3『薬屋さんのスランプ』

第15話 薬屋さんのスランプ➀

 翌日、目が覚めると、いつも腕にあるあの柔らかい感触がなかった。

 珍しく、先に起きてどこかに行っているのか思ったが、優奈は隣で寝ていた。


「あ、あきくん、おはよー」

「おはよー。どうしたんだ? いつも腕に抱き着いているのに」

「いやー、あはは……。それがね、昨日の魔術がまだ響いているみたいで、体が動かないの」

「おいおい、大丈夫……じゃないか」

「たぶん、魔力が足りてないんだと思うの」

「だったら、キスするか?」

「すごくしたいけど、キスだけじゃ足りないかも」

「そんなに消費しているのか」


 昨日、迷宮ボスに使った新魔術――恋・愛・結アフロディテは、優奈が創った魔術の中でも、一番魔力消費が激しいようだ。

 愛の巣ラブルームとか百万倍の愛情ヘビーラブとかも、魔力消費は多いけど、キスで魔力さえチャージすれば使えるが、アフロディテは、一日一回ぐらいしか使えなさそうだな。


 優奈は、俺の為なら、平気で無理するから、目を離せないんだよな。まあ、そもそも、無理させる俺が悪いけど。


「ま、今日一日ゆっくり寝とけ」

「あきくんは?」

「俺は、なんか魔力を回復させる方法がないか調べてくる」

「だったら、私も……体が動かない」

「お前の為に調べるんだから、お前がさらに無理したら意味ないだろ。

 全く。たまには、俺に甘えろ。つーわけで、大人しく寝とけよ」

「うぅー、はーい」


 本当に大人しく寝ているか、怪しいため、出掛ける前に、レイラちゃんに声を掛けておいた。


 そして、俺はと言うと、いつも通り何か困り事があれば行くギルドに向かった。


「魔力を回復させる方法ですか?」

「はい。ちょっと、優奈が魔力使い過ぎてへばっていて」

「そうですね。魔力を回復させる方法としては、休んで自然回復か、回復薬ポーションを使った方法がありますよ」

「ポーションですか。薬屋さんとかで買えます?」

「買えますよ。あー、そういえば、今、薬屋さん休業中なんでした」


 そういや、確か、この前レイラちゃんもそんなことを言っていたな。


「いつから休業しているんですか?」

「そうですね。確か、四ヶ月近く休業中ですね」

「そんなにも」

「ええ。時々、ギルドに顔を見せには来てくださるんですけど」

「そうなんですか」

「ええ。アキラさんも、この間お見かけしましたよ?」


 見掛けたって? っていうか、俺が異世界に来たのって、つい最近だから、そもそも薬屋さんの顔どころか場所も知らないんだよな。


「えっと、髪が乱れて、眼鏡を掛けた女性ですよ」


 髪が乱れて、眼鏡を掛けた女性……ああ! 思い出した! 前に優奈と買い物デートしてた時にギルドから出てきたあの人か!


「思い出しました。なんか、疲れた顔をしてましたね」

「ええ、最近、薬作りが上手くいっていないらしいんです」

「薬作りが」

「はい。街にある薬屋さんは、あの人のお店しかないので、ギルドでも助けになれることがあれば、助けにはなりたいんですが、ギルドにできることは、依頼を募集することだけなので、あまりお役には立てていないのが正直な話なんですけどね」

「なるほどー。因みに、薬屋さんは何の募集をしているんですか?」


 薬作りが上手くいっていないなら、薬作りの知識がある人の募集とかだろうか?


「募集自体は、アキラさんも前に受けていらっしゃった薬草採取の依頼ですよ」

「そう言えば、あの依頼薬屋さんからの依頼でしたね」

「はい。量もそれなりにあり、品質も高く、大変喜んでいましたよ」

「それは良かったです」


 まあ、全部優奈の手柄だけど。


「俺たち以外にも、その依頼を受けている人はいるんですか?」

「残念ながらいないんですよ。皆さん、魔物討伐のクエストばかりで、薬草採取の依頼は、地味であまり報酬が貰えないので受けないんです」

「それはまた困った話ですね」

「はい、ほんと困った話です」


 確かに薬草採取は、地味だし、探すのも面倒だし、その割には報酬は高くない。

 それに比べ、魔物討伐は、クエスト代と討伐数代の報酬が貰える。それに、こちらの方が面白い。


 どこの世界でも、地味で面倒なものは、後回しにされやすいようだ。


「分かりました、色々ありがとうございます」

「いえ、また何かあれば、いらっしゃってください」

「はい。では……あ、その前に、一応薬屋さんの場所だけ教えてもらっていいですか?」

「はい、構いませんよ」


 お姉さんに薬屋さんの場所を教えてもらい、ギルドを後にし、一度宿に帰ってき、ギルドで聞いた話を優奈に話した。


「あの人薬屋さんだったんだね」

「うん、そうみたい」

「話を聞く限り、スランプっぽいね」

「やっぱりそうだよな。薬屋は、一軒しかないみたいだから、みんな困っているみたいだけど、今回ばかりは、俺たちじゃどうにもできないしな」

「薬の知識なんてないから、どうしようもないね。精々、少しでも薬草を採ってくるぐらいだね」

「そうだな」


 ヘタに手伝うと言っても、薬の知識が全くないど素人に何ができるんだって話だ。

 優奈の言う通り、俺たちにできることは、少しでも薬草を採ってくることだけだ。


「するの? 薬草採取のクエスト」

「今は金に余裕もあるし、そんな焦って稼げるクエストを受ける必要もないし、時々暇潰しに受けてようかとは思ってる」

「一人で大丈夫? 私も一緒に行きたいけど、暫くは動けそうにないよ?」

「薬草採取ぐらい一人で大丈夫だよ。だから、優奈はゆくっり体休めな」

「うん、わかった。無理だけはしないでね」

「わかってるよ」


 取り敢えず、今日は特にすることがないので、軽く薬草採取のクエストを受けた。


♡ ♡ ♡


 薬草採取しに、森に来たもののこの草花だらけの森から薬草を探すのは大変だ。

 前は優奈のラブアイのお蔭で、さくっと見つけられたが……ヤバい、早速挫折しそう。


「取り敢えず――《鑑定》」


 ギルドのお姉さんから、前回の薬草に加え森で採れる薬草を教えてもらい、近くにそれらしき薬草があったりしないかと、鑑定を使ってみた。


「うん! ない! あー、やっぱやめておけばよかったかも知れない」


 ギルドで受けたクエストは、一度受けても取り消すことができる。その際、お金を取られるとか、実績に響くなどのマイナスになることはない。

 けど、前回クリアして、あの話を聞いた後で、やっぱりやめますとは言いづらい。


「まあ、別に、期限は一週間あるし、気長に探そう」


 優奈ばかりに頼っているのも駄目だと思う所もあり、今回は一人で頑張ってみようと思った。

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