4『王樹木魔(キングトレント)討伐』

第20話 ドライアドからの依頼➀

 ポーリさんの一件が終わった四日後のことだった。俺たちは、ギルドに呼ばれた。


「すみません、急のお呼び出し」

「いえ、暇だったので大丈夫ですよ。それより、どうしました?」

「実は、お二人にとある依頼が来ているんです」

「依頼……俺たちにですか?」

「はい。どうやら、先日のスライムダンジョンの件を耳にし、お二人にお願いしたいと」

「ほう、なるほど」

「やったね、あきくん。有名人だよ」


 まさか、こんな早くもちょっとした有名人になるとは。まあ、蓋を開けてみれば、全部優奈の手柄だけど。

 なんか、何回もこれを言っている気がする。そろそろ、俺も自信を持って自分の手柄だと言えるクエストなり依頼なりをクリアしたいものだ。


「依頼と言うのは?」

「詳しい内容は書かれていないのですが、どうやら魔物討伐の依頼らしいです。場所は、ここから南に行った所にある『新緑の森』という森です」

「魔物討伐の依頼で、新緑の森ですか」

「はい。どうします? 依頼はあくまで任意なので、断ることもできますが」

「どうしようか」


 優奈に尋ねる。


「一回、話を聞いてからでもいいんじゃない? もしかしたら、ゴブリンとかスライムとか、コウルフとかの討伐かも知れないよ」

「そうだな。そうするか。一度、その依頼主さんに話を聞いてから決めてもいいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 ということで、俺たちはまたしても新しい森『新緑の森』に向かうことにした。

 元の世界とは違い、この世界はまだまだ緑が広がっているのだと感じた。


 新緑の森までは、徒歩一時間で行けるらしい。その先にある街までの馬車に乗り、途中で降りることもできるが、のんびりと街の外を歩くのもいいだろうと、歩いて行くことにした。


「風が気持ちいいね」

「だな。なんか、スローライフってこんな感じなんだろうなって思う」

「うん、そうだね」


 優奈と手を繋ぎながら、森に向かってのんびりと歩く。


「そう言えば、依頼主さんってどんな人なんだろうね」

「お姉さんは、きっと会ったら驚くって言って、教えてくれなかったけど、そんなにすごい人なんかね」

「森を管理している人とか?」

「あー、なるほど。それは、すごい……のか?」

「わかんない」

「適当だな」

「えへへ」


 街を出て、森と街の中間辺りまで来たところで、少し休憩を挟んだ。


「水球……ごくん、ふぅー。喉が潤う。優奈も飲むか?」

「うん!」

「はい、あーん?」

「あーん……んっんっ。あきくんの味がする」

「しないだろ」


 水球で喉を潤い、景色を眺めていると、馬車が通った。


「おん? お前さんら、何しとるんじゃ?」

「あー、ちょっと、あっちの新緑の森まで用事が」

「ほう、そうかい。まだ少し距離があるわい、乗っていくか?」

「あ、いえ、大丈夫です。のんびり散歩がてら、歩くつもりなんで」

「若いのう。そうじゃな、こんなに天気がよきゃ、散歩も気持ちがええのう。おっと、老人が邪魔したの」

「いえいえ、そんなことないですよ」

「はっはっは。そうじゃ、最近、新緑の森に何やら木の化け物が出るらしからのう、気を付けるじゃぞ。ではのう」

「え? 木の化け物……?」

「もしかして、討伐ってそれかな?」

「俺、急に行くのが嫌になってきたかも」

「大丈夫! 相手が木なら、私の愛で燃やしちゃうから!」

「山火事はゴメンだぞ」

「……たぶん大丈夫!」


 今の間はなんだよ。まあ、木相手なら、俺の火球とか雷球でもどうにかできるかも知れないし、いけるだろ。

 そんな軽い気持ちで、休憩を終わり森に向かった。


♡ ♡ ♡


「わぁ、すごく緑」

「だな、なんかめっちゃ緑だな」


 なんと言えばいいのか、なんかめっちゃ緑が輝く森なのだ。確かに、他の森も緑が生い茂っている。

 しかし、新緑の森というだけあって、この森は他の森よりも緑が多く、天井には緑のカーテンができている。


「ザ・自然って感じだな」

「うん、空気も澄んでいるような気がする」

「確かに」


 キレイな空気を吸いつつ、森の中を歩いていると、突然優奈の足が止まった。


「あきくん分かる?」

「ああ、なんか近くにいるな」


 虚飾の心が反応している。どこかに、俺たちに敵意を向ける奴がいる。

 しかし、周辺を見回すが敵の姿はない。


「おかしいな、どこからか敵意を感じるのに、姿は見えず」

「んー……」


 優奈が一本の木を見つめながら、何か考え込む。


「どうした?」

「なんかね、この木変なの」


 変なお○さんでも出てきそうな言い方だな。


「そうか? 別に普通の木に見えるけど」

「偽りを見透せ――見透す瞳ラブアイ。っ! あきくん、やっぱりこの木普通じゃないよ! この木、生きてる!」

「んな、バカな。木が生きてる……わけ……ないだろ!?」

「ヴォォォヴヴ!!」


 突然木の表面に尖った目とギザギザの歯を生やした口が現れ、枝を振り上げた。

 優奈の言う通り、この木は生きていた。


「あっ! 馬車のおっちゃんが言っていた木の化け物ってこいつのことか!」

「魔物相手なら、遠慮はいらないよね。炭になれ――ラブフレイム」


 木炭にする勢いで優奈がラブフレイムを食らわすと、火が着いた木の化け物は、暴れ回る。

 ヤバい、あのまま暴れれば他の木に火が燃え移る。


「ちょ、ちょっと待て! うわっ!」


 足元の木の根に躓き、そのまま転び、不意に木の化け物の根に触れると、魔物は動きを止め、そのまま葉が枯れ落ち、枝が細くなっていき、腐ってしまった。


「え? え? どうなっての?」

「すごいよあきくん! 触れただけで倒しちゃった! 神の手だよ!」

「いやいや、流石に俺にそんな力はないから」

『いえ、あなたにはその力がありますよ』


 どこからか声が聞こえてきた。しかし、またしても姿は見当たらない。


「優奈も聞こえたか?」

「うん、聞こえた」

「しかし、姿は見えない」

「これは、失礼しました」

「わあっ!」

「びっくりした!」


 俺たちの前に突然、長い蔦のような緑の髪をし、森の緑と同じ色の瞳した女の人が現れた。


「ようそこ、新緑の森にいらっしゃいました、アカイシ・アキラさん、アオバネ・ユウナさん。私は、森の管理者である森の精霊ドライアドのフルールと申します」


 現れたのは森を管理する人ではなく、精霊だった。

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