第22話 キングトレント討伐➀
禍々しいオーラを放ち、辺りを萎縮させるような不気味で不吉さを感じさせる大樹。
咲く葉は、どれもギザギザとしており、近づく者、触れようとする者を切ってしまいそうだ。
長く細く、しかしどこかしっかりと芯があるように見える何本もの枝。
“キング”という名に相応しく、地面に太く頑丈な根を絡ませ、そこに堂々と鎮座する姿。
周辺には、その主を守護するかのようにトレントたちが姿を隠すことなく集まっている。
そして、そいつの周辺だけが緑を失い、長い年月存在していた木々は枯れて無惨に倒木となり、咲き誇った草花は枯れて散り、そこだけ砂のない砂漠ような状態だった。
これも全てトレントたちの王――
「あれが、キングトレント。神木みたいにでかいけど、真逆の存在なんですよね」
「仮にあれが神木だとすれば、良くて邪神、悪くて魔神ですね」
「チェーンソーを使っても、チェーンの刃が折れちゃいそう」
「ちぇーんそー? というのは、分かりませんが、キングトレントの樹皮は比較にならない程厚く頑丈です。あれを切れるモノがあるとすれば、神話に出て来る妖刀か神刀ぐらいですよ」
神話に出て来る品物だったら、あれ切れるのかよ、凄いな。
けど、生憎、神話に出て来る品物が存在するのかも分からないし、存在してもどこにそんな武器があるのかも分からない。
つまり、今ある俺たちの力であいつをどうにかするしかない。
「トレントみたいに、あきくんの魔力で倒せないの?」
「確かにそうだな。魔力だけは、自信あるし、いけそうだけどな」
「いえ、それは難しいかと。あのキングトレントは、知力が高めであり、並のトレントからすれば最後の晩餐になりますが、あれの場合は食べても減らない栄養のご馳走になるでしょう」
要するに、キングトレントは、俺を殺さず、生け捕りにし、腹が減れば俺から魔力を吸い取り、腹が満たされれば、他のトレントに回されるか、どこかに捕らえられた状態になる可能性があるらしい。
「こわっ!?」
「それはダメだよ! あきくんは私のなのに!」
別に優奈のものでもないけど。いや、一応彼氏だし、ある意味優奈のものなのか? いや、今はどうでもいいな。
「私も反対ですよ」
「だったら、一体どうやって」
「魔力を使うのは同じですが、方法が違います。キングトレントは、栄養が満たされればそれ以上は摂らない。なぜなら、腐る、枯れる可能性があるからです」
「そうですね」
他のトレントは、キングトレントよりも知力が低いため、自分で栄養を吸収する量を決められず、あったらあった分だけ吸収し、多量に摂取し過ぎて枯れるまたは腐る。
「ならば、無理矢理その栄養を与えてしまえばいいのです」
「無理矢理食べされるということですか?」
「はい、その通りです」
「あきくん、そんなことできるの?」
「いや、できない」
それが出来たら、いちいち優奈とキスして魔力を与える必要がない。
手を通じて必要な分だけ魔力を分け与えられたらどれだけ楽なことか。
それにそれができれば、優奈の大技――
「いえ、アキラさんなら可能です。ただ、今はまだ不可能ですが、『魔力操作』これを取得すれば、可能になります」
「魔力操作……名前からして、魔力を操る魔術ですか?」
「その通りです。この魔術は、魔力を多く持つ者の大半が扱う戦闘魔術です」
戦闘魔術……俺にはなかった魔術だ。いや、一応持ってはいるが、使い物のにはならない。
俺も優奈のように活躍できて、手柄を上げられる可能性があるということか!!
