物は、魔力に敏感なんですか?」
「そうですね。一部の魔物にも血は通っていますが、殆どは魔力や魔素で体が構築されているので、敏感ですね。精霊も同じく、魔力で体を構築しているので、敏感です」
「なるほど。そう言えば、フルールさんが俺に流した魔力も魔力操作を使ったものなんですか?」
「ええ、そうですよ」
「だったら、フルールさんではあのキングトレントを倒すことはできないんですか?」
「殆どの魔力は、体の形を維持するために使っているので、キングトレントとなると、半分以上の魔力を消費することになるので、回復するまではこちらの世界に来れなくなりますね」
こちらの世界というのは、よく分からないが、フルールさんの魔力でもキングトレントを倒せないのは分かった。
やはり、俺がどうにかして、魔力操作を取得しないとダメそうだ。まあ、どうにかなるなら、こんなに困ってはいないのだが。
「魔力操作か……」
魔力の鬼は魔力が多くなるだけで、怠惰の心は魔力の回復が早くなるだけ。
別に魔力を使ってどうこうできるわけではなさそう。
優奈は、加護の力で俺から魔力を吸収しているんだよな。
それでも、魔力を吸収する方法によって、吸収する量は変わる。
異世界に来た頃、優奈と色々試して、魔力は体液に含まれていることが分かった。それを、改めてフルールさんに訪ねてみた。
「そうですね。純粋な魔力を直接吸収する方法もあれば、血などと一緒に魔力を吸収する方法もあるので、少なからず体液にも魔力は混ざっていますね」
「そうですか、ありがとうございます」
体液に含まれているなら、俺の血なり唾液なりをトレントに掛けても、いや、そうか、自分で吸収する量を調節できるから意味ないか。
口に入れるとしても、閉じられたらそれまでだからな。
敵を倒すには敵を知る必要があると思い、俺は一人でキングトレントを見に行った。
♡ ♡ ♡
茂みに隠れながら、キングトレントやその周辺のトレントたちを観察する。
やはり、いつ見てもキングトレントはデカい。改めて見ると、本当にあんなの倒せるのかと思い始めてきた。
ノコギリでもチェーンソーでも切れず、神話に出てくるような武器でしか切れなさそうなあの化け物巨木をどうしろうと。
「でも、放置したらこの森が死んで、いずれトレントは次の栄養を求めて森から出て、通り掛かった人を襲ったり、街になんかに入っていたらそれこそ死者が出る可能性もあるよな」
はぁー、どうしたものかぁー。
そういや、あのキングトレント、トレントを生み出すってフルールさん最初に言っていたな。
どうやって、トレントなんて生み出すんだ? 種か? 苗か?
翌日、フルールさんに増える方法を尋ねた。
「キングトレントがトレントを生み出す方法ですか?」
「はい、最初にフルールさん言っていたなと思い出して」
この森に増えすぎたトレントの原因は、キングトレントが生み出しているからだ。
しかし、俺は実際にその光景を見たことがない。
「キングトレントがトレントを生み出すのは、主に夜ですね」
「夜? 朝とかじゃないんですね」
日光とか、光合成とか関係ないのだろうか?
植物といえば、太陽ってイメージがあるけど、トレントはあまり関係ないのか?
