第23話 キングトレント討伐②
翌日、新緑の森にやって来ると、またトレントたちが木に偽装して待ち構えていた。
「倒し方は昨日と同じでいいよな」
「うん、いいよ。じゃあ、いくよ。ラブフレイム」
火が着いたトレントは火を消そうと地面から根を出し動き回る。そこに、俺が根に触れると、俺から魔力を過剰に吸収し、枯れていく。
「けど、これじゃあのキングトレントは倒せないんだよな。魔力操作……」
「あきくんなら、きっとできるよ!」
「ありがとう。そうだな、時間はまだあるって言っていたし、いつかできるように……」
なるだろうと言い終わる前に、俺たちの目の前に木の葉が渦巻き、そこからフルールさんが現れた。登場の仕方がカッコいいと思った。
「あ、フルールさん、おはようございます」
「おはようございまーす」
「おはようございます、アキラさん、ユウナさん。と、呑気に挨拶をしている場合ではありませんでした」
「? そんな慌ててどうかしました?」
「すみません、アキラさん。昨日、まだ時間はあると言いましたが、どうやらあまりゆっくりしていられなくなりそうです」
「え!? それって、どういう……もしかして、キングトレントですか!!」
「キングトレントもそうですが、一部の他のトレントたちに異変が起き、森の緑が奪われようとしています」
詳しいことは説明するより実際に見たほうが早いだろうと、フルールさんが言う異変が起きたトレントを見に行くことにした。
そのトレントたちが、主にいるのはあのキングトレントの周りだ。
「見て下さい、あれが例のトレントです」
「なんか、少しデカくなった? それに、なんか色黒いような?」
「ええ、そうなんです。一晩で、あの周辺にいたトレントたちは、急な成長をし……進化したのです」
「進化!? どうして、また、突然進化なんて」
「最初、私も見たときは驚きましたが、観察していると、原因が判明しました。原因は、あのキングトレントなんです」
「キングトレントがトレントたちを進化させているってことですか?」
「本人にその自覚があるのか分かりませんが、形的にはそうなります」
あのトレントたちに気付かれたら危険だと、一先ずフルールさんの家に避難することに。そこで、さらに詳しい話を聞いた。
「キングトレントは、一本の根を何本にも枝分かれさせ、それを近くのトレントたちの根と繋げているんです。そして、根を通して自分の溜め込んだ魔力をトレントたちに送り込み、どういった条件かは分かりませんが、トレントたちは進化していったのです。あえて、それに名を付けるとすれば、元のトレントは『レッサートレント』。そして、進化したトレントは『ミディアムトレント』です」
「その上が『キングトレント』になると」
「はい、そうです」
「でも、そのミディアムトレントも根にさえ触れれば勝手に俺の魔力を吸収して枯れていくのでは?」
「いえ、それが厄介なことに、あのミディアムトレントはキングトレントの『吸収』する力を引き継ぎ、吸収する量をコントロールできるようになっているのです」
「つまり、余計に魔力操作が必要になってくると」
「急かすようですが、そういうことになります」
これは、面倒なことになった。
昨日までなら、キングトレントのことは後回しにし、増えすぎたトレントたちを倒せばよかったが、今は、キングトレントを放置できなくなった。
放置すれば、ミディアムトレントがどんどん増えていき、俺たちが倒せる範囲を大きく超えていき、いずれ手も足も出せなくなる。
魔力操作――一体、どうすればできるようになるんだ。
昨日、フルールさんから流れてきた魔力は感じることはできたが、自分の中に流れる魔力は未だに感知することできていない。
「どうすれば……」
「私を通して、トレントに送る?」
「どいうことだ?」
「えっとね、私が何かあきくんから魔力を吸収するような魔術を創作して、そして吸収した魔力をトレントに流すの」
「なるほどな。最悪それがいいかもな。でも、そうなると、困るのは優奈なんじゃないのか?」
「うん……。でも、何時までも我儘は言っていられないから、いい」
「……優奈」
正直、優奈からそんな提案が出たのは驚きだ。なぜなら、何度も言っているように、優奈は魔力を口実に俺にキスやらなんやらを迫ってくる。
しかし、今回もし優奈の提案を採用したら、その口実がなることになる。別にキスぐらいなら、何時でも(人がおらず、二人きりの時なら)するけど。
優奈がそんな提案をしてくるぐらいだ。もしかしたら、今回は俺が思っている以上にヤバい状況なのかも知れない。
「もしアキラさんが魔力操作の取得に間に合わなければ、確かにそういう手段もあります」
「でしたら、そういう作戦でいきますか?」
「そうですね。ミディアムトレントならその作戦でもいけますが、キングトレントとなると少し難しい……いえ、危険かも知れませんね」
「あんなにトレントがいたら、近付くのも危険ですよね」
「それもそうなんですが、私が言うのはユウナさんの魔力回路の方です」
「魔力回路?」
魔力回路とは、身体の中にある魔力が流れる血管みたいものだ。
魔術などは、それを通して魔力を魔術に込めるらしい。
「ユウナさんとアキラさんがやろうとしているのは、お互いの魔力回路を一時的に繋げ、魔力の受け渡しする方法です。
魔力回路は、繊細なもので、元々の体内魔力量が少ない人が、何度も多量の魔力を流し込んだり、無茶な魔力の使い方をすると、壊れる可能性があります。
そして、一度壊れた魔力回路を修復するのはとても難しく、一生治らないと考えてもいいぐらいです」
「ということは、もし魔力回路が壊れでもしたら、一生魔術を使えなくなるということですか?」
「魔術に限らず、魔力を利用するモノ全てが使えなくなります」
もしそうなれば、せっかくの優奈のチート魔術『魔術創作』も使えなくなってしまう。それどころか、今後まともに魔物などと戦えなくなり、ポーリさんと話していた薬の件も無しになる。
いや、そんなことよりも、優奈に一生の傷を負わせることになる。
「ダメだ! それは、絶対にダメだ! 誰かが犠牲になるような戦いなんて、勝っても何も嬉しくない!」
「アキラさん……」
「あきくん……。大丈夫だよ、もし壊れても
「魔力回路が壊れたら、魔術が使えなくなるのに、どうやって回復魔術を使うんだよ!」
「あ、そっか。そうだね、ごめんね」
「いや、別に怒っているわけじゃ。俺もごめん」
物事が上手く進まず、状況だけが悪化していき、こうしている間にも森から緑が無くなろうとしていることに、俺たちは焦りを感じていた。
「一度落ち着きましょう。こういう時こそ、焦ってはいけません。落ち着き、しっかりと話し合いましょう。猶予がないと言え、一時間や二時間で森が死ぬわけではありません」
「そうですね、すみません」
「いえ、ハーブティーを淹れますね」
「お願いします」
そうだ、フルールさんの言う通り、こういう時こそ落ち着くのだ。
焦っても、事態は良くならない。無駄が多くなるほうが、余計に悪化していく。
フルールさんが淹れてくれたハーブティーを飲み、苛立ちや焦りが少し緩和されたような気がする。
ここから、もう一度、きちんと焦らず冷静に、今の状況を見直し、今ある力を確かめ、キングトレントを倒す糸口を探す。
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