第18話 薬屋さんのスランプ④

 薬屋に戻ってきた俺たちは、早速調合を始めた。


「閃き草を使って作る薬は閃き薬という薬です」

「閃き薬ですか。材料は、閃き薬以外に何か使うんですか?」

「はい。閃き草に加え、癒し草と音色草を使います」


 音色草は、ポーリさんが森で見つけた薬草だ。花弁が音符のような形をした花だ。


「まず、癒し草を磨り潰し、こちらの清水に漬けて置きます。そうすると、回復薬ができるので、そこにこのカットした閃き草を入れ混ぜます。最後に、音色草から出る粘液と混ぜ、十分程置いておきます。

 これが、一応閃き薬の工程になります」

「どうだ? 優奈、できそう?」

「うん。多分できると思う」


 ポーリさん、優奈でそれぞれ閃き薬を作っていく。その間、俺は、特にすることがないので、ポーリさんが今まで作っていた薬を見せてもらうことにした。


「これが回復薬で、こっちが麻痺薬。んで、これが麻痺を治す薬か」


 鑑定で調べて見るが、調合魔術を持っていないからか、なんの薬草を使って作られているかは、分からない。

 優奈は、ラブアイで見たら、薬の名前と効果と材料が出たみたいだけど。

 調合魔術を持っているからか、そもそもラブアイの性能が良過ぎるのか。

 ま、どちらにせよ、これで優奈も薬が作れるようになれば、今後の生活に役立てそうだ。


 魔力回復薬を作れたら、優奈の魔力問題も解決しそう……だと思ったけど、多分作らないだろうな。キスする口実がなくなるし。


 なんやなんかと、独り言を言っているうちに出来たみたいだ。


「後は十分程置けば完成です」

「そうですか」

「ねえねえ、あきくん!」

「ん? なんだ?」

「なんか、知らないうちに愛の調合ラブミキシングに、レシピが増えてたよ」

「あー、多分それは、色々な薬草に触れたから、自動的に魔術が解析して、増えたんだと思います」

「触れるだけで、レシピって増えるんだ」

「はい、それが調合魔術の特性みたいなものなので」

「すごいね、あきくん」


 そして、十分程待って、薬は出来上がった。出来上がった薬を見ると、飴のような薬だった。


「飴みたいですね」

「はい、閃き薬は、主に勉強をするときなどに使う薬なので、舐めながら少しずつ溶かしていき、徐々に頭の回転力を上げていくんです」


 ポーションのように液体状にして作ることもできるが、そうすると一気に頭の回転力を上げることになり、脳へと負担が心配されるらしい。だから、脳への負担を考え、飴型になった。

 癒し草を使っているのは、そんな脳への負担を緩和するためだ。薬一つでよく考えられていると思った。


「薬は、人を苦しめるのではなく、苦しみから助ける為にあるので。と、言いましても、中には苦しめる薬も存在するんですけどね」

「あー、麻痺薬とかですか?」

「そういう類いですね。でも、麻痺薬と一言に言っても、効果の強さで使い方は変わってくるので。麻酔薬にもなりますし、気絶薬にもなります」

「奥が深い……」

「はい、薬は奥が深いです。ですが、それが薬の面白いところです」

「本当に薬作りが好きなんですね」

「ええ、好きです。私自身、幼い頃、重い病気に掛り、町医者さんは治せないと言いましたが、とある調合師さんが作った薬を飲むと治ったんです。それで、私も人を救える薬を作りたいと思い、調合の勉強を初め、今があります。

 まあ、絶賛スランプ中ですが。あはは……」

「そうだったんですか。大丈夫ですよ! それを治す為に、閃き薬を作ったんですから。人を救う薬なら、ポーリを含まれているんですから」

「そうですね。ありがとうございます。では、早速試してみようと思います」


 出来た薬を口に入れ、コロコロと転がしながら、飴を溶かしていく。


「どうですか?」

「なんだか、頭に掛かった靄が少しずつ晴れていくような気がします。今なら、作れるかも知れません!」

「でしたら、早速作ってみてください」

「はい!」


 俺たちは邪魔しちゃいけないと思い、昼ご飯を食べに行った。


♡ ♡ ♡


「パスタ美味しかったね」

「チーズがめっちゃ伸びたよな」

「あれすごかったよね」


 あれから、昼ご飯を食べ、軽く買い物に行っていると約二時間が経っていた。


「ポーリさん、調子はどうです……か?」

「あー、アキトさーん……あははは! 見てくださーぃ! こんなに出来ましぁぁーー。あはは!」


 ポーリさんの様子がおかしかった。目は血走り、妙に上機嫌というか、テンションがおかしい。まさかと思い、二時間前に作った閃き薬を見た。

 ポーリさんと優奈で合わせては作った数は八個。そして、ポーリさん曰く、閃き薬は一個で三十分効果が出るらしい。

 現在残っている数は、二つ。つまり、ポーリさんは、この二時間で六つ、一時間分多く摂取したことになる。


「優奈! ポーリさんの異常とかわかるか!」

「見てみる。彼の者の異常を見透せ――見透す瞳ラブアイ。っ! あきくん、分かったよ」

「教えてくれ」

「『薬物過剰摂取オーバードーズ』だって」

「やっぱりか。なんで……薬は苦しみから助けるものじゃないのかよ」


 いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。まずは、ポーリさんを助け、話はそれからだ。


「優奈、治せるか?」

「治せるよ。その前に……んっ」

「治せるって言い切るのかよ。すげぇーな。んっ」

「わぁ〜、おふぅたりさぁん、おぁちゅぃですねぇ〜」

「もう、あきくんに迷惑掛けちゃダメだよ。ほら、治してあげる――愛の治癒ラブヒーリング

「わぁ〜、きれぇなぁひ……か……り……」

「おっと。危ない」


 薬の効果が切れたのか、ポーリさんは意識を失い倒れそうになった。


「治ったけど、頭痛とかは残るかも」

「まあ、薬さえどうにかなればいいよ。ありがとう」

「うん」


 念の為、ギルドにも見てもらおうと、ポーリさんを背負ってギルドまで運んだ。

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