「そうですね、関係ないことはないですが、私もキングトレントの生態にはまだ詳しくは分かっていないんです。すみません、力になれなくて」
「いえいえ! 少し気になってだけなのに、気にしないで下さい!」
一度宿に帰り、また夜に森にやって来た。
夜の森は、月の光は木の葉で塞がれ、光が入ってこず、闇そのものだった。
「昨日も思ったけど、夜の森って暗いし、少し怖いな」
「真っ暗だね」
「別に優奈は、ついてこなくてもよかったんだぞ? 眠いだろ?」
「あきくんが頑張っているのに、寝ていられないよ」
「そっか」
トレントたちは、寝ているのか、昼間のように襲ってくることもなく、虚飾の心に特に反応はなかった。それはそれで、好都合だ。
俺たちは、見えづらい足元に気を付けつつ、キングトレントがいる場所に向かった。
「いた。あれ? 周りにトレントはいないな」
「本当だね。なんでだろ?」
キングトレントは、目を瞑り、静かに葉を揺らし、寝ている様子だった。
「寝て……いる? え、植物って寝るの?」
「ううん、植物は夜、光合成はしないけど、呼吸していて、確か寝ないよ」
「流石、相変わらず頭いいな」
「えへへ。あきくんに勉強教えられるように頑張っているからね」
「その節は助かっています……って、今はいいんだよ」
優奈の言う通り、植物は寝ないと言うなら、トレントも同じなんだろうか? 基本は普通の植物と同じとフルールさんは言っていたが、あれはただ目を瞑っているだけなのか、それとも夜風を涼んでいるのか? 後者なら、風流過ぎるけど。
「ヴゥゥゥゥォォオオオッッッ」
突然、キングトレントは目を開け、地中から根を出し、空に向かった根を伸ばした。まるで、月を掴もうとしているみたいだった。
「何してんだ?」
「わかんない」
「ヴゥゥウォォオオオ……オオッッッ? ヴゥぅヲヲヲ!」
不意にキングトレントは、こちらを見て、空に向かって伸ばしていた根をこちらに向けた。
「マズイ! バレたっ! 逃げるぞ!」
「うん!」
「オォォォォッッ!!」
「マズイ、追い付かれ……うわっ!」
「あきくん! あきくんを離せっ! ラスサンダーっ!!」
根に捕まってしまい、優奈が根に向かってラスサンダーを撃つが、根の表面が少し焦げた程度で、折れることもなく、そのまま俺はキングトレントの目の前まで連れて来られた。
「俺を食べても美味しくないぞ?」
魔力という名の栄養はたっぷりだけど。
「
「え? 俺が何者? っていうか、お前話せんの!?」
確かフルールさん、キングトレントは知力が高いって言っていけど、まさか話せるほど高いとは。
「どういうことだ? 俺が何者かって? 俺は普通の人間だぞ?」
まあ、魔力は少し人より多いらしいけど。
「?
「お前と同じ……芸する!? どいうこと!? お前、芸もできんの!?」
「あきくん、多分芸じゃなくて気配だと思うよ……というより、早くあきくんを返せ! じゃないと、この森燃やしちゃうよ!」
それは辞めろ。キングトレントより先に森を殺す気か!
「
そういうと、キングトレントは、大人しく俺を解放した。
キングトレントがよく分からなくなってきた。森を襲う悪いやつかと思えば、俺を捕まえて食うなり何かするかと思えば、ただ話すだけで、離せと言えば大人しく離した。
実は、キングトレントは悪いやつじゃない? いやでも、油断させて襲うって可能性もあるしな。
「なあ、お前は悪いやつなのか?」
「
「分からないって……。あ、じゃあ、なんで森を襲うんだ?」
「……
「言われた? 誰に?」
「……
「一番肝心なところで」
けど、キングトレントは、自ら森を襲おっと思って襲っているわけではなく、誰かに命令され、襲っているらしいな。
その犯人が誰か判明すれば、この事件も解決できそうなのに。
「なあ、キングトレント、この森を襲うのを止めてくれることできなかい?」
「?
「なぜと聞かれたら、森が困っているから?」
「
「そう、森が困る。栄養が無くなって、どんどん森は元気をなくしていって、緑生い茂る茂みも木もなくなり、キレイな花も、便利な薬草も咲かなくなる。そうなれば、俺たちも困る」
「……
「そうだよな、止めると言って止めてくれたらどれだけ……え? 今なんて?」
「
「マジ? 本当か!?」
「
「そうかそうか、ありがとう。そうだよな、森から栄養を吸収していたから、それを止めたら食べるものがなくなるもんな。よし! わかった! 本当に森を襲うのを止めてくれるなら、俺の魔力を分けてやる! それなら、いいか?」
「
「よし、交渉成立だ。んじゃ、これからは、共存していこうぜ!」
なんと、あんなに頭を抱えていたキングトレントの討伐方法が、話し合いで解決してしまった。
もしかしたら、全ての魔物が悪いやつとは限らないのかも知れない。
人間にも良い人悪い人がいるように、魔物にも良い魔物悪い魔物がいるのかもな。
「すごいよあきくん! 話し合いで、問題を解決しちゃうなんて!」
「意外と話せば分かるものだな。早速、明日、フルールさんに報告しないとな」
♡ ♡ ♡
「報告――キングトレントが裏切りました」
『そうか、わかった。あとはこちらで対処する。■■は、そのまま“奴ら”の監視をしろ』
「了解しました」
まさか、あのキングトレントを口だけで言うことを聞かせるとは、これは、奴の中に眠る力が目覚め掛けているということ?
何にせよ、こちらはこちらの仕事を全うするのみ。
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