第14話 スライムダンジョン攻略・後編

「散々な目に遭った」

「大変だったね」


 まあ、元はと言えば調子に乗った俺が悪いわけだが、取り敢えず、気を取り直し、下階層へとやって来た。地下六階層だ。


「あまり魔物の気配しないよ」

「いないのか?」


 魔物がいない階層なんてあるんだろうか。何であろうと、さっきみたいなへましなように、気を引き締めていく。

 進んでいると、遠くからボヨンボヨンと空気が振動しているのを感じた。


「あきくん、この先にいるよ」

「わかってる。今度こそ油断しないさ」


 先に進んでいくと、そこにはあの服を溶かす紫色のスライムがいた。それも、あの五階層にいたデカいスライムバージョンだ。


 周りには、溶けかけたスライムが弱っていた。

 スライムがいないと思ったら、どうやらあいつが他のスライムを溶かしていたようだ。


「デカくなった分、溶かす力も強くなっているのか」

「近付くだけでも危険だね」

「だな。でも、あいつが道を塞いでいてスルーすることはできない」


 溶かされるのが服だけまだしも、皮膚まで溶かされたら洒落にならないぞ。


「ずらぁぁ?」

「まずい、気付かれた」

「取り敢えず、ラブルーム展開するね。ラブルー……大変だよ、あきくん!」

「これ以上大変なことがあるのか!?」

「さっきので、殆どの魔力使い果たして、もう残ってない」

「……つまり?」

「ラブルーム使えない」

「マジか……一先ず、逃げるぞ!」

「わかった!」


 作戦を考えるべく、五階層に戻ってきた。


「どうする?」

「んー、そうだな。ラブルームで攻撃を防いでも、倒せないと意味ないからな」

「じゃあ、また、ヘビーラブで潰しちゃう?」

「飛び散った液体が危なそうだから、それは無しで」


 といっても、ヘビーラブに限らず、ラスサンダーも弾けるし、俺の魔術であれは倒せないし。ラブフレイムなら、どうだろうか?


「ラブフレイムなら、安全に倒せそうじゃないか?」

「わかった、やってみる」


 魔力チャージを済ませ、紫スライムの所に戻ってきた。


「ずらぁぁ」

「いくよ。愛の炎で燃えちゃえ――愛の炎ラブフレイム

「ずらっ! ずらぁぁぁぁ!」

「なに!?」


 跳ねるしかできないと思っていたスライムは、紫色の液体を水鉄砲のように吐いてきた。

 ラブフレイムと液体がぶつかり合い、互いを打ち消し合った。


「これは、予想外だ」

「ずらぁぁ!」

「危ないっ! ラブルーム」


 寸前のところで、スライムの攻撃は防がれた。


「助かったよ」

「どういたしまして」

「このラブルームって、あのスライムの攻撃も防げるんだな」


 同種スライムさえ溶かす液体を防ぐ絶対防御。すげぇー。ん? いや、待てよ? もしかして、これ、案外簡単に倒せるんじゃないか?

 もし、俺が考えている通りにいくなら、優奈にはだいぶ頑張ってもらうことになるけど。


「なあ、優奈」

「どうしたの?」

「このラブルームをさ、俺たちじゃなくて、あいつにすることってできるか?」

「あのスライムを守るの?」

「いや、守るっつーか、閉じ込める感じ」

「うーん、たぶんできるよ? 閉じ込めてどうするの?」

「要はさ、あいつを倒したときに飛び散る液体を最小限に抑えられたらいいわけじゃん? だから、ラブルーム内で倒せたら……」

「液体が周りに飛び散ることなく、安全に倒せるんだね!」

「そうだけど、最後まで言わせて? けど、そうなると、優奈にだいぶ頑張ってもらうことになるんだけど」

「うん、任せて! あきくんのためなら、私沢山頑張れるから!」

「無理しない程度にな。って、無理させてるの俺だけど」



 また、一度五階層に戻り、優奈の魔力をいつもより多めに溜めてから、作戦に移った。


「じゃあ、いくよ。展開――愛の巣ラブルーム。からの、愛情の大きさを食らえ――百万倍の愛情ヘビーラブ


 巨大紫スライムをラブルーム内に閉じ込め、ラブルーム内の重力だけ重くし、スライムを倒す作戦だ。

 五階層での逆バージョンだ。


「ずらぁ……ずらぁぁ!」

「あのスライム、重力に逆らおうってしてくる」

「一筋縄で倒されるかって言う感じだな。優奈は大丈夫か?」

「うん、魔力にはだいぶ余裕あるから大丈夫そう」

「そうか。無理そうなら、言ってくれ。他の作戦を考えるから」

「わかった!」


 優奈とスライムの戦いは五分程度続き、スライムは対に重力に負け、ラブルーム内に液体を飛び散らかし潰れた。


「はぁーはぁー……やったよ、あきくん」

「ああ、ありがとう。ごめんな、無理させて」

「ううん、大丈夫だよ。えへへ」


 優奈の頭を撫でてやり、休憩してから攻略を進めた。


♡ ♡ ♡


「もう大丈夫だよ」

「なら、行くか」

「うん」


 地面に溜まった液体を避けながら道を進んでいき、下階層へ続く階段を見つけ、降りていく。


 少し進んでいくと、今までとは違った広い空間に出た。

 そして、そこには、今までより一番デカく、中ぐらいサイズのスライムの四、五倍もある超巨大スライムがいた。


「すらぁぁぁぁあああ!!」

「恐らく、こいつが迷宮ボスだろうな」

「大っきい」


 こいつが迷宮ボスじゃなかったら、絶望ものだ。


「どうやって倒す? さっきと同じ作戦でいく?」

「いや、流石に時間が掛かり過ぎるし、何より、優奈の負担が心配だ。ここは、地味に削っていくしか」

「ふへ、ふへへへ……あきくんが私のことで頭いっぱいにしてくれる♡ えへへへ♡」

「えっと、優奈さん?」

「もうその気持ちだけで十分だよ♡ 魔術創作――恋・愛・結アフロディテ。溢れる愛情――アフロディテ♡」


 優奈から放たれた巨大スライムに負けないぐらいの巨大な愛情ハートは、スライムの胴体を貫き、スライムにハート型の穴が空き、呆気なく倒してしまった。


「ふへへ……へっ――」

「ち、ちょう優奈っ!」

「へへ、ちょっと頑張り過ぎっちゃった」


 優奈がフラつき後ろに倒れそうになったところを受け止めた。


「まったく。まあ、助かったよ、ありがとう」

「うん」


 その後、迷宮ボスを倒した影響か、迷宮は元の洞窟に戻り、帰り道は一本道だった。

 優奈を背負って、宿まで帰ってき、今日はそのまま寝た。

 その翌日、ギルドに迷宮ボスを倒したことを報告し、報酬五百アイを受け取った。


 そして、俺たちは、本当に全て解決して元スライム洞窟に来ていた。


「そう言えば、結局あれは噂だったね」

「あれ?」

「うん。千アイもするアイテムを落とす金のスライム」

「あー、そういや、そんな噂も一緒に流れていたよな。まあ、それの方が余っ程スライム洞窟より噂っぽいよな」

「だね。でも、本当にいたら、夢広がるよねぇー」

「だな。ま、今は二千アイ以上もあるし、いいじゃねーか」

「そうだね」


 結局、金のスライムだけは、完全なる噂だった……?


「スラ?」

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