第21話 ドライアドからの依頼②

 新緑の森に着き、早速新手の木の魔物を倒し、俺たちの前に現れたのは、森を管理する森の精霊ドライアドだった。


「ドライアドって、あのドライアドですか!?」

「どのドライアドかは分かりませんが、多分そのドライアドだと思います」

「あきくん、知ってるの?」

「知ってるも何も、森の精霊ドライアドは精霊の中でも有名だぞ!」


 ゴブリン、スライムに続き、今度は森の精霊ドライアドと出会ってしまった。


「あ、もしかして、俺たちには依頼したのって」

「はい、依頼主は私でございます。ギルドの方から聞いておられませんか?」

「聞いたんですけど、会ってからのお楽しみみたいな感じで詳しくは教えてくれませんでした」

「そうですか。あの人は変わりませんね」

「ギルドのお姉さんと知り合いなんですか?」

「ええ、レミィーとは、昔からの知り合いで、森関係で色々と時々話す仲ですね」

「へぇー」


 ギルドのお姉さんがドライアドと親しいというのに驚いたが、それよりもあのお姉さんの名前が『レミィー』と言うのかという方に興味がいった。

 何回か会って話したりしているが、まだ名前は聞けてなかった。まさか、こんな形で名前を知ることになるとは。報酬の前払いを貰った気分だ。 


♡ ♡ ♡


「クシュンっ!」

「どうしたの? 風邪?」

「いえ、多分、誰かが私の噂をしているわ」

「誰がするのよ」

「イケてる冒険者」

「心配したのが馬鹿みたい」


♡ ♡ ♡


「立ち話も何なので、良ければ家に来てください」

「いいんですか?」

「ええ、構いませんよ。依頼したのは私なのですから」

「では、お言葉に甘えて」


 フルールさんの家まで案内してもらいながら、俺は気になっていたことを聞いた。


「あの聞きたいことがあるんですけど」

「何なりとお聞きください」

「さっき、俺が触れただけであの木の魔物は倒れて、それは俺の力だって言っていましたよね? あれってどういうことですか?」


 そう俺が聞きたかったのは、フルールさんが言っていた俺の力のことだ。

 優奈でも、瞬殺できなかったあの魔物を俺は、触れただけで瞬殺してしまった。

 俺本人でさえどうなっているのか訳が分からなかった。


「そうですね、まず、あの木の魔物の名前は『トレント』と言います」

「トレント」

「そうです。そして、トレントは木の魔物ということもあり、普段は地面に根を張り、大地や自然の栄養を吸収しています」

「そこは普通の木と同じなんですね」

「仕組みは同じですね。ですが、トレントは、大地と自然の栄養以外にもう一つとあるもの栄養にします。それが、魔力です」

「魔力……」

「魔力と言っても、大気中の魔素ですが、トレントは根や葉、樹皮からそれさえも吸収し、自分の栄養にしています。そして、アキラさんの質問に繋がりますが、トレントは移動するとき地中から根を出し移動します。そこにアキラさんが出ている根に触れたことで、アキラさんから大量の栄養・・・・・を吸収してしまい、枯れてしまったのです」


 大量の栄養ということは、俺から大量の魔力を吸収したせいで、枯れてしまったということか。

 恐らく、観葉植物に栄養剤を与えすぎると枯れるのと同じ原理だろう。

 あれ? というか、フルールさん、俺が大量に魔力を持っていることに気付いている?


「あのフルールさん……」

「さ、着きました。ここが私の家です」

「わぁー! 見てみてあきくん、木の家だよ!」

「童話とかに出てきそうな家だな」


 フルールさんの家は、大木を使って作られた木の家だった。

 家の前には花壇があり、そこには薬草が咲いており、裏を見せてもらうと、畑があり、野菜を栽培していた。

 これが、理想の森でのスローライフような気がした。


「さ、中へどうぞ」

「お邪魔します」


 中も木で作られた家具が配置され、本当に木の家だった。


「腰でも掛けていてください。今、お茶を入れますので」

「そんなお構いなく」

「いえいえ、たまにしかこうしてお客さんが来ることがないので、おもてなしさせてください」

「そういうことなら、お願いします」

「はい」


 フルールさんが淹れてくれたお茶は、森で採れたハーブを使ったお茶だった。

 飲むと、街から歩いてきた疲れが一気に取れ、街を出る前よりも元気になった気がする。


「このハーブは、疲労を回復する効果があるんです」

「なるほど。それで、疲れがスッと消えたんですね」

「ここまでの疲れが取れたならよかったです。疲れも癒えたところだ、今回の依頼についてなんですが」

「はい」

「討伐してほしいのは、先程から話に出ている樹木魔トレントの討伐なんです」


 薄々、そんな気はしていた。ここに来るまでも、襲っては来なかったが、他と比べ異質な木を見掛け、優奈もチラホラと木々に紛れていると言っていた。


「それはいいんですが、森にいるトレント全てとなると、難しくないですか? 木に紛れて隠れられる分、なかなか見つけるのも」

「その点は大丈夫です」

「というと?」

「元々、トレント自体はゴブリンやコウルフのようにこの森に存在していたんです。トレントの大木は、頑丈で厚く燃えにくく、建築などで使われたりするので、そこまで厄介扱いはされていません」

「でしたら、依頼のトレントというのは?」

「一体だけ、他のトレントとは違う個体がいるのです。その個体は、とても巨木であり、禍々しい色をしており、辺りの栄養を吸い尽くしてしまい、トレントを生み出すのです。私は、その個体を――キングトレント、と名付けました」

「トレントの王ということですか?」

「はい、トレントたちの王の風格があったので、キングです」


 一度、そのキングトレントを見に行くことにした。

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