「俺にも扱えるようになりますか?」
「私がお教えになりますよ」
「ホントですか!?」
「はい、お任せください」
というわけで、キングトレント討伐のため、フルールさんから魔力操作について教えてもらえることになった。のだが、これがまた難しかった。
♡ ♡ ♡
「分からん……」
「魔力の流れを掴むのは、やはり少し時間が掛かりそうですね」
あれから、フルールさんに体内に流れる魔力の流れを掴むコツを教えてもらっているのだが、これがまた全然掴めない。
魔力も血と同じように全身に流れている。魔術は、それをエネルギーに変換させ、さらにそこに属性を加えることで魔術となる。
つまりだ。魔力の流れを掴むということは、全身に流れる血を感じるようなものだ。
普通の人間がそんなマネできると思うか? 否、無理だ。
「では、一度、私を通して魔力の流れを感じて見ましょうか?」
「できるんですか?」
「ええ、できます。背中に触れますね」
「むぅ〜」
「優奈拗ねるなよ」
「拗ねてないよ……」
優奈には、この件が済んだら構ってやるとし、フルールさんが俺の背中に触れると、何か薄っすらと背中から感じてきた。
「これは……」
「分かりますか?」
「はい」
「それが、私からアキラさんに流した魔力です。どうですか? これで、少しは感覚掴めそうですか?」
「なんとなく、魔力というものは分かりましたけど、自分の中に流れる魔力がどうかと聞かれると、まだ少し微妙です」
「少しでも魔力に触れられたら十分です。今のところ、まだキングトレントに大きな動きはないので、時間はあると思います。徐々にやっていきましょう」
「はい、分かりました」
今日の魔力操作の特訓は終わり、森にいる増えたトレントを討伐をすることに。
「流石にトレントが増え過ぎると、森の栄養を独占され、木々や草花にまで栄養がいかなくなるので、すみません」
「いえ、普通のトレント討伐も依頼のうちなんで」
優奈のラブアイや俺の虚飾の心で木に紛れるトレントを炙り出し、一度軽く攻撃するとトレントは襲い掛かってき、その時一緒に地面から根も出るため、隙を見てそれに俺が触れ倒す。
「枯らして倒すのはいいけど、これじゃ建築に使えないんじゃ」
「確かにそうだね。枯れた大木を使うわけにもいかないもんね? 他の人はどうやって倒しているんだろ?」
一時トレント討伐を中断し、フルールさんに他のトレントの倒し方を尋ねた。
「そうですね、他の皆さんは、地味に根を切り落とし、唯一の弱点である口を攻撃し、なんとか倒されていますね」
「口が弱点なんですね」
「はい。口を開いた隙に口内に向かって魔術や武器で攻撃すると、芯にダメージを与え、倒せるんですよ。ですが、その芯も固いため、皆さん苦労されていますね。一日三、四体倒せたらいいぐらいですよ」
「ラスサンダーなら一発でいけるかな?」
「いやー、流石に直接生身の腕を口に突っ込むのは危ないと思うぞ? そのまま口を閉じられたら、あの鋭利の歯で切れる可能性もあるし」
「そっか。だったら、ヘビーラブで圧力を掛けて、なんか、こう、縦にパッカーンて割れないかな?」
「そんな、桃太郎に出てくる桃じゃあるまいし」
「う〜ん、
「いやいや、逆に今まで十分過ぎるほどに役に立ってくれていたから、大丈夫だよ。だから、今回は、俺の活躍を見ていてくれ。カッコ良すぎて、惚れ直すなよ?」
ヤバ、なんか流れでカッコつけたけど、滅茶苦茶恥ずかしい!!
「やっぱ、今のな……」
「私の好きは毎日更新されているから、毎日、毎秒あきくんに惚れちゃってるよ♡」
「そ、そうか」
「お熱いですね〜」
「っ!? す、すみません!」
「いえいえ、仲睦まじいのは良いことですよ」
日が沈んでき、俺たちはフルールさんと別れ、街に帰った。
その日の夜――密かに、今まで何も動きがなかったキングトレントに動きがあった。
キングトレントは、地面から一本の根を出し、それを枝分かれさせ、周辺にいるトレントの根に接続し、魔力を送り込んだ。すると、そのトレントたちに異変が起きたのだった。